3ー6
不覚。まさか、奴に捕まってしまうとはな。
こうなるんだったら近付くべきじゃなかった。そのまま引きつけてこの町の冒険者の援護とかに回っておけば良かった。
そういえばレフカとも合流出来てないままじゃねぇか。メイからの剣も渡せずじまいになるなんてな。俺ってほんとバカ。
グロブスターの口へ真っ逆様に落ちていく瞬間は、何故かとても遅く感じた。これって、窮地に陥った時に発動する人間の超集中力的な潜在能力の発動みたいなアレかな?
だが、それも今では意味のない力。このまま何も出来ずに食われてお終いだ。
もし、これで死んだらどうなるのだろうか? もしかして、この世界でエクトプラズムとして残るのか? それともまた神座の間だったかに戻されるのだろうか? いずれにせよ、この世界には心残りしかない。
あーあ、短い異世界人生だった。レフカと出会って旅の同行をさせられることになったり、変ないざこざに巻き込まれて捕まったりと、一日目だけでもあそこまで濃い日を過ごすなんて元の世界にはそうそう無い体験だ。
本当に悔いしか無い。色んな人と沢山約束もしたのに何も出来ずに終わるなんてな。
後悔先に立たず。俺はいよいよ奴の口腔へと突入することとなった──その時である。
「────さぁぁぁせぇぇぇるぅぅぅかぁぁぁぁッ!!」
声が聞こえた。聞き覚えのある凛々しい声色。その絶叫。
「……レフカ?」
その結論に至った俺はいつの間にか閉じていた目を開くと、一人の女性が目と鼻の先にまで迫っていた。
え、何? この世界の人って空飛べるの? そんな疑問がすっと浮かんだが、それもすぐに消えることとなる。
「って、ちょ、な──どふっ!」
人間ロケットよろしく銀の鎧に身を包んだ女騎士が俺に突っ込んで来やがった。
重さと質量が相まった一撃は、俺自身に大ダメージを与えるだけでなく落下地点を大きく逸らすことに成功する。
そのまま横方向へ曲線を描きつつグロブスターの巨躯を越え、外壁の向こうへと落ちていった。
「フウロ! 生きてるか!?」
「痛っう……、い、生きてるけど、このまま落ちて大丈夫なのかよ……!?」
「案ずるな! 運が悪ければ動けなくなるだけだ!」
「それってまた策無しってことかァ!?」
まさかの回答に絶叫する俺。助けてもらって何だけど、ふざけんな! もう地面はすぐそこなんだぞ!?
折角助けられたのに、早くも絶体絶命の危機! グロブスターに捕まった時は不思議と恐怖感を感じなかったのに、今はそれに戦慄中だ。
ぶつかる──と思ったのもつかの間。結論を言うと生きて地面に降りれた。
「『
落下中にレフカが発動した結界魔法『癒繭』。それを身に纏うのではなく、上空へ向けて大きく展開したのだ。
あ、なるほど。レフカの右腕に抱えられている俺はすぐに理解した。
結界とはいえ物理的に触れられるのだから、風もとらえれるはず。その予測は外れることなく癒繭で作られたパラシュートは落下のスピードを減速させて、ふわりと大地に降り立つことが出来た。
「た、助かった……」
「全くだ。てっきり来ないつもりなのかと思っていたのだが、やはり来てくれたんだな」
「その結果がさっきのだったけどな……。あー、マジで死ぬかと思った。ってかめっちゃ体が痛ぇ……」
地面にへたり込みながら窮地から抜け出せたことに俺は安堵する。
もし、レフカが来なければあのまま大口に飲み込まれていただろう。そうなっていたら今頃どうなっていただろうか。あんまり予想したくないな。
「休んでる暇はないぞ。早く走れ!」
「くっそぉ、ちょっと待てって。おまえの体当たりを食らって体が痛ぇんだよ!」
移動を急かしてくるレフカだが、俺の体はそう簡単に動いてくれない。何故ならばレフカのロケットアタックは質量×重さ×スピード=破壊力の方程式で俺の腹部に激突したのだ。
もう大激痛ってレベルじゃない。生前の自分だったら多分気絶してる自信がある。それくらい痛いのだ。
「ええい、肩を貸してやる。とっとと離れるぞ」
「痛でででで! もうちょっと優しく……」
そう言って俺の左肩を持ち、半ば無理矢理に連れられる。
何はともあれ危機は脱した。グロブスターが目立った動きを見せていない以上、今はこの場から逃げるのが最善手。
外壁に沿って進んで行き、町へ出入りする門を通ってすぐの場所にある関所に逃げ込む。ここで一旦休憩だ。
「それにしてもレフカ。お前今までどこにいってたんだよ?」
「じ、実はだな……。えーっと、鎧を取りに宿屋に戻ったら避難する人波に飲まれて避難区域の方まで流されてしまってだな……」
「あんなに威勢良く飛び出しておいて、人波に流されるなんて恥ずかしくないの?」
「う、うるさい! それよりも、体が痛むならこれを飲め。少しは和らぐはずだ」
自身の失態を誤魔化すように、レフカはどこからか液体の入った小瓶を取り出して俺に渡した。
あ、これ見たことある。確か、レフカと出会った日に道具屋で買ったポーションに似ている。てかそれだ。
発言から見るにこれは体力回復系だと思われる。一応自分のステータスを確認すると、体力ケージは全体の三分の一くらい削れてた。それを見ながら飲んでみると、予想通りケージは回復。心做しか体の痛みが引いた気がする。でもやっぱ痛いわ。
「にしてもだ、レフカ。あのデカブツをどう攻略する? 俺が先に出て戦ってみたけど、やっぱり救難信弾以外の攻撃が効いている様子は無かったぞ」
「信弾か……」
俺の実体験を伝えると、レフカは自分の顎を摘んで考え始める。
アイテムとしての信弾は効いたが、魔法で再現した信弾は通じなかった。てことは、つまりグロブスターに魔法は通じないってことか? だとしたらやばいな。
俺もレフカも攻撃には魔法を使う。おそらく他の冒険者らもそうだろう。主力を封じられればあの硬い表皮に傷を付けるのは難しくなる上、おまけにデカい。長期戦になるのは確実と見た。
あー、でもグロブスターが第二形態……まだイソギンタコって呼んでた時にレフカが使った銀玉を撃ち出す魔法は若干ではあるが効いていたのを思い出す。
んん、どういうことだ……? 魔法は効かないが、魔法で生成した銀玉をぶつけるのはオッケー。ダメージを与える物の本質は同じなのに矛盾が生じている。
「……レフカ。昨日お前が使った、あの銀玉を作って飛ばすやつって今出来るか?」
「可能だぞ。しかし、急になんだ? あまり無駄撃ちはしたくないんだが」
「二、三粒だけでいい。ちょっと気になることがあってさ」
「仕方ないな……。後で魔力供給してもらうからな。……弾け散れ、『
そう頼み込むと、レフカは渋々ながらもその技を少しだけ使ってくれた。
縦に構えた剣の剣身から、あの時と同様にいくつものの銀玉が浮き立つ気泡の様に生成される。こうして見ると結構気持ち悪い作り方だな。
そして軽く振るうと銀玉は全て剥がれ落ちて地面へと転がった。二十粒程作られ、その内の数粒を拾ってステータスを確認する。
『
『鉄製器を触媒として発動する物理魔法。鉄粒一つ一つが濃縮固形化した魔力であり、一度の使用で生成した鉄粒の量と大きさによって必要な魔力量は変動する。物質化されている間は鉄の性質を得る』
……ふむ、やっぱりか。これは魔法でありながら物理攻撃が可能で、その特性故か感触も鉄に近い。なるほど、少しだけ答えが見えてきたな。
「言われた通りにやったぞ。で、気になることとは何だ?」
「ああ、まだ憶測の段階だけど、奴に対して有効かもしれない攻撃が分かったかもしれねぇ」
「有効な攻撃が分かっただと? 詳しく聞かせ──!?」
と、このタイミングで地面が大きく揺れ動いた。もしかしてと思い、壁に隠れながら窓の外を確認すると、案の定グロブスターが再び動き始めていた。
しかも、こちら側に向かって壁を壊しながら進んで来る。もしかして、食おうとして逃げられた俺を捜してんのかな? どちらにせよ、このまま関所に立て籠もり続けていれば巻き込まれるのは目に見えている。
「まずいな。奴が動き出したっぽい。話は移動しながらする。今はここから出よう」
そう言って俺達は近い未来立て直しになるであろう関所から出る。まだ体は痛むが、一人で小走り出きる程度には回復したので大丈夫。
有効な手段といっても所詮は憶測。もしかしたら効かないかもしれない。
だが、今はこれが効くと信じて行動に移る以外に方法は無い。
あぁ、運よ。この俺に力を貸してくれ……。
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