2ー9
さて、隠れ家から出たものの、正直単独行動を余儀なくされていると少し心寂しいな。
あいつと出会ってから、常にとは言わないものの行動を共にしていた時間が長かったためか、妙な孤独感が生まれている。
今はどうしているだろうか。まさか襲われて
「……でも、少し心配だな。領主からも守ってくれなんて言われてるし」
思い出すのは一昨日のこと。男爵との会話で頼まれた俺を信用するレフカを裏切らないで欲しいという想い。今の俺に負わされた少しばかりの重荷。その言葉が脳裏を過ぎる。
「……ちっ、しゃあねぇ。待ってろレフカ、すぐに合流してやる」
領で一番偉い人にこう言われたんだ。これを放棄するなんてしたら叱られるじゃ済まされない。
目的に
薄暗い森の中は、何というか不気味の一言。本当に幽霊が出てきそうだ。神から貰った『勇気』なるチートが無かったら、木の
そんなことを思いつつ地道に歩みを進めていると、それはふと思いつく。
「……そうだ。10もレベルがあるんだから、そろそろ特殊系も創れるんじゃないか……?」
思い立ったが吉日。俺は、早速チャレンジしてみることにする。
現状を打開させるために必要なのは現在位置の特定。これにお互いの位置が分かれば完璧だ。
思うは『GPS』『地図』『ステータススキル表記』……。イメージする形は車のカーナビ機能ってところだ。
「『ビルド』!」
『この魔法を創造するにはレベルが足りません』
知ってた。そうだろうと思ってたよこんにゃろう。
流石にイメージコストが高すぎたみたいだ。何かしら制限を課さないとな。
ん~……、じゃあ『
「『ビルド』!」
その瞬間、パッと目の前に画面が表示された。だが、よく見るとその画面はいつもの俺自身の情報が書かれたステータス画面ではなく、大雑把な地理情報が描かれている地図だ。中央の赤点が多分俺だろう。
うむ、どうやら成功っぽい。地図魔法……いや、ステータス画面の機能として創ったから、どちらかと言えばスキルが近いか。
早速スキルの確認をする。俺を中心としたおおよそ一キロ圏内という範囲だが、十分だったらしい。
「……いた。ここから大体四百メートル先。地図スキルの範囲内で助かったぜ」
スキルが示しているレフカの位置は、一番右上の角。青い点がそれだ。
俺とレフカだけしか映らないとはいえ、このスキルは便利だな。新しく創り直せるまではお世話になることだろう。
『新しい魔法を創造しました。ネームを決定して下さい』
「そうだったな。じゃあ、『マップ』で」
定例のネーミングもそれらしい名称に設定し、俺はちゃっちゃとその場所へと移動する。勿論、マップスキルに姿が映らない
草木をかき分けながら数分歩いて行くと、マップスキルが示した青点の場所に到着する。だが……。
「……あれ、レフカは? って、何だこりゃ」
そこには相方の女騎士はおらず、代わりにうっすらと薄緑に発光する楕円形の……そう、繭だ。蛾の蛹が入っているあの糸の塊に似ている。それがごろりとそこに転がっていた。
何だこれ? そこそこの大きさで中に人は入れそうだけども。まさか、昨日の冒険者が言っていたモンスターの卵……なのか?
「そうだ、これのステータスを確認すればいいんだ。アイテムのステータスも見れたんたんだから、これにもあるだろ」
故に早速確認する。この正体不明の物体。これの真相を暴いてみせよう!
『
「お前かよ!」
何だよ、レフカの魔法だったよ。てか、これ魔法なのかよ!? 突っ込みも冴えるな。
それにしても、ステータスチェックは人やアイテムだけじゃなく魔法の詳細も見れるのか……。たまげたなぁ。
密かに関心をしていると、この魔法の繭がもぞもぞと動き始めた。蠢き方がかなり気持ち悪いぞコレ。
「……っふう。ん? おお、フウロ! 無事で何よりだ」
「うわ、中身が出てきた。ていうか、何なんだよコレは……」
しばらく蠢いた後、ちょうど俺の前にレフカの顔がポンッという気の抜けた音と共に現れる。俺の無事を喜んでくれるのはいいが、その珍妙な姿で言われてもなぁ……。
ちょっとばかし困惑している中で、俺は昔テレビで見た巨大風船の中に人が入る芸を思い出していた。うん、見れば見るほどそれに似ている。
「これは『
へぇ、そんな魔法があるのか。アンデット系から身を守るだけでなく、僅かだが回復効果もあるとは中々便利じゃないか。
俺の疑問に丁寧な回答をしてくれたレフカは、何故か自慢げなご様子。
そんなことはともかく、すんなりと合流は出来た。問題はここからだ。
「それよりもレフカ。これからどうすればいい? 一旦戻って
「そうだな。深部とはいえこんな場所に
やはりか。それもそうだよな。神様曰くの情報ではリリダ領は比較的モンスターの脅威が少ない地域のはずだから、明らかに普通じゃないモンスターが存在するはずはない。
ここの森に入った冒険者は、皆ああなってしまうのだろうか。ん? てか、思えば
「そういえば
「お前、知らずにここまでやってたのか……。
そうなのかー。
また一つ賢くなったところで、俺は常々気になっていたことを言ってみることにする。
「にしても、お前はいつまでそうしてるつもりなんだよ?」
「ん? ああ、それもそうだな」
今のレフカは首から下を
自分の姿を再度確認したレフカ。飛び出ていた首を引っ込めると、次の瞬間には変化が起きる。
綿飴を作る行程を逆再生しているかの様に繭は小さくなっていき、数十秒もしない内に繭から離れた綿は宙へ霧散。レフカ本人の姿が中から現れた。
「ん? レフカ、その手に持ってるのは……」
結界魔法が解除されたことによって、久方ぶりに相方のドレスアーマーを目にしたが、その手に見慣れない物が握られていることに気付いた。
それは短剣。青い剣身が根本から二股に裂けた特殊な形状の武器である。
この様な武器をレフカが隠し持っていたとは知らなかった。にしても、何というかレフカにはあまり似合わない武器の形である。
そう謎の武器についての感想を思っていると、レフカが指摘した物についての説明を口にする。
「ああ、これは……
「何……だと……!?」
何……だと……!? 思わず心の中でも驚きをリフレインしてしまった。
目標の人物の剣、その片割れ。俺の脳はその意味からなる現状をミステリー本の知識を以て再認識する。
貴族から警備員を指名される程のプロの冒険者、その人物の武器、それが森の中に落ちていた……このことから推測されるのは一つの可能性。
「もしかして、ガチの行方不明になってるってこと……?」
「その可能性は極めて高いな。あの人が自分の武器を落とすなんて考えられない」
俺の推測にレフカは肯定する。
マジか……。メイ氏が気まぐれで町に帰らない訳ではなく、ホンマもんの消息不明な状況になっているなんて……そう、なんて日だ! これでは領主との依頼を果たせないではないか!
「おいおいおいおい。どうすんだよ! 領主に何て言えば良いんだよ!?」
「慌てるな。まだ可能性の話だろう。武器が落ちていたとはいえ、そうでない可能性も存在する」
大事な人がいなくなったというのに冷静だなぁ。いや、本当は内心では動揺しているのだろうが、それを表にしないだけなのだろう。
何せ家出する前からレフカはその人のことを知っているのだ。信頼、そして信用。それらがメイという人物にある。故にレフカは動揺を表に出さないのだろう。
「何はともあれ町に戻ったらこの森に起きている異変、そしてこの剣をギルドに報告する。男爵殿には手紙でこのことを伝え、依頼の方は一時中断という形で待機だ」
これからするべきことを決め、俺らはデフィルの森から脱出することにした。
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