第25話「誓約」

 かくして、凛々子はエルメセリオンの宿主となった。

 

 エルメセリオンは今まで使っていた実業家の体を殺して捨てるつもりだったが、凛々子が抗議したため、記憶を作り上げて自由意志を与えてやることになった。彼は普通の人間になって神戸に帰っていった。

 その後、帝都のあちこちを飛び回り、潰れた家の下から被災者を救い出し、今回と同様のリンチ行為や、どさくさ紛れの犯罪を何度も何度も止めた。

 この大震災においては帝都のみならず関東各地でリンチ殺人事件が起こり、一説によれば二千人もの人々が殺されたが、もし凛々子の活躍がなければ死者数は何倍にも膨れ上がっていただろう。

 一月ほどたって、混乱が一段落した頃。凛々子は蒼血に戦いを挑むことを決めた。エルメセリオンから蒼血に関する詳細を聞いたからだ。人間を家畜と蔑み、人間に寄生して社会を裏から操っている奴らのことを。ことに一国すら動かすフェイズ5のことを。

 あらゆる悪と戦い、あらゆる人間を救うには、あまりに力が足りない。

 たった一月で思い知った。

 ならば治安も回復したことだし、普通の犯罪のことは警察に任せておこう。

 警察では対処できない敵、蒼血と戦うことを主な使命としよう。そう決めたのだ。

 凛々子は世界各地を転々として蒼血と戦い、やがてエルメセリオンは、「反逆の騎士」という新しい綽名で呼ばれるようになる。

 そして戦い続けること、八十年あまり。

 凛々子は約束を破ることはなかった。

 いついかなる時も、「人間はバカなんだから、ダメな生き物なんだから仕方ない」とは言わなかった。

 裏切られても、救いきれなくても、人間を信じ、苦しむ人のために涙した。彼らの幸福のための戦いを一日もやめることはなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る