第8話「ヤークフィースとゾルダルート」

 闇の中で、ふたつの超生命が会話していた。

 幾百年もの時を生き抜いたフェイズ5の蒼血。

 『神なき国の神』ヤークフィースと、『魔軍の統率者』ゾルダルートだ。

 二体の間を飛び交うイオンのパルスを、人間の言葉に翻訳したならばこんな風になるだろう。


『時が来ました。目を覚まして下さい、ゾルダルート』

『本当にやるのか、ヤークフィースよ?』

『おや、怖じ気づきましたか? もしや久々の文明国が恐いですか? 日本には殲滅機関の大拠点がありますからね』

『ほざけ。儂がアフリカや中東を転々としておったのは戦が多いからに過ぎん。この日本で本当に戦など起こせるのか、と案じているのだ。儂とて歴史くらいは調べた。もう半世紀もの間、ぬるま湯に浸かっている国ではないか』

『ご心配なく。日本は必ず戦火に包まれます。それも歴史上有数の大戦争にね。神の戦によってこの国は焼き滅ぼされ、瓦礫の中から誕生するのです。このわたしに統治された理想の国家が!』

『やれやれ、また人形遊びか。ソ連邦を半世紀も弄んで、まだ満足できんのか?』

『当然ではありませんか。わたしは人類の救済を決して諦めませんよ。楽園の創造を。ソビエトは楽園の器として不完全だったのです。この国ならば、世界への楔となり得る』

『まあ良い、人形遊びに興味はないわい。思う存分戦えればそれでよい』

『存分に腕をお振るい下さい。エルメセリオンと殲滅機関が力を合わせた今、わたしでは力不足。ゾルダルート殿の武勇が必要です』

『おうとも、任せておけ。だが頭を使うのはお主の仕事だ。失望はさせるなよ?』

『愚問ですな。必ずや成功させます。ソビエトより放逐されて十数年、すべてをかけてこの計画を練り上げてきたのですから。この国の人々の心に大きな穴が開いていることはすでに把握しています。この姿を選んだのも、この場所を選んだのも、少女神というイコンを効果的にするため。いま神が降り立ちます。そして生まれるのです、完全なる世界が!』

 

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