1ー6
「……………………はぁ」
「そ、そう落ち込むなよ。悪かったって、お前が余りにも意気込んでたから言いづらくてな。先に言えなかったんだ」
路地裏の入り口でうずくまってダークフィールドを展開する俺。それに謝罪を入れつつ宥めるレフカ。
端から見ると自分達はどう映っているのかは定かでは無いが、そんなことはどうだっていい。
酷く落胆する俺。その理由は明らかだ。
数分前、レフカの言葉通り引かれるレベルで意気込んでいた俺は、目的地『冒険者ギルド・トラン支部』へと足を運んだ。
中に入ると、冒険者があふれ、酒と料理の臭いが充満する混沌とした居酒屋の様な空間──ではなく、それこそ大きい休憩コーナーの付いた役場みたいな感じの部屋となっていた。
人は白を基調とした女性用タキシードっぽい制服の受付嬢が数名と、冒険者らしき人達が三人だけ談笑してるくらいの質素な空間。
イメージとはちょっと違う世界に拍子抜けしつつ、俺はレフカの制止を振り切ってカウンターに向かい、ギルドに登録したい旨を伝えた。その結果。
「申し訳ありませんが、当ギルドでは個人の冒険者登録は行っておりません。冒険者登録は本部でしか受け付けておりませんので、お気をつけ下さい」
……と言われた。これ即ち、冒険者になれないということなり。
「まぁ、仮にここで冒険者登録が可能であったとしても、お前は町に流れた流浪人扱いだから、登録すら出来ないんだがな」
「どっちにしろ無理だったって訳か……。あー泣きそ」
異世界でも、現実は現実だったということだ。
考えれば、ラノベの冒険者登録は話をとっとと進めるために、現実なら必要な過程を飛ばした表現をしているのだから、こうなるのは当たり前か。
気を取り直せない俺に、レフカは困った表情を浮かべた後に、フォローを入れる。
「安心しろ。実は私もギルドに登録していない身でな。形はどうあれお前と同じなんだ」
「え、そうなの?」
「ああ。私は旅をしているから登録しないが、ギルドに登録するということは、組織に入るという意味でもある。私はそういうのがあまり得意ではなくてな、今まで遠慮してたんだ」
ほーん。率直に言って意外だと思った。
俺イメージの冒険者は資金を稼ぐために登録して依頼を受けるみたいな考えがあったので、てっきりレフカは冒険者職に就いていると思っていた。
実際はそうなんだな。思い返せばステータスにも『職業:旅人』としか表記されてなかったから当たり前か。
「ちなみにギルドへ登録するには十五歳以上であるのを証明し、試験を二回受ける。合格したらギルドの加入料金として大銀貨五枚を支払い、ギルドカード等を貰うんだ。試験は戦闘試験と技術試験の二つ。技術は勉強すれば何とかなるが、戦闘は試験官によって内容がまちまちな上、屋外だったり屋内だったり場所も毎回違う。
この通り手続きが面倒な分、ギルドに入ればモンスターの素材を高く買い取ってもらえたりするからな。入って損は無いぞ」
「それを入れない俺に教えるのか」
あっ、と全て説明してから気付いたレフカ。しっかり者なのか天然のかはっきりしてくれ。
それはともかく、非常に残念だ。異世界無双出来るかと思ったんだが、現状では厳しいな。
だが、冒険者登録するのが必須条件という訳ではあるまい。俺TUEEEへの道はまだ多く残っている。それを頑張って探そうか。
「ま、そう気を落とすな。疲れたなら宿に戻って休め。私は別件があるから、もう少し町に出てるが」
「別件?」
「気にするな。まだお前には関係ないことだ」
らしいので、俺はレフカと別れて一人宿屋への帰路を辿っている。
今の服は周りに溶け込む自然さがあるため、最初の時の様な目を向けられてはいない。
それにしても、別件とは何だろうな。まさか
それにしても『まだ』の部分が気になるが、自分に関係無いことへ無闇に首を突っ込む様な真似はしない。とりあえず、帰宅を優先だ。
宿屋までの道中はマジで何にも無く、無事に帰って来てしまった。
ラノベなら悪漢に絡まれるなり、奴隷に暴行する馬鹿貴族を見つけるみたいなことがあるのに、トランという名の町は実に平和で治安の良さが目に判る。
自室のベッドに横たわった俺は、他に何もすることが無いので、ステータスを眺めることにした。
『フウロ(Lv.2) 18歳 男 職業:旅人 状態:普通 精神:普通 他詳細』
「ん? あっ、レベルが上がってる。何でだ?」
それを見つけた時、特に喜ぶ訳でもなく、ただ純粋に何故だという疑問が浮かんだ。
この数時間でモンスターと戦った記憶はない。素材と化したのならチラッとだけ見たが、生きてるのはまだ見たことすらない。
では、一体何故レベルアップがされているのだろうか。しばらく考えていると、ふと技能の神様に言われたことを思い出した。
『レベルはゲームに準じて戦闘とかで経験を貯めれば上がるようにしたから』
そう、『戦闘とか』である。つまり、真っ向から戦うだけがレベルを上げる方法ではないということである。
それを基準に考え直すと、一つだけバトルっぽいことをしていた場面を思い出した。
「もしかして、レフカに追われてた時に上がったのかな? その可能性が高いな」
全速力で逃げたり、チャームで迎え撃とうとしたりと、うん。確かにバトルっぽいことはしてる。と思いたい。
ゲームに準ずるという言葉通りなら、あれだけの戦闘(?)で得た経験値でレベルが上昇したと考えても良いだろう。
「そうか、別にただモンスターとバトルしなくてもレベルは上がるのか……」
転生初日にして明らかとなったレベリングの基準。これなら、もしかすればモンスターと戦わずに高レベルまで上げられることが可能って訳か。
「せや、レベルが上がったってことは、創れる魔法が一部解放された訳だよな。創ってみるか」
てなことで、ベッドから背中を離した俺は立ち上がり、早速創造を始める。
チャレンジするのは、レフカから逃げる前に創ろうとした魔法達。透明化と高速化、そして煙幕だ。
「んん~……。『ビルド』」
『この魔法を創造するにはレベルが足りません』
「一つ上がっただけじゃ流石に変わらないか」
これを計二回繰り返したが、どれも結果は同じになってしまった。
まだ身体変化系は使えないみたいだ。残念だが、この系統は現時点では諦めるしかあるまい。仕方ないね。
そして、三つ目の創造にチャレンジ。思い浮かべるのは白い煙と、なるべく長く効果が続く考えを思いつつ──
「ん~……、『ビルド』」
ぼふんっ。
「ふぁっ!?」
まさかの成功だ。しかし、成功したおかげで俺の部屋は白い煙に占領されてしまったぞ、おい。
魔法で創り出したおかげか、煙を吸い込んでもむせることはなかったが、外からだとどう見えているのだろうか。それと、部屋の外に漏れだしてないか心配になるが、今確認してしまうのは駄目だ。扉や窓を開けたらそれこそ大量に漏れ出してしまう。
どうやらリクエスト通りに長時間残留する効果を発揮してしまっている様で、中々長い時間の間、霧中の中で沈黙をするはめとなった。
『新しい魔法を創造しました。ネームを決定して下さい』
「うーん、煙だからなぁ……。もう適当に『煙幕』でいいや」
煙が晴れると、ステータスがネームド設定画面を出す。
俺はそれに我ながら直球過ぎる『煙幕』という名前を付けた。忍者っぽくてエエやん?
そんなこんなで新しい魔法、ゲットだぜ! この魔法は敵や追っ手から逃げる時に使おう。むしろ、それ以外に使い道が見あたらない。
新魔法の再確認をするべきだとは思うが、如何せん内容が内容だ。こんな狭い所や人の多い場所でやる訳には行くまい。
「……まぁ、後ででもいっか。とりあえず、創れそうな魔法は創っとくか」
それから俺は、日が傾くまでの間、ずっと魔法を創り続けることにした。
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