最初の町はトラブル多発区域

1ー1

 俺、有川楓路ありかわふうろ。現代日本人としては中々キラキラなネーミングをしているが、性別は男の元学生。

 元というのは、決して中退したとかではない。その真相はというと、死んでしまったことにより、今し方異世界で第二の人生を歩むことになった故に『元』なのである。


 目的地は目と鼻の先にある町。そこへ行く前に、この世界で生きるに当たって俺個人のプロフィールを再設定している。

 俺の目の前に表示されている青色の画面は、神座の間で技能の神様にリクエストしたチートの一つ。ステータス画面だ。


『有川楓路(Lv.1) 18歳 男 職業:無職 状態:通常 精神:興奮(中) 他詳細』


 今確認出来るのは、俺の名前と現在レベル。年齢、職業から状態。この精神ってのはおそらくSAN値的な物だと思われる。

 この他詳細を開くと体力HP魔力MPを表していると思われるニ本のケージがある。他は画面の多くが空白のみの構成となっていた。一部情報の書き換えも可能な様なので、俺はこの異世界では浮くであろう、現在の名前の変更中である。


「とりあえず、この世界で俺の名前はフウロにしておこう。今回ばかりはキラキラネームで助かったぜ」


 俺の氏名『楓路』。かえでに路と書いて『フウロ』。親曰く、楓の花言葉の「美しい変化」を辿る「みち」を歩く、という意味。まぁ、生前は大した変化も無く、交通事故で没命という結末になってしまったが。

 折角親が決めてくれた名前通りにならずに終わってしまった人生。こうして生き返って──外見上は生前のままなので比喩的表現だが──人生をやり直せるならば、また同じ名を持ってもいいだろう。


 ネームの欄に触れると、スッと浮かび出るのは半透明のキーボード。

 何故にキーボード何だろうか。俺的に言えば、音声や思考で変更出来る仕様がステータス系の普通だからか、手打ち変更とはある意味新しい。


「『FU』『U』『RO』、『フウロ』と。これで名前の変更は完了だな。後は──」


 リネームを終えて次の作業に移行。それは勿論、二つ目のチートについてだ。


「魔法を創り出す魔法『ビルド』──それが、この俺が頼んだチートだ」


 二つ目に悩みあぐねた際、技能の神様が出してくれたチート一覧に載っていたいくつかの能力。その中から数種を選び、組み合わせたのが、この魔法だ。

 俺は、二つ目のチートを神様に頼んだ時のことを思い浮かべる。







「二つ目は、魔法を創り出せる魔法を俺に付けてくれ!」

「魔法を創り出す魔法? ふむ、詳細を訊こうか」


 このリクエストに、技能の神様は顎を摘んで詳しい説明を俺に求めた。

 まぁ、分かりやすく言えば、読んで字の如く。魔法を創り出す魔法によって、新しい『魔法』を誕生させる創作系の能力だ。


「例えば、俺が行く世界で水の中でも呼吸を可能にする魔法があったとする。だけど、水圧に耐えるまでの効果がないから、深い所までは潜ることが出来ない。よって、水中呼吸は浅い所でしか活躍の幅は無いし、そもそも水の無い場所だと需要が一切無くなる。そこで、俺の魔法で水圧耐性の魔法を創って使えば、深海とかでも活動の幅を広げられることが可能となる」

「とどのつまり、微妙な魔法を便利な魔法にしたり、めちゃ強な魔法を創ったりして周りからちやほやされたいってことか」

「そうそう、チーレム俺TUEEEルートにトップスピードで……って、違うわい!!」


 くそう、この神様はやはり毒舌というか辛辣なセリフで急所を突いてきやがる。事実故に反論もやりづらい。

 それはともかく、俺のリクエストはそういった感じ。魔法を作成出来る力があれば、ある程度のチート魔法なら再現が可能だろうし、折角ステータス画面があるのだ。ゲームさながら大量の魔法がびっしり載っている光景も見てみたい。


「うーん……」


 しかし、そんな俺の胸中とは裏腹に、技能の神様の表情は固い。

 もしかしたら、この能力は了承不可なのだろうか。まぁ、魔法を創るということは、俺のイメージや都合が強く絡む。時と場合によっては人道に反する魔法まで創ってしまい兼ねないので、その辺りを考えているのだろう。


 しばらく悩む素振りをしていると、技能の神様はその糸の様な目を別方向に向ける。

 俺も釣られてその先に視線を向けると、そこには舌打ち仙人こと命の神様が居た。

 そして、その仙人は技能の神様からのアイコンタクトを受け取り、「オッケー」のサインを掲示。


「分かった。有川楓路君のその望み、聞き入れたよ」

「えっ。いや、それはそれでありがたいけど、え? 今のアイコンタクトは何?」

「気にすることはないさ。ただ、その望みではこの先の将来に不安が残る可能性を懸念しただけだ」


 あ、やっぱり。どうやらそれについて考えていた模様だ。

 ただでさえ人生を楽にしかねない能力をいくつか与えられているのに、魔法を創ってしまう力が手に入ってしまえば温ま湯人生となってしまうだろう。

 あのやり取りでそれを了承するのかと思うと、実はそこまで然したる問題では無かったのではないかと思うが、そんなことはないらしい。


「その能力は強すぎる。だから、少しだけ制限を掛けさせてもらうよ」

「制限?」

「そう。一つは一部魔法の創造不可。どの類いが創れない魔法なのかは異世界あっちで確認してくれ。それともう一つ。ステータスにあるレベルに応じて創り出せる強さの魔法にロックを掛けた。最初から強すぎる魔法を創れたらつまらないしね。レベルはゲームに準じて戦闘とかで経験を貯めれば上がるようにしたから。それじゃあ、いよいよ異世界転生だ。あちらへどうぞー」







 てな訳だ。流石に最初から温いスタートを切ることは許されなかったのが現状である。

 最初から俺TUEEE出来ないのは些か悔やまれるが、まぁ良いだろう。


「それにしても制限か……。現状レベル1の俺に何の魔法が創れるのか」


 説明書や攻略サイトも無い以上、可か不可かの判別は手探りで明らかにする他無い。俺は早速、考察も含め頭の中でイメージをしてみる。


「レベル1ってことは、確実にメ自主規制とかブリ自主規制ドみたいな初期タイプの簡単な魔法になるよな。じゃあ……」


 俺は自分がプレイしたことのあるゲームを参考にイメージを開始。手を前方に突き出し、手のひらを表に。脳内映像で構築される異世界転生初めて創造する魔法。


「『ビルド』!」


 能力起動の詠唱をした直後、俺の手に変化が起きる。

 空に向けていた手のひらの上に、拳大の大きさをした水の塊が生成された。成功だ。

 使い道はともかく、初めてにしては上出来だと我ながら思う。

 ばしゃん、と水塊が弾けると、ステータス画面が勝手に開いた。そして、その画面に文字が表記されている。


『新しい魔法を創造しました。ネームを決定して下さい』


「ふーん。創ったら登録出来るって訳か。マジでゲームっぽいな」


 とりあえず仮称として『水塊すいかい』と付けた。我ながら直喩すぎたか?

 そんなこんなで初めて創った魔法は、画面の下半分を占めていた空白部分に名前が載った。やはりここが創った魔法を表示する部分だった様である。

 あらかた画面の役割を理解したところで、早速登録した魔法を再使用する。


「『水塊』!」


 ばしゃっ、と先と同じ様に少量の水の塊が生成された。なるほど。どうやらここからいつでも使うことが可能と見た。

 そこから何度か繰り返して分かったが、画面に出ている名前を触れる。画面を開かずに登録した名前を言う。他数種の方法を選択しても、出る魔法の質や勢いといったのは同じだ。

 唯一の違いを挙げると、画面表示中の場合だと、魔法を使った際にきちんとMPバーが減少したのを確認したくらいである。


「ま、今日はこんなところだろ。それより、早く町の方に行かねぇと」


 自分に与えられたチートの確認は今日の分は終了。続きは次以降だ。

 俺は再び足を動かし、今日の宿泊先を見つけるために町への道を辿り始めた。

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