第23話「千界の漂泊者」

 フェイズ5はそれぞれ全く違う個性を持っている。

 ヤークフィースは『人類を支配して理想社会を作る』という目標を決して譲らない。何度も社会を作っては壊してきた。

 ゾルダルートは戦いが大好きで、戦場を縦横に駆け巡り、殺しまくることができれば他の事に興味を持たなかった。

 とにかく人類社会を混乱させることを楽しむ者もいた。犯罪の世界に王国を築き、そこを守ることだけに専念する者もいた。

 そしてエルメセリオンは……探求者だった。彼はただ知りたがった。

 人間は、どんな生き物なのかと。

 蒼血たちは口を揃えて言う。人間は劣った生き物、愚かな生き物と。我らに飼われる家畜だと。

 だがしかしエルメセリオンは思うのだ。

 ……その愚かな生き物に、いまだ我々は勝てないではないか。完全な人類支配は実現していない。存在を秘密にしているのも、正面からの総力戦をやって勝てない証拠ではないのか。真に強いものは、隠れる必要などない。

 かといって人類が、自称するほどの『万物の霊長』とも思えない。

 知りたい。ヤークフィースのように思い込みで突き動かされるのは嫌だ。人間がどんな生き物か、その真実を知り尽くしたいのだ。

 だからエルメセリオンは眷属を育成せず、人類社会に根を降ろすこともなく、ただ人間の体を適当に乗り換えながら、世界中のあらゆる国、あらゆる身分の人々を見て回った。

 故に、この時期のエルメセリオンは『反逆の騎士』ではなかった。『千界の漂泊者』と呼ばれていた。

 何百年もの間、さまよい続けるエルメセリオンの中に、だんだんと結論がまとまりつつあった。

 ああ。人間は、やはり愚かで下らない。

 活力はあるかもしれない。短命だからこその煌きはあるかも知れない。

 戦争への執念も見上げたものだ。牙も翼も持たない、どれほど努力しても生やすことができない人間が、鉄を鍛え、火薬を調合して様々な兵器を作り出す様は心がおどる。

 だが、そこまでだ。

 人間達は幾千年の昔より、殺すな、騙すな、奪うなと言い続けてきたのに。神の前に人は平等と言ってきたのに。

 聖職者の前でこそ愛を叫ぶが、翌日には奴隷に鞭打って、知る限りの武器で殺しあう。全てが終わった後になって、「戦いの原因はあいつらだ、俺は悪くない」と叫ぶ。数々の理想はあるが、いつだって現実は、ただ強い者が弱い者を殺し、貪るだけだ。

 口先だけの愛と、凶悪な本性を抱えたまま、人類はなおも科学を発達させ、その力を増し続けている。

 二十世紀がはじまり、世界大戦の死屍累々を見て、エルメセリオンはほとんど確信しつつあった。

 ヤークフィースは正しかったと。

 この野蛮な生き物を野放しにはできない。

 我々、聡明な優良種が管理するべきだ……

 そんなことを思いながら、日本を訪れた。東洋の片隅にあって、数々のハンデを乗り越えて欧米列強に追いつこうとあがく、新興の帝国だ。

 そして、天変地異に遭遇した。

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