魔法創造者の異世界人生 ~テンプレ世界を謳歌せよ!~
角鹿冬斗
始まりはテンプレと共に
プロローグ 1
異世界。そう聞いて思い浮かぶのは、当然異世界転生だろう。俺も真っ先にそう思う。
今時のネット小説では、大方社畜あるいはニートがトラックに轢かれて死んで、神様に出逢ってチートを貰い、そして異世界へと行く──こんなものだ。
この俺、
死んだ後もこうして自意識があるのにもそこそこ驚いてはいるが、それ以上に驚きなのが一つ。
「ほっほっほ。有川楓路よ。しんでしまうとはなさけない」
「…………は?」
まさかこんなことが本当に起きるとは、異世界ラノベ大好きな俺でもびっくらこいた。
言わずとも知れた名セリフで俺を出迎えてくれたこのお方、白装束に伸びきった眉毛と髭が表情を隠すザ・仙人感フルマックスな風貌。いやはや、まさかとは最初は思ったが、本人がこういうのだから仕方が無い。
「初めまして、ワシは命を司る神柱が一人。そうじゃのう……仮称として仙人とでも呼んでもらえればいいかの?」
「……はい?」
流石の俺も、これほどまでありきたりでありふれたシチュエーションを前にした時、呆然とするほか無かった。
†
「こっちじゃよ有川楓路」
そして、まだろくな自己紹介も出来ないまま、俺は仙人に連れられて光の世界を彷徨している。
光の世界というのは直喩では無く、空も地面もどこを見渡しても真っ白であるからだ。白=光の解釈で見ている。
それにしても、一体どこまで進むのだろうか。空間が空間なため、一向に進んでいる感じはしない。
「ふむ、歩いている時間も勿体ないしの。歩きながらちとばかし説明しようかの」
仙人もこの道中を退屈に感じたのか、どうやらこの俺の現状を説明してくれる様だ。実にありがたい。
「身に覚えがあるとは思うが、君は元の世界で交通事故によって死んでしまった。魂が輪廻に還ろうとしたところをワシが拾い上げたのじゃ」
「あー、そうだったん……だったんですか?」
「ふぉっほっほ。何、敬語などせんで構わん。どうせ年上を敬うなんて苦手じゃろ?」
そこはかとなく馬鹿にされた気がする。事実なのは否定しないが。
少々むっときたが、相手は命の恩人──前提として俺はすでに死んでいるが──故に反論は控えておくことにする。
「……それで、何で俺を救ったんだ? 毎日何百人も死んでるのに」
「そこはあれじゃよ。何百万分の一というワシらの気まぐれに選ばれただけじゃ」
「ワシら?」
突然の複数形。今の発言を察する限り、この仙人以外にも俺を選んだ者がいるということになる。
まぁ、元の世界でも唯一神もあれば、複数の神々を崇める宗教は存在する。この仙人以外にも仲間が居てもおかしいことはない、はず。
「おー、見えてきた見えてきた。おーい、連れてきたぞぉー」
そう仙人は白い世界の奥に見えてきた何かに手を振りつつ、子供っぽく声を上げた。
徐々に近付いていくにつれて、俺は目を細くして何があるのかを確認。すると、そこに見えたのは仮称仙人以外の神と思しき四人の姿があった。
もう少し歩いて、それぞれの姿がはっきりと目に映る。
「遅いよー。一体何年待たせるつもりなのー?」
「何年は誇張過多だ。今回はむしろ早い方だぞ」
「まあ、それはそれでいいじゃないですか」
「うーん。彼が今回の選択者……中々精悍な顔をしているじゃないか。」
発言順に彼らの容姿を説明しよう。
最初のは灰色の髪をした幼女。トーガという衣服だったか、それとなくローマ風な感じがしている。
二番目はおおよそ三十代後半といった、中華っぽい甲冑を着込んだ男。こんな見た目の奴は三○無双あたりで沢山見た記憶がある。
三人目を一言で表すと、隠しきれない巨乳である。冬用のコートにも似た純白の厚着にも関わらず、その胸がボタンを弾けさせようとしている感じ。地味系な美人だ。
ラストは俺のことを精悍だと言ってくれた長髪の男性。所謂糸目が特徴的な中性的な風貌をしており、何となく竪琴が似合いそうだ。
仙人も含めて計五名。姿形はおろか老若男女一人一人が個性の塊の様な方々が俺の前に姿を現してくれた。
これが『ワシら』という言葉が指していた者達。明らかに神様っぽいのからどう見ても一般人にしか見えない風貌の者もいる。あまりにも個性が強すぎる面々が、何故かちゃぶ台を囲んでいる。
「んんっ。では早速本題に取り組もうかの。……有川楓路よ」
「えっ、はい」
「お主、『異世界転生』には興味ないかの?」
はい、来ました
異世界テンプレ小説大好きなこの俺。生前に買っていたラノベも異世界物ばかり。異世界に行く夢も幾数十と見てきた。よって、この提案に否定を申し立てる考えは俺の中には絶無。
「行きます! 興味ありますッ!!」
「おおっ、そうかそうか。行ってくれるか」
思わず苦手な敬語も出つつ、仙人に迫りながら提案に肯定した。
あっちもこの音速反応に驚いたのか、体を退けらせつつ俺の言葉に頷いてくれる。どうやらもう行くのは決まったみたいだ。
「この反応から見るに、生前に未練は無いように見えるが……。行く前に一つ答えろ。一度決まった以上、転生したら後には戻れないぞ。親や友、本来歩むべき将来も放棄することになる。それでもいいのか?」
「そんなの……。ああ、そういえば最後に買ったラノベとか一行たりとも読めてなかったや。うーん、まぁこれくらいかな?」
「未練がしょぼい! ……ううむ、だが本人の言葉だ。致し方ない」
まぁ、一度死んだ以上、元の世界には戻れないのは分かり切っている。親とか友人とか、そういうのはあっちが悲しんでくれるはずだから良い。だが、それとは別に自費で購入した物をほぼ手付かずのまま捨てた様なことになるのはやや惜しい。
中華鎧の神様は俺の無欲さに大層驚かれた様だ。これ以上の質問はしないとみられる。
「うーん、この異世界に対してのどん欲さに比例して低い現世への未練。やはり君が行くに相応しいみたいじゃの。ワシは嬉しいぞ」
理由は不明だが何故か感動され、仙人は俺の肩を叩く。
選定基準があまり分からないが、どうやら俺は異世界転生に相応しいらしい。よっしゃラッキー! 心の中でガッツポーズ。
「では、早速転生の準備をしよう。その前に、有川楓路よ。お主、チートは好きかの?」
「チート? え、マジ!? チート転生出来んの!?」
「うむ。一応、転生先に設定してる世界には魔法もあればモンスターも数多く生息しておるからの。ある程度の規格外さは有ってもいいと思ってな」
何と気前の良い仙人なのだろう。異世界テンプレにほぼ必ず付属する『チート能力』を授けてくれるという。しかも、転生先はファンタジー世界。願ったり叶ったりとはまさにこのこと。最高かよ。
「とりあえず、お前さんにはワシを含む五人から各一つづつ能力を選択してもらう。一度決めたら取り消し返品は不可じゃ。よーく考えて決めなさい」
そう言われると、仙人を除く四人はちゃぶ台から離れ、いつの間にか俺の眼前に立ちはだかる様に立っていた。
横一列に並び、各々の個性の強さが目に飛び込む。
「さて、有川楓路よ。まずはワシの選択に答えるが良い」
異世界に行く前に、まずはキャラクターメイキングからって訳だ。
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