第31話「暗転する司令室」
同時刻
殲滅機関日本支部 作戦司令室
白を基調とした壁面に覆われた司令室は、小学校の教室ほどの大きさで、そこに集まっているオペレータや作戦参謀は二十人程度。
室内にはピリピリと緊張感が漂っているが、人々の表情は明るい。
部屋前面の巨大モニターには、作戦進行状況が表示されていた。
教団本部ビルを表した3Dモデルが赤と青に塗り分けられている。すでに全体の七割が、味方を示す赤色だ。快進撃だ。
「十一階の制圧に手間取っているようだが?」
部屋の一番後ろの座席に陣取るロックウェル少佐が、四角い顎を撫でながら言う。
参謀の一人、若い眼鏡をかけた女性が快活な声で答える。
「44小隊が攻略中です。火力強化型の編成ですし、歴戦の影山隊長です。心配はないかと」
「一個小隊で充分なのか? 複数小隊を集中投入しなくて良いのだな?」
「はい。狭い廊下や部屋が並ぶ場所では、数十人規模を投入しても混乱するだけです。事前のシミュレートで明らかになっています」
「ふむ。損耗率と、教団員の救出はどうだ?」
「どちらも予想以上にうまく行っています。損耗率十二パーセント、うち死亡者四パーセント」
「教団員は二百名以上を救出、うち治療に急を要する四十名をチヌークで当基地に搬送中です」
「心配無用です、局長! 進捗率は事前のシミュレートを遥かに超えてますよ! 問題といえば……」
「いえば? 何だね?」
「たったいま十五階で、突発的戦闘があったという報告があります。天野敬介が暴れたというのです。天野は蒼血の能力を手に入れているようだ、という報告です。天野は逃走した模様です」
「ふうむ……?」
「追撃するべきでしょうか。優先的な兵力配分を?」
「いいや。他の蒼血と同じ対応でいい。遭遇した場合は殲滅を」
「了解!」
と、その時、オペレータの一人が緊迫の声で告げた。
「部隊=本部回線に割り込みがありました。ヤークフィースを名乗っています」
ロックウェルは片眉を上げた。本部に通信を送れること自体は不思議ではない。シルバーメイルを一体手に入れれば、特別仕様の通信機がついてくる。使用方法は隊員の脳を漁ればよい。
だが何のために通信を?
「降伏でもする気でしょうか?」「そいつは楽でいい」「あっけないもんだな」
参謀達が軽口を叩く。すでに場の空気は楽観に支配されていた。
「つなげ」
ロックウェルが命じ、オペレータが操作する。
次の瞬間、そこにいた全員が目を見張った。
巨大スクリーンいっぱいに激しい戦闘が映し出された。
教団本部の暗い廊下で、マシンガンを撃ちまくる装甲服の集団。
撃ち倒されていく、ウロコに身を包んだ怪物達。すさまじい速度で天井や壁を這い回る、昆虫型の怪物達。怪物に押し倒されて装甲を破られ、中身の肉を食い尽くされる人間達。
人間の姿をした物が、撃たれて怪物に変貌する場面もあった。
若干荒い映像ではあるが、殲滅機関と蒼血のすべてが映し出されていた。
ついで、柔らかく澄んだ女の声が司令室にあふれた。
『……お久しぶりです、殲滅機関日本支部のみなさん。いいえ、前にお会いしたのは数十年も前のことですから。はじめましてと言ったほうがよろしいですね。
単刀直入に言いましょう。
我々は、今回の戦いをすべて撮影しました。取引をしましょう。
いますぐ戦闘を中断しなさい。さもなければ、この映像を公開しますよ。
わたしはこの動画を国内外のインターネットに流す能力があります。都内各所に、直接投影して人々に見せることもできます。
あなた方の隠し通したかった蒼血のことが、世界中に知れ渡って大混乱ですよ。
ハッタリではない証拠をお見せします。国内最大の動画サイトをご覧ください」
オペレータが青ざめた顔をキーを叩く。先ほどとは一転した、恐怖に歪んだ声を上げる。
「み、見てください……新着動画が……」
ロックウェルは思わず身を乗り出してしまった。
モザイクをかけたように粗く、注意してみないと何が起こっているのかわからないが、それでも十秒程度の短い動画がアップロードされていた。
シルバーメイルを着た隊員がマシンガンを乱射して、「明らかに人間ではないシルエットのもの」を倒す姿が。
『これはほんの小手調べ。全部を公開したら、どうなるでしょうか?』
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