2ー10
ギルドへの報告のため、森からの脱出を急ぐ俺達。無論、方角など分からないので当てずっぽうのまま進んでいる。
だが、自分にしか見えない新スキル『マップ』を表示している俺は、現在地がどこなのかを知っていた。
「レフカ。本当にここを進めば出れるのか?」
「…………」
「きちんと反応してください」
ふむ、だんまりか。それもそのはず、先の言う通り方角が分からないので適当に進んでいるのが現状。そして、マップが示しているのは東。周囲一キロ圏内は完全に深部を表示していた。
「迷ったなら迷ったって素直に言えばいいのに」
「くっそぉ……」
はい、そーなんです。また遭難です。本日二度目……否、一度目の続きだ。
まぁ、
しかし、こうしている間にも時間は刻一刻と過ぎていく。このまま出られずにいれば夜になり、更に危険な状況になってしまう。
故に、ポンコツと化した女騎士の先導は中止になって頂こう。
「レフカ。一旦ストップだ」
「……分かった」
お? なんだかやけに素直に聞いてくれたな。てっきり貴族のプライドが出て構わず進んでいくと想像したのだが。ま、それはそれでいいか。
「このままだと埒が開かない。少し時間がかかるけどもコイツを使って助けを呼ぶぞ」
そう言って俺は懐からある物を取り出し、レフカに見せる。
カプセルの形にも似たそれの正体は救難信弾。遭難した場合に備えてあらかじめ用意していたアイテムの一つである。
これを使って助けを呼ぶ。そうすれば誰かがこれを見て救助に来てくれるだろう。唯一の問題点は森の深部まで来てくれるかどうかだが、うやむやに歩き回るよりかは遙かに良い。
「レフカはあの風の魔法で空を遮ってる枝葉を吹き飛ばしてくれ」
「……分かった」
……何か、一気に元気が無くなった様な気がするな。動揺は見せていなかったとはいえ、やはりレフカも人の子。恩人の安否が心配なのだろう。
この指示に淡々と従うレフカは自分の剣を抜き、術式詠唱を始めて魔法を撃つ用意をする。そして──
「吹き荒べ──。『
二日ぶりにその魔法を前にするが、ちゃんと見るとすげーな。
前回は狼だったが、今回は空を遮る枝葉。上向きに放たれた衝撃はその名の通り嵐の力強さを彷彿とさせる激しい風の塊だ。俺の『風塊』なんかとても比較にならない迫力である。
そして、俺達の頭上には一瞬で枝葉をこじ開けた大きな空間……森林生態学的に言えばギャップが作られた。これで、木の枝や葉っぱに邪魔されずに信弾を空に撃ち込める。
「よし、後は信弾を撃ってと……」
開けた空間に、俺はすぐさま信弾を撃つ。
やり方は簡単。信弾のマークが描かれている部分を上に向け、下の部分を握り潰すだけ。持ち手が熱くなるとポン! という炸裂音と同時に信弾から煙の尾を引いて空へと上昇し、パーンと破裂。まるで花火だな。
うん、最善は尽くしたと思う。後は人が来てくれるのを待つだけだ。
「…………はぁ」
どうやら内心の感情が表立つのを抑えられなくなってきている様だな。悩みに苦しむ今の姿が小さく見える。
と、ここでレフカのステータスを久々にチェックだ。
『レフカ・エオ・ガイヴィナンド 17歳 女 職業:旅人 状態:疲労 精神:不安定 他詳細』
あー、やっぱり今は精神面が不安定の様である。普段の貴族らしいでかい態度も騎士としての覇気も感じさせない。
ここは相方である俺が慰めるべきなのだろうが、メイって人の安否が分からない以上、下手に励まそうとすれば怒りに触れかねない。家出中の身でも貴族だからな。プライドを捨てている訳ではあるまい。
「さて、救助が来るまでは暇だな。俺は焚き火を作る準備をするから、レフカはここを見といてくれ」
「……分かった」
三度目の問いかけにも返る言葉は同じか。意外と繊細だな、コイツ。
下手な励ましはせずにそっとしておくことにした俺は、レフカに一人で考えさせる時間を設けるために、一旦救助ポイントから離れて一人辺りの散策を始めた。
夜を越えることを想定しての焚き火の材料集めもそうだが、敵が近付いて来てないかの確認も含めてこちらのもう一つの目標を達成させなければならないからだ。
「はてさて、
そうこう言っていたら遠くの木の奥に人影が。流石にもう救助が来たなんてないから、あれの正体は確定。
俺のもう一つの目的。それは、対
「どうやらさっきのとは別の個体みたいだな。鎧を着てる」
そこそこの距離まで近付くと、そのバイオハザった冒険者の服装は前の個体よりも重装備だった。ふむ、流石にこの広い森でたったのニ体だけという訳はないはず。他にもまだまだいると思われる。
俺はその
「……『ビルド』!」
「ギャバッ!?」
あの時のイメージを再度思い浮かべながら『ビルド』を発動すると、
あの時不発に終わった理由。それは、魔法の対象となる物が無かったから、MPの消費だけで終わったのだ。
つまり、チャームの魔法は対人……人に当てる必要があり、いつぞやの疲労回復魔法は付与対象となる食物、この時は果物に掛ける必要があった。今回のも『対
話は戻り、聖なる水をぶっかけられた
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……!?」
「……あれ? 効いて……ない? 効いてなくない?」
おかしいな。確かに特攻効果がある魔法を使ったつもりなんだが、対象はゾンビっぽい呻り声を出しながらゆっくりとした動きで振り返った。
うん、こりゃ効いてなさそうだな。これはまずいねぇ。
「があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」
「やっべ!」
一応生きているとはいえ、理性があるか定かではない
腕を大きく広げて迫るってことは、ベアハッグか何かをしようとしたのだろう。俺は冷静にバックステップで避け、トランスタッフを構える。
こちらもはっきり見ると迫力がすさまじい。お化け屋敷のアクターにも勝るとも劣らない怖さがある。演技じゃないから当たり前か。だが、二度も同じ手に驚かされる俺じゃないぞ。
あらかじめ失敗したケースを想定しておくのが戦いを有利に進めるに当たって大事な部分。いわば保険。こうなることは十分に考えていた。
そして、本来効くはずの特効魔法が効かなかった訳も解析済みである。
「魔法が効かなかったのは、多分あの鎧だな。どうやら直接肌に触れさせないと効果は発揮しないらしい」
そう。冒険する者にとって装備は大切な要素。それが、皮肉にもモンスターになってから役割を果たしたという訳だ。
ならば、肌が直接出ている部分を狙って撃てば良いだけのこと!
「があ゛あ゛っ!」
「よく見て~……」
再び迫る
敵の構えや良し。隙を見出したり。
「はっ!」
予想通りの攻撃をかわし、生まれた隙を突いて動く。
俺は奴の左側に回り込むと、暇している左腕を掴んで脇から通す様にトランスタッフを相手の左肩と首の間に入れて回す。テコの原理だったかでバランスを崩した
そして、起き上がれない様すぐにうつ伏せの
警察だったかが犯人を取り押さえる時に使う組み技を杖で応用したのだ。ぶっちゃけると適当にやったのだが、これで逃げられまい。
「う゛ーっ! う゛っー!」
「っとと、意外と力強いな。やられてるとはいえ試験を突破した冒険者なんだな。待ってろ、今助けてやる」
俺の拘束から抜け出そうとじたばたと暴れ出す
「『ビルド』!」
「がっ……!?」
今度はきちんと顔に当ててやったぜ。さて、どうなる?
すると、聖水に濡れた
『エクトプラズム モンスタータイプ:ゴースト 他詳細』
出た。やっぱり幽霊の類いじゃねーか! いつまでも現世に執着されるのも困るので、人様に迷惑をかける魂にはさっさと昇天して頂こう。
『新しい魔法を創造しました。ネームを決定して下さい』
「このタイミングでか!? ああもう、適当に『L』でいいや」
なんとも空気を読まないステータスさんだ。なので、早く名付けしろと言わんばかりにキーボードを出してきたので適当にキーを叩いて決定する。
さて、仮ネーミングも終えたところで、次はこのエクトプラズムの処分だ。お化けは成仏。これに限る。
「さっきのは
と、さらに新しく魔法を作る。その効果はこういった感じだ。
俺の目の前に浮かんでいたエクトプラズムはきらきらと煌めくパーティクルに包まれて消えていった。無事、一発成功したみたいだ。
これは弱いゴースト系のモンスターを成仏させる魔法。名付けは後回しにして、仮称『K』とする。
「よし、これで残りの目的も達成。いつ
過信も出来ないけどな。とりあえず、対
さて、目的は達したものの、今度は憑き物の無くなった
「もう取り憑かれてないはずだから暴れないよな……ってか臭っ! 一体何日間森を彷徨ってたんだよ、この人?」
おそらくこの人も遭難者だったのだろう。妙に生臭い体臭に加え、よく見てみると傷も多い。このままでは感染症みたいなのになってしまうだろうから、レフカの
動かない冒険者を背負い、元来た道を辿る。と、ここでふと目にした先にもう何人かの人影が見えた。
あれは何だ? ゆっくりとした動きからして
気になるところではあるが、今は怪我人を運ぶのを優先させるべき。後でレフカと一緒に確認しに行くことにする。
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