2ー12
「……なぁ、本当にあのまま放っていてもいいのか?」
「いいのいいの、きっと大丈夫だから」
隣を歩くレフカからは心配の声が上がるが、問題は無いはずである。
聖魔の加護の効果に加え、俺の魔法で創った新たな魔法が冒険者を守ってくれるだろう。
アンデット系モンスターを近付けさせない聖魔の加護が付与された巨大な『
これは名称通り魔物の侵入を防ぐ付与魔法。イメージコストを追加するのに大分手間がかかったが、何とか再現することが出来た。
具体的に言うと、この『防魔の加護』はレフカが発動した最大サイズの『癒繭』にのみ付与することが可能という超限定的な使用方でしか発動出来ない。言ってしまえばこれを使うことはもう二度と無いだろう。
そして、現在の俺達は作業を終えて
「それにしても、お前はどんな魔法を使えるんだ? さっきの付与魔法といい、浄化魔法も使えるのだろう。どこで教えて貰っているんだ?」
「ははは、それは企業秘密」
まぁ、自分で魔法を創れるなんて言ったら、どういう反応をされるのかは目に見えてる。言わない方が身のためになるだろう。
そうこう歩いていると、人の気配を察知。がさりがさりと草を蹴りながら歩いていく音が聞こえた。
辺りを見回すと左側の奥にニ体の
「フウロ。お前が聞いた噂は森に入った奴らが遭難するという内容だったか」
「ああ。森のどっかで見かけたモンスターの卵が高値で売れるかもしれないらしいからだって。深いところって言ってたからなぁ」
いるのがバレない様に身を屈めて
常々気になっていたモンスターの卵という存在。誰が見て、それを町に伝えたのかは分からないが、それが多くの冒険者を遭難させている要因であることは間違いない。
「しかし、モンスターの卵はこんな人の手が行き渡った場所に存在する様な物ではないし、まだ生殖方法もはっきりしていない。それが本物だと決めつけるには証拠が足りなさすぎる」
何か詳しいな。まぁ、騎士学校に通っていた経験があるんだからモンスターについての授業を受けていてもおかしくはないんだけれども。
にしてもこの世界のモンスターは生殖方法が完全に判明している訳ではないのか。うーん、これには卵の謎も深まるばかりである。
ここで、目標が奥に進んだことを確認すると、俺達もその後を追って行く。しばらくつけて行くと、そこへ行き着いた先である光景を目撃することとなった。
「何だ、ありゃ……?」
思わず出てしまった驚きの声。隣のレフカも絶句している。
それも仕方ない。俺達が目にしてしまった景色というのは、すり鉢状に窪んだ空間に数十にも及ぶ
「これは、一体何なんだ……?
「それに、真ん中の白いの。噂通り卵みたいな形してるな」
急いで隠れられそうな地面の隆起に身を隠す。森の奥でモンスターの卵っぽい何かがあるという噂は本当だったらしい。
そこにいる
「レフカ。あの卵……」
ここで俺はあることに気付く。それは卵らしき物をよく見ると、もぞもぞと若干動いているのが分かった。それも、雛が殻の内側から暴れる感じではなく、殻そのものが小さく波打っているかのよう。
「……どうやらあれは普通の卵ではなさそうだな」
プロもそう言う。やはり、ただの卵ではないみたいだ。俺もそうとしか思えない。
なので、俺はあれのステータスをチェックすることにした。得体の知れない存在は、チートで調べるに限る。
『正体不明 種族:未分類』
な、な、な、何やこれェ!? 正体不明ってどういうことだよ!?
おいおいおいおい、全部のステータスに必ずあった『他詳細』すらない。これではチートの名が廃るぞ! バグが発生してますよ、技能の神よ。
「……フウロ、あれの様子が変だ」
ステータスが初めて見せた異常に驚いていると、レフカも何かを発見したみたいだ。俺は怖さ半分、見たくない半分でその示した先に視線を向ける。
見えたのはまたも卵。だが、今回のはさっき俺が発見した微かな動きではない。
完全に動いていた。それも、目を凝らさなくてもはっきりと見えるくらいに。
あの動きから推測するに、あれは明らかに卵そのものが一体のモンスターであるとしか考えられない。
と、ここで激しく蠢き始めた卵らしき物体はさらなる衝撃的な光景を作り出す。
卵の頂点部分から全体に切れ目が走ると、まるで花が開花するかの如く展開された。
そこから続く光景は、もはや異様なんて言葉では言い表せないくらいに生理的吐き気を催す物だった。
俺達が遠くから見てしまったのは、花びらの様に開かれた何かから『人』が這い出る光景。ずるりと滑って地面に転がったそれは装備を着込んでおり、ゆっくりとした動きで起き上がる。
「っ……。ちょっと吐きそうになった」
恐らくあれは
クソ気持ち悪ぃ……。作り物で出来たグロ映画なんて比較にならない生物的な生々しさがそこにあった。これが異世界のモンスターか。
もうさっさとここから逃げたい。すぐにでも森から出て町のギルドに全てを任せたい。そんな気持ちが強まっていく中で、これまで絶句していた相方は──。
「あ……、メイ……?」
耳が捉えた呟き。何故、急に目的の人物の名を口にしたのか。その思考が纏まる前にそれは暴走を起こす。
「メイ!!」
何を思ったのか、レフカは急に物陰から飛び出すと謎のモンスターが鎮座する場所へと走って行った。
剣を抜き、中央に近付きつつ早口で詠唱。剣には緑色の風が纏わって次に起こる現象を容易く予感させてくれる。
「吹き荒べ──。『
予想通りレフカは得意の魔法を放った。横に薙ぎ払う形で振るわれた暴風の波動は、幾数もの
木にぶつかったり、林の奥へ吸い込まれたりと、一応生きている者らにするべきではない非道な行いだ。これで死んだらどうするんだよ。
しかし、よく見ると中央にいる一体は吹き飛ばされていない。ついでに卵型モンスターも無事だ。レフカは危険を省みず急いでそこに駆ける。
「メイ! メイ! しっかりしてくれ、メイ!」
「メイ!? ウッソだろ、その人が!?」
武器を放り捨ててその人物に呼びかけるレフカ。名前を聞いた瞬間、俺は仰天する。
俺達の目的はリリダ領の領主へメイ・ケリスという人物を探し出して連れて来るというもの。そのためにデトロイドへと来てこの森にまで足を運んだのだ。
そして今、レフカが必死になって呼びかけている人物。先程、あの謎のモンスターから出てきた
「…………」
「メイ……。私だ、レフカだ。覚えているだろう? 三年前に手紙をくれたじゃないか。それにまた会おうって約束を……」
相手は自我無きモンスターと化した存在。それくらい分かっているはずなのに、静かな呼びかけをレフカは敢行する。
もっとも、相手は沈黙を保ったままだ。何も反応をしない……が──
「……! レフカ、前!」
まだ遠くにいたのが幸いだった。俺はソレが動き始める瞬間を目撃し、大声でそれをレフカに叫んだ。
「っ!? くっ……!」
レフカが俺の声に気付いた瞬間、咄嗟の回避。そして、大きな一撃がレフカがいた場所に叩き落とされた。
あぶねぇ、間一髪だった。あと少し遅れたらモロに食らっていたな。
その場から退避しつつ、投げ捨てていた剣をレフカは回収する。そして、今し方襲ってきた物の正体を視認した。
「レフカ。あれが何だか……分かるわけねぇよな」
「この辺りに生息するモンスターではないことは、目に見えて分かったがな」
ようやくレフカの側にまで降りてきた俺は、分かり切った疑問を相方に訊ねる。やはり、ただの動物ではないらしい。
それに加え、周囲にはレフカが吹き飛ばした
「フウロ。また私が暴走して起きてしまった迷惑に巻き込んでしまったことは謝る。だが今は、今回だけは私に……」
「『協力してくれ』だろ。当たり前だ。ここでやらなきゃ俺もやられる。依頼も果たせなくなるしな。それに──」
ここで一呼吸置き、少し前に領で一番偉い人に言われたことを思い出す。
彼女のことを守ってくれ。そう頼まれた。こんなプライドはこれまで無いと思っていたが、いざとなると芽生えてしまうものだな。
「俺はお前の仲間だ。男が女の人を守れなくてどうする?」
「……フウロ! すまない、感謝する」
「へっ、我ながらスゲー恥ずかしい台詞を言っちまったもんだぜ」
旅は道連れ、世は情けってな。俺は武器を構えて戦闘態勢に移る。
神様、見てるか? 今、ちょっとだけ面白いことに巻き込まれちまったから、しっかりと見といてくれよな。……頑張るから。
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