27 PS.ある要保護児童の畏怖



27 PS.ある要保護児童の畏怖



「なあ、イチロウって、こわくないか?」


 プラ粘土で遊んでると、ビビリのタクヤが新入りのことを話し始めた。


 こいつは、弱虫ですぐにビビる。


 だから、いなくなったクソイに目をつけられ、よくイビられてた。


 おれだってクソイにイビられたし、おんなたちだってそうだった。


 おれたちは、‘ 可哀そうな子供 ’だった。


 こいつもチビたちを時々、いじめてたから、あまりかわいそうでもないけど‘ 可哀そうな子供 ’だ。


 だから、自分達が‘ 可哀そうな子供 ’と判ってないチビたちをいじめてたら新入りにビビらされたんだ。


 なんかクソイにイビられた時よりビビってた。


「そういや、タクヤ。ジッとにらまれて、ビビってたよな」


 そう言ってやるけど、ホントはビビるどころかチビってたのを知ってる。


 しかも、イチロウにないしょでパンツを変えてもらってたのを、おれは知ってる。


 でも、おれはないしょにしてやってる。


 ‘ 弱みをニギってる ’ってやつだ。


「……アレ、なんか、こわいんだよ」


 自分が特別にビビリじゃないと思いたくて、タクヤはおれたちも怖がらせたいんだろう。


 イチロウは、チビっちーけど、なんか死んだジイちゃんみたいで、少し怖い。


 でも、おれはビビりじゃないから、鼻で笑ってやる。


「あんたが悪いことしなきゃ、いいんでしょ。普段はこわくないもん」


 ユイも、叱ってくるセンセー達みたいな時のようなイチロウは怖いらしい。


「やっぱ、こわいんじゃん」


 ユイが‘ 弱み ’を見せたので、タクヤは嬉しそうだ。


「なんか、大人にしかられてるみたいだから」


 そういわれて、死んだ父さんと母さんのことを思い出す。


 イチロウを見てると、なぜか時々そうなる。


 ユイもそうなんだろう。


 なんか、‘ 哀しそうで少し嬉しそうな感じ ’だ。


 ‘ 哀しいけどそれだけじゃないこの感じ ’をなんて呼べばいいのか、おれには解らない。


 けど、‘ 可哀そうな子供 ’といわれて優しくされるよりはマシな気分なのはマチガイない。


 あいつらは、おれたちの‘ 弱み ’を見つけて可哀そうがるのが好きだから、おれたちは。あいつらの前だと、いつも‘ 可哀そうな子供 ’でいないといけない。


 でも、おれは、いつまでも‘ 可哀そうな子供 ’じゃ、いない。


 だから、おれは‘ 弱み ’を見せず、‘ 弱みをニギって ’なきゃいけないんだ。


 ここで‘ 哀しいけどそれだけじゃない感じ ’を顔に出したら‘ 弱み ’を見せる事になるから、おれは、そんな感じに気づかないふりをした。


「センセーより、こわいよな」


 タクヤのやつは、‘ 弱み ’を見せてるのに楽しそうで、見ているとなんか苦しくなる。


「うん。なんかいつのまにか後ろに立ってたりするし」


 ユイも、そんなタクヤと同じように‘ 弱み ’を見せて笑っている。


 苦しいのは‘ 弱み ’を見せないおれだけだ。


「うん、あれこわいよな」


「みんな、ビビりすぎ。おれ、こわくないぜ」


 だから、タクヤに反対する。


 ここで、怖いと言ったら‘ 弱みをニギってる ’事にならないから、おれは、みんなを笑ってやった。


「…………」


 そんなおれをオバケでも見るような顔でタクヤが見る。


 ヤメロ、なんでそんな顔……。


「…………」


 苦しくてユイを見たら、おれじゃなく、おれの後ろを見てるんだと判った。


 タクヤも、おれじゃなくおれの後ろを見てると判って、少しホッとしたら、急に怖くなってきた。


 おれの後ろ!?


「おい、なに黙って後ろ…………うああああああっ!!」


 後ろに、いつのまにかイチロウがいる!!


 ち、ちびった。 オシッコでた。


 怖い、イチロウが、いつもは優しいけど、叱られるときは怖いジイちゃんみたいに怖いっ!!


 涙もでてきて、大泣きしたおれの頭をポンポンと叩いて。


 その後、イチロウはパンツを変えるのを手伝ってくれた。


 おれもビビりすぎだった。


 でも、‘ 弱み ’を見せたのに、なぜか嫌な気分じゃなかったんだ。


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