強襲と進撃の怪物
3ー1
この世界に来て初めて行った戦いは迷惑冒険者との喧嘩。その次は狼の群を撃退。三度目は
しかし、今の戦いはこれまでのとは一線を画すものであることは一目瞭然だ。何故ならば──。
「フウロ、来るぞ!」
「おう!」
咄嗟の指示、そして退避。刹那、俺がいた場所に再び巨大な触手が叩き付けられた。
薄暗くても目に見えて分かるその真っ白い表面とそれを覆うヌルヌル。いやぁ、気持ち悪いですね。
神様から付けてもらったステータスにも詳細が出ないモンスター。それを戦うことになったからだ。
「フウロ、お前は周囲の
「ラジャ。じゃあ、お前はあの逆さタコを。秒で倒してくれよな」
俺とレフカは、お互いに役割を言い任せながら、各自行動を開始する。
今言った逆さタコというのは、例の卵型モンスターのことを指している。命名理由は、今の見た目がタコの体を逆さにして地面に刺した感じだったからだ。色はイカだけど。
うん、我ながら直喩過ぎるが的確なネーミング。おっと、自画自賛してる場合じゃなかったな。
「ほら、こっちだぜ
レフカが逆さタコに集中出来る様に、一旦中央から離れた俺は即興で魔法の創造をする。
内容……は、言わなくても分かるだろう。今の状況、雑魚を何とかする役を任されれば一つしかない。そう、敵を引きつける魔法『挑発』だ。
幸いにもコスト制限に引っかかることは無く魔法は創られた様で、リクエスト通りにこの空間から視認出来る
『新しい魔法を創造しました。ネームを決定して下さい』
「忘れてた。『J』だ『J』。今はそんなのに意識なんて向けてられねぇよ」
相変わらずの
それはともかく、本命と戦っているレフカはどうだ?
「くそっ、この……!」
触手を回避しては剣を当てるヒット&アウェイ戦法。それが今のレフカのバトルスタイルだ。
逆さタコの動きはパターンがあるようで、どうやら一回叩き付けをした触手は数秒の間は動かない。それを狙ってダメージを重ねているが、あまり効いていない模様。
若干苦戦中って感じだな。っていうか、あいつ魔法使ってんのか? ここから見る限りじゃ何にも使ってない様に見える。
「おい、レフカ! 何で魔法使うの躊躇ってんだよ! もうお前の心配する人はこっちに引き寄せたんだ。遠慮無くぶっ放せ!」
いつまでも本気を出さないレフカ。叫びながらその訳を訊ねると……。
「……いた」
「あ? あんだって? 距離が遠くて聞こえねーよ!?」
「──底を突いたのだ! 魔力が! 無くなったんだ!!」
「は!? 魔力切れ!?」
マジかよ!? ここで!? このタイミングでか!?
おいおい、こりゃあ無いぜ。もう魔法が使えないってことじゃねぇか。
試しにレフカのステータスを確認すると、確かに彼女の
……いや、思い返せば今日だけで『
くっ、不覚! 俺が魔力の枯渇問題を無視出来る程MPがあるせいで、この世界の標準保有量を考えてなかった。てか考えもしなかった!
「~~っ! くそっ、レフカ! もう少し待っててくれ。こっちも片付け終わったらすぐに行く!」
痛恨のミス。仕方がない。さっさと雑魚は片付けて下の方に合流せねば。
だがちまちまと浄化魔法をかけてる時間は無い。幸いにも
ならばこうするしかあるまい。もっかい創るぜ、魔法。
リクエストイメージは拘束魔法。『対
「──『ビルド』!」
瞬間、右手に生成された光輪。ゆらゆらと陽炎の様に不安定な形をしたそれを掴み、身体を捻ってフライングディスクを投げる要領で投擲! 真っ直ぐ集団となって向かって来ていた
突然の拘束に驚いた──様に見えるだけだが──
「ぃいよォっし!」
またも一発成功! 当たった
なんか最近、魔法創造のコツが掴めてきた気がする。良いぞ~、自分。
『新しい魔法を創造しました。ネームを決定して下さい』
はいはい。これは後で後で。タッ、ターンと『W』キーとエンターキーを押して仮ネーミング決定。拘束魔法『W』ですよ。
そして、ここからは簡単な作業だ。『W』の魔法を連発し、視界に入る
下で頑張ってるレフカのためにも、なるべく早めに終わらせなくては。せっせと動きを止めさせている内に数は激減。ついに残ったのは
この人の顔を見て目を引くのは頬の傷にポニーテール風の髪型。手配書通りの人相だ。やはり目標の人物であるのは間違い無いらしい。
「俺らさぁ、この領で一番偉い人からあんたを連れてこいって言われてんだ。他の
ま、この声が聞こえてるかどうかなんて分からねぇけどさ。とにかく、目標の人物にはバインドに浄化魔法と成仏魔法をおまけしてやろう。
俺は両手に拘束光輪を生成させると、メイに向かって投擲。真っ直ぐ飛んだそれは狙い通りにメイを拘束する。
よし。次に接近からの顔へ浄化魔法、成仏魔法のコンボでフィニッシュだ。俺は作戦通り動けないメイに走って近付き、浄化魔法『L』の準備を──した時だ。
「……グゥッ!」
「なっ!? バインドが!?」
そう、まさに目の前まで近付いた瞬間である。
メイの体に纏わりついていた光輪は一瞬にして弾け飛び、自力で拘束を解除したのだ。おいおい、魔法を物理で突破するなんて……。
その予想だにもしない動きに驚いた俺は、咄嗟の判断で緊急ブレーキをかけようとしたが故につんのめって転けてしまった。当然、魔法も途中解除となる。
「ってぇ……って、やば──」
転んだということは、即ち隙を見せたということ。これはいけない。
この予想は的中。目の前にいたメイは急いで起き上がろうとする俺の首をもの凄い力で掴み上げ、そのまま握撃を仕掛けて来やがった。
「がッ……!?」
く、苦しい……!? 息がしづらい、つーか出来ない。
これまで映画やアニメとかのキャラクターがやっていた、あるいはされていた首掴み攻撃を今まさに食らっている。それだけでも十分ショックだが、次の現象に俺は戦慄した。
何か段々と視界がぼやけてきた。あ、多分アレだ。酸欠状態だから脳に負担がかかっているんだ。このままでは意識を保つことが出来ない。それどころかこのまま死も考えられる。
それだけはマジ勘弁。異世界転生から一週間で死んでしまうなんてことになったら、折角拾われた命が無駄になってしまう。
「フウロッ!」
あ、レフカの声だ。……そうだ、ここで負けてられねぇ。領主に守るって約束させられたしな。
俺は朦朧としかけてる中で、首を掴むメイの手を外そうとする。
くっそ、めちゃくちゃ硬ぇ! まるで鍵掛けてるみてぇだ!
うっ、ちょっと締まりがキツくなってきた。こりゃマズい。本当にヤバいので致し方が無い。無傷で浄化まで持っていこうとしていたが、非常事態につきプランBに移行。
レフカとの約束を破ってしまうことになるが、意識が落ちてしまう前にやらねば。
「かっ……、ぐぅぅ……! があッ!!」
「っ!?」
俺は振り絞れる力を全て使って、メイの胴体に蹴りの一撃を入れる。それはもう、女の人のとは思えない程固い腹筋ではあったが、効果はあった。
腹部に入った蹴りに反応したメイは、思わずその手を離してしまう。ここで俺はすぐさま魔法を発動させる!
「ぐ、かはっ、はぁっ……く、食らえっ!」
呼吸を取り戻しつつ唱えた魔法は拘束魔法。生成された光輪をすかさず目標に向かって投げた。
シュパッ、と奴の肢体を縛り、再び一時的な拘束に成功。だが、先の例もあるので安心は出来ない。俺は続けて拘束魔法を唱え、それをメイへと飛ばしまくった。
三矢の教えと言ったか。一本ではすぐに折れる矢でも、三本纏めれば折れにくくなる理論で全身に拘束魔法を何重に施していく。
拘束を外そうと暴れていたメイも次々と重ねられていく光輪に動きを封じられていき、次第に動きを鎮めていく。よし、何とかなったな。
「……はぁ~、危ねぇ~! 危うくマジで死ぬとこだった」
おっと、危機から脱せたことに思わずほっとしてしまった。まだ最終作業は残っているので、直ちに取りかかろう。ゆっくりするのはもう少し後だ。
光輪の塊から出ているメイの顔に浄化魔法『L』を発動。バシャッと聖水がかけられると、そこから最初の
こいつのせいで酷い目にあっちまった。さっさと成仏しやがれってんだ! 俺はそんな気持ちで成仏魔法『K』を使い、エクトプラズムを無事に成仏させた。
憑き物が無くなったメイも心做しか肌の血色が良くなった気がする。これで、第一段階は終了、ようやくセカンドステップに移れるな。
「レフカ!
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