1ー7

 数時間が経過し、外の光は大分傾いてきた。もうすぐ夜だ。

 その間に創った魔法の数は全五種。何度も創造不可のエラーを出しつつも、試行錯誤をして創った物達である。


 まずは『炎塊』『風塊』『土塊』。一番最初に創り出した『水塊』の各属性版。発動の際に壁やベッドを焦がしそうになったり、内装を汚しそうになったりしたのは秘密だ。

 これらを創造した際に気付いたことがある。それは、手の平の上で発動するこれらは、何故か『チャーム』の様に飛ばして攻撃することが出来なかったのだ。


 それに気付いた後、『ビルド』で前方に飛ばせる仕様に新しく創り直そうとしたが、創造不可の文字が出てきて創り直すことは出来なかった。

 恐らく『ビルド』という魔法はレベルが低い内でも高レベル要求の魔法を創ることは出来るが、限り無く理想に近い魔法を創るには、その魔法にいくつも『枷』を課すことによって理想の魔法に近付けさせていくことが出来ると推測した。

 要は作りたい魔法にとってマイナスとなる効果をあえて付け加えることによって、本来は高レベルを要求する魔法を擬似的に創造出来るということ。これらの現象をイメージコストの加減と呼称する。


 話は戻り、次に創ったのは『スチーム』『泥塊』の二つ。これは、攻撃用に創れない魔法に疑念を抱いた後に、基本的な魔法という範囲内かつ非攻撃用なら魔法同士を組み合わせて創れないかと模索した成功例達だ。

 それぞれの組み合わせた元の魔法と能力は『炎塊』と『水塊』で『スチーム』となり、手から水蒸気を出す魔法になった。『土塊』と『水塊』で組み合わせた『泥塊』は手から泥を出す魔法。名称通りである。『風塊』? あれは風自体が目に見えないから何と組み合わせるか迷ったんだよ。仲間外れじゃねぇよ……。


 ま、大体こんな感じだ。ぶっちゃけレベル不足を思い知った数時間だった。

 しかし、現状まともな攻撃魔法が創れないという事実。これは早急にレベリングをしなくてなならない。

 だが、悲しいことに俺には武術の心得というのは無い。武器も自在ほうきでカンフー映画のアクションの真似事くらいしかやったことがない以上、これらも鍛えないとチート有りとはいえこの世界で生き抜くには厳しくなる。


「だよな。うん。せめて武器くらい持っててもいいよな」


 そう思い立った俺は、夕闇が濃くなりつつある町へと繰り出した。

 目的地は武器屋。レフカからは町案内はされたものの、武器屋までの道は教えてもらえなかった故に独力で探す。

 聞き込みは捜査の基本だ。


「すいません。この町で武器とか売ってる店ってどこにあるか分かる?」

「……それを俺に訊くのか」


 はぁ、と訊ねた青果店店主ため息を吐かれてしまった。うむ、流石に店をやってる所で取り扱う物が違うとはいえ、他店の情報を訊くのはマナー違反だったか。

 とりあえず、聞くだけ聞いてサヨウナラ、なんて出来るわけないので、俺は手持ちの中から大銀貨を一枚店主へと渡す。


「夜はまだ食べてないんだ。それとそれ、あとこれも買った」

「……毎度あり」


 コンビニでトイレだけ借りるだけじゃ申し訳ない気持ちになって少しだけ買い物する気分で、青果店の品を数個購入。客としてなら店主も文句は言えまい。

 冷やかしでは無くなった俺は、購入物の入った紙袋と同時にお釣りを受け取る。銀貨を一枚、大銅貨を四枚、小さい銅貨を五枚だ。


「……武器屋はギルドの向かいにある」


 そう小さく独り言の様に目的の場所を呟いた店主。何気の無い優しさがありがてぇ。

 ツンデレ気質な青果店のおじさんに感謝しつつ、判明した武器屋の場所。俺は早速買った果物をかじりながらギルドまでの道のりを辿り始めた。

 ものの数分でギルドへと到着し、情報通り向かいの建物を見てみる。


「あそこかな?」


 目を付けた一軒家を見ると、開けっ放しの扉の先から炎らしき光と金属を叩く音が聞こえた。昼前は何も聞こえなかったから分からなかったぜ。

 恐らく、ここが武器屋なのだろう。こういったファンタジー世界では鍛冶屋も同時に経営しているのが普通というかテンプレなので、そうであって欲しいと願いつつ入店。


「ごめんくださーい」

「はいはい。いらっしゃい」

「あー、あの。ここって武器屋……だよね?」


 中に入ると、他の客は居なかったが内には大量の武器が飾られてあった。色んな長さの剣や槍、ハルバード等の大型武器から見たことのない形の物まで品揃えは多い。

 そして、鉄を打ち付ける音をBGMに店内を見ていた俺の接客に出たのは、年若い赤毛の女性。美人かどうかは人に寄るだろうが、そばかすと長いお下げがチャームポイントだ。

 ここに来た目的を告げると、店員は一瞬苦しい表情を見せた後、頭を悩ませ始めた。あれ、これって来ちゃ駄目だったパターン?


「あー、うん。ここは武具屋だけど……。ちなみに何を買うつもりなの?」

「ああ。いや、武器を買いに。出来れば使いやすいのを」

「やっぱり……。うーん。でも折角買いに来てくれたんだし一つくらい……うーん」


 えっえっえっ、何か急に悩み始めたぞこの人。やっぱり来ちゃ駄目だったパターンみたいだ。

 俺の回答にしばらく悩んだ店員は、俺に「ちょっと待ってて」と制止を掛け、店の奥へと入っていった。

 何かあったというか、絶対に何か起きてるな。この店。今の呟きに『一つくらい』という言葉があるのを察するに、この店の武器に要因があると考えられる。

 しばらくして、店の奥から鳴っていた金属音は無くなると、奥の部屋から先の店員の他に……おお、無骨な鍛冶士の男性が出てきた。でかい。


「あの……もしかすると納得しないと思ったから、お兄……じゃなくてここの武器を全部作ってる店主を連れて来たわ。……ごめん、お兄ちゃん。説明して上げて」


 その言葉『お兄ちゃん』。あ、ふーん。なるほど、そういうことでしたか。

 このでかい鍛冶士、どうやらこの店員の兄上にして店長らしい。兄妹で経営してるのか。

 そんな兄は妹の耳打ちに無言でうなずくと、俺の前に立ちはだかる様に接近してきた。迫力がすごい……。


「お客様。申し訳有りませんが、実はとある依頼を私らは受けておりまして、ここにある武器は全て国にお渡しすることとなっているのです」


 鍛冶士はその重低音の丁寧口調で俺に説明をしてくれた。

 聞く話によると、何でも王都から各領地を治める領主を通して全ギルド公認の武具屋に武器を所持している分渡さなければならない依頼を受けたのだという。それで、ここに展示されている武器や、現在制作中の武器も全て王都に引き払われる予定とのこと。

 武器屋にしては人が居ないとは思ってはいたが、それが理由にあったのが原因らしい。

 にしても物騒な依頼だな。戦争にでも使うのか?


「そういった理由がございまして、申し訳ありませんがお客様にお渡し出来る武器は無いのです。いくら国からの依頼とはいえ、本来はこの様なことはあってはならないのですが、武器をお買い求めているのでしたら、他を当たっていただければと……」

「そ、そっか。大変なんだな、武器屋も」


 うーん。終始丁寧に説明されたせいか、この武器屋兄妹に怒りではなく慰労の意を示したくなったぞ。どの世界でも、無理な注文をする輩ってのは存在するんだな。

 この異世界のブラックさが垣間見えたところで、本題は路頭に迷うこととなった。

 少なくとも、この町にある武器屋はここ以外に知らない上に、あったとしても同様の理由で買えないはず。剣とか使ってみたかったんだけどな……。


「防具や鎧一式ならお売りすることが出来るのですが……いかがですか?」

「防具かぁ……。うーん」


 流石に防具はいらないな。かさばるし、第一に俺は旅人──にさせられた男。あまり重い物は持ち運べない。

 こういう状況なら買うのは諦めるしかないな。無理に物を買うのも得策では無い。何もしないのも、また何かをすることなのだ。

 残念と思いながら、鍛冶士の言葉をやんわり断ろうとした時、俺の目にある物が止まった。

 それは、奥の部屋に続く扉の側に立て掛けてあった数本の木材。太さや長さはまちまちだが、薪にしては大きすぎるよな。


「あれは何?」

「ああ、あれは槍の柄です。ここで作る槍は安価で済ませるために柄を丈夫でしなやかなリュゼンの木を使っています。あれはその規格外の物でして、商品などでは……」


 ふむ、槍の柄とな。どれ、手に取って確かめてみよう。

 俺はその規格外の槍柄を手に取る。うん、表面はざらざらとしているが、説明通りに硬そうだ。流石兵器の王様なんて呼ばれる槍の素材。規格外でもしっかりとしている。


「……鍛冶士さん。これ、売るとしたらいくらで売る?」

「は? 品物として、ですか? いえ、先ほども言いましたが、それは商品などでは……」

「売るとしたら、だよ」

「ううむ……、では原価と同じ銅貨三枚、くらいですかね」

「そっか。じゃあ買った。一本くれ」

「ええっ!? 話聞いてました!?」


 そう、こいつは買いだ。規格外でも銅貨三枚なら安い。と、思う。

 そんな俺の宣言に、鍛冶士とその妹は大層な驚きを見せている。そりゃそうだ。俺の言っているのは、いわばゴミを原価で買い取ると言っている様な物。驚かれて当然だ。

 でも、俺はこれが良い。素人目で見ても、買い取るには十分の値打ちがあると思っている。


「いいじゃん。俺はここの武器を買いに来たのに無かったんだから。これを売ってくれれば、今後の旅でも良い杖にもなりそうなんだが……?」

「旅、ということは、旅人の方でしたか。ううむ、ですが……」


 鍛冶士は未だ売るのを渋っているみたいだ。俗に言う職人のプライドってやつか。

 そんな兄の様子を見ていた妹の店員は、何かに気付いた模様。そして、耳打ちで伝えるために兄の向く方向を変えてひそひそと伝え始めた。


「ねぇ、気付いたんだけど、あの黒髪ってもしかして~~~~の人じゃない?」

「えっ、そうなのか?」

「いや、本当なのかは分かんないけど、でも剣とかじゃなくて棒だよ? 売れない理由があるとはいえ、数ある武器の中で棒を選ぶなんてあの一族以外ないじゃん」


 ふむ、兄妹の声が大きいせいか耳打ちの内容なおおかた丸聞こえだ。

 しかし、~~~~の人って何だ? そこだけピンポイントに聞こえなかったせいでよく分からないが、俺がその一族出身者だと勘違いされてる様だ。後でレフカにでも訊いてみるか。

 そんなこんなで妹の耳打ちで何かを納得した兄は、向きを戻して一言。


「分かりました。ではその規格外の槍柄をお買い上げになるのですね」

「うん。出来れば武器の代わりにもなりそうな加工をして貰えたら嬉しいんだけど……」

「承りました。では、使いやすく、そして強度も上げるよう加工を施します。おい、ネムラ、加工の準備だ」

「了解!」


 どうやらこの棒を買うのを認めてくれた様だ。妹店員には感謝感謝。

 そそくさと加工の支度を始める鍛冶士兄妹。俺は完成までの間、少しだけ応接間にて待つことになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る