VS.社会常識

14 VS.社会常識


14 VS.社会常識ワールドスタンダード




 どうやら、この世界に実質化した‘ 魔 ’はいないらしい。


 そう、判断したのは、この世界に“ 転生という呪い ”でやってきて三月目の冬だった。


 この3ヶ月間、日本というこの地域のみならず、地球と呼ばれる惑星全てを探査したが、実質化した‘ 魔 ’は見つけられなかった。


 低級の‘ 霊魔 ’すらいないし、神霊術や精霊術や‘ 命気 ’を使う討魔者も、またいない。


 UMAと呼ばれる未確認生物も‘ 魔 ’ではないし。


 悪霊と呼ばれるものも、宇宙人と呼ばれるものも、死魔や幻魔といった全ての生命いのちの敵ではなく。


 人の悪意や邪念や恐怖から生じた幻影だった。


 超能力者と呼ばれる者も、霊能力者と呼ばれる者も、神の使徒と名乗る者も、ただの人間や みかけ ’だった。


 この世界で‘ 魔 ’は‘ みかけ ’の心の中で育ち、冷酷な悪意や傲慢な欲望として感染していくもので。


 実質化し、生命いのちを直接奪うものではなかった。


 人間以外の生物の死骸や物質に憑く事すらない夢幻に近い存在で。


 “ 神々という‘ 魔 ’ ”すら、この世界ではそういうものだった。


 あちらの世界のように、時に実質化して莫大な被害と共に破界位の‘ 魔 ’を滅ぼしたりはしない。


 ただ、他の‘ 魔 ’と同じように、甘えた者達を依存させながら蔓延り、時に他者を害するだけの存在だ。


 それでいて、‘ みかけ ’が操る軍という組織を動かして、互いに殺しあう戦争と呼ばれる行いが蔓延り。


 世界を滅ぼせるような兵器まで造っている狂った世界だった。


 殺し合いにルールを造り、軍を操る権力を持った‘ みかけ ’などに直接被害がでないようにして争っていたが。


 そのルールを破ったテロリズムという方法が使われるようになって。


 今は世界中が‘ みかけ ’同士の殺し合いに巻き込まれた混沌とした時代になっているようだ。


 どうやら、この世界は‘ 武族 ’の在り方で運営される国家と呼ばれる単位に別れ争いあっているらしい。


 ‘ 武族 ’の在り方は、力で他者を服従させる方法で集団を大きくしていき、争いあうための力を増やしていくというものだ。


 一番大きな権力を持つ者達が、配下を、部下を、手下を、従え、その下、さらに下と連ねながら服従の連鎖で世界を造ろうとする。


 そういう世界だから、戦いが起こるのは、あたりまえだろう。


 また商人達も ‘ 武族 ’の在り方で富を集め、国家に働きかけて利益を得ようと争い合い。


 それが原因で戦争が起こったり、大量の餓死者まで出すような惨事も引き起こすらしい。


 ‘ 農族 ’や‘ 商族 ’や‘ 匠族 ’などの生き方をする者は少ない。 


 農業も商業も工業も‘ 武族商人 ’達が牛耳っているからだ。


 おそらく、‘ みかけ ’が、そういった惨事の裏に潜み、商業組織を操る事が原因なのだろう。


 実質化した‘ 魔 ’のいないこの世界で、人は争いあいながら地に満ち。


 ついに心だけが‘ 魔 ’と化した無数の‘ みかけ ’ばかりがのさばるかのような世界を造っていた。


 もちろん、平和な地域などでは、そうでない者の方が多くいるのは確かだろう。


 だが、そういう地域に存在する国家でも、組織を動かす者達の中には多くの‘ みかけ ’がいるようだ。


 この日本という島域でも、国家を運営しているのは‘ みかけ ’やそれに騙された者達に思える。


 この世界に討魔者は他にいないようで、誰も‘ みかけ ’とそうでない者の区別がつかない。


 何とかしたいところだが、‘ 魔 ’が実質化する事のないこの世界の常識では、討魔者は“ ‘ 魔 ’を滅ぼすための‘ 魔 ’ ”ではなく。


 “ 人間の精神を砕く‘ 魔 ’ ”にしか見えないだろう。


 実際は、‘ 魔 ’に心を喰い尽くされた‘ みかけ ’以外に‘ 命気 ’を撃ち込んでも気を失うくらいで、記憶や人格が破壊されたりはしない。


 実体を持った存在を破壊するのは、精霊術を使う。


 精霊術で‘ みかけ ’らしき悪行を働く人間達を見つけ、ただ殺していくのなら容易たやすい。


 この惑星を探査した‘ 練成擬似生命 ’を使って、微量の雷を使い心臓を破壊しても、気づかれたりはしないだろう。


 だが、それは討魔者ではなく、ただの‘ 魔 ’の所業だ。


 生命いのちを奪う‘ 魔 ’ではなく。

 ただ、“ ‘ 魔 ’を滅ぼすための‘ 魔 ’ であるのが討魔者。


 それを忘れた討魔者は妖魔と化す。


 この世界でも、それは変らないはずだ。


 ‘ みかけ ’かどうかを判断するには、《霊視眼》で、直接、姿を見なければならず。


 ‘ みかけ ’の心に巣食う‘ 魔 ’を滅ぼすのも、‘ 命気 ’を使わなければならないので、それには直接‘ みかけ ’と対峙する必要がある。


 それは、この世界の人間には見えない数千の‘ 練成擬似生命 ’に命令を与えて放つのと比べれば、遥かに困難な事だった。


 討魔者を増やすか、新たな術かスキルを開発しなければ、全ての‘ みかけ ’をどうにかする事は難しいだろう。


 討魔者は──同化した神使の魂を継がせる事はできても──増やすような事はできないだろう。

 

 ならば、新たな術かスキルの開発か。


 また数十年はかかる。


 しかも、今度は手助けもなしだ。


 正直、うんざりするような作業だが、放って置くわけにもいかないだろう。


 転生の呪いを創った神々が、何を考えていたか正確なところは解らないが、この世界を意図して送り先に選んだのなら、実に皮肉が利いている。


 お前のような討魔者は、あの世界に必要がないのだと言っているのか?


 ‘ 魔 ’を滅ぼす事に疲れただろうからと休暇を与えたりするほど、神々は人間味にあふれた存在ではない。


 神々という理性を持つ‘ 魔 ’が、他の‘ 魔 ’を喰うことで無限に力をつけていく獣同然の‘ 魔 ’を排除するために、生命いのちを利用しているだけだ。


 あるいは、‘ 魔 ’が実質化しなくても存在はしているのなら、世界から溢れた‘ 魔 ’に悩まされたせいで、この世界に送られたのか?


 討魔者である事をやめ、ただの人として生きる道を選ばないと見越していたのなら、業腹だが正解だ。


 何れにしろ、神々が人の心を汲むような存在ではないという事に変りはない。


 転生の呪いがどういうものにしろ。


 ここにこうして在る以上、討魔者としてやる事は決まっていた。




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