VS.不法雇用

28 VS.不法雇用




28 VS.不法雇用サクシュ ノ シクミ






 難民と呼ばれる人々がいる。


 戦乱や迫害で住む場所を失い、豊かな地を目指して故郷を離れた者達だ。


 争い合う仕組みについていけなかった者達や、争い合う仕組みの中で敗れた者達だ。


 奪う事を拒んだ心ある者も、奪い合いに負けた一握りの‘ みかけ ’も一括ひとくくりにそう呼ばれる。


 

 過去の‘ みかけ ’達が創った“ 住む地で、‘ 征服統治組織 ’に分かれ争いあう仕組み ”。


国と呼ばれるそれがあるため、そういった者達を、援ける事は困難になっている。


 自らを為政者と呼ぶ‘ 征服統治組織 ’の権力者は、一握りの‘ みかけ ’の所業を大きく取り上げて宣伝して、ときに恐怖を煽り、ときに損得だけが大事だと騙り。


 救いの手を差し伸べる気高さよりも、人を見捨てる卑しさに甘える事を正しいのだと、奪い合いの利権を守る権威主義という理屈を騙り。


 ‘ 清濁併せ呑む ’という言葉を、善悪をうやむやにして混沌の中で悪事をするのが正しいという意味で使い、善を踏みにじり、‘ みかけ ’を増やしていく。


 国という‘ みかけ ’の仕組みで、‘ 他を服従させるための強制力 ’を、持った大国と呼ばれる‘ 征服統治組織群 ’では。


 ほんの数世代ほど前まで、臆面もなく‘ 貴族 ’を名乗る‘ 武族 ’の征服者が、生産者から力で富を収穫する仕組みが、当たり前の事だったらしい。


 ‘ 貴族 ’などと自ら名乗っても、その生き方の本質は、‘ 魔 ’に魅入られ、力を求めて強い者に媚び、弱い者を蔑む卑しい生き方を選んだ者達だ。


 ‘ 武族 ’と‘ 武族商人 ’の権力争いで、‘ 武族商人 ’が優勢になっていった事と、世界を十数日もあれば一周できるほどに狭くする技術の開発で。


 国という枠組みを越えて、“ 征服者と服従者いう‘ みかけ ’の仕組み ”は、人間を争いあわせながら、広がっていったようだ。


 “ ‘ 封建主義 ’という血統で繋がる‘ 武族 ’のための‘ みかけ ’の仕組み ”を‘ 武族商人 ’が、傭兵と呼ばれた‘ 武族 ’を使い、暴力で壊したフランス革命。


 制度上は‘ 武族商人 ’のために‘ 封建主義 ’を壊したが、‘ 武族 ’の血統主義を残した名誉革命。


 ‘ 社会主義 ’と呼ばれる“ 全ての人間に平等をと口ではいいながら、軍と名を変えた傭兵達の‘ 武族 ’の仕組みと国という仕組みを完全に同一のものとしてしまった仕組み ”で起こされたソビエト革命。


 ‘ みかけ ’が増えていき、新しい‘ みかけ ’の仕組みと旧い‘ みかけ ’の仕組みがぶつかり。


 ‘ みかけ ’の共食いが世界中に広がっていく中、大国同士が大量の死をばら撒く世界大戦が起こる。


 それは、ついには、‘ 原子爆弾 ’という‘ 魔 ’ジメツそのもののような兵器を生み出す事になった。


 その事に危機を覚えた服従者達が、‘ 魔 ’ジメツに抗う‘ 民主主義 ’や‘ 人道主義ヒューマニズム ’という‘ 人 ’のための仕組みを掲げ、平和運動を起こすが、内外の‘ みかけ ’によって骨抜きにされていき。


 そして、現代では、‘ 武族 ’の時代なら‘ 貴族国 ’とでも呼ばれたであろう‘ 先進国 ’と‘ 平民国 ’とでも呼ばれたであろう‘ 発展途上国 ’が、生まれていた。


 ‘ 先進国 ’の者達の多くは、かつての‘ 貴族 ’のように、貨幣を持つ量によって上下関係を造る‘ 武族商人 ’の生き方こそが正しいと信じさせられ。


 ‘ 発展途上国 ’では、‘ 武族 ’の生き方と‘ 武族商人 ’の生き方をするものの権力争いが続き。


 多国籍企業という‘ 武族商人 ’の営利組織がそれを利権のために利用して、争いを起こす仕組みが‘ みかけ ’によって造られ。


 代理戦争という‘ 先進国 ’の権力争いを‘ 発展途上国 ’での権力争いを使って間接的に行う仕組みが造られ。


 ‘ 貴族 ’という‘ みかけ ’の仕組みと、平民の‘ みかけ ’が争そったように、その仕組みを壊そうとする‘ 発展途上国 ’の‘ みかけ ’はテロリズムと呼ばれる仕組みで‘ 先進国 ’と争う。


 それが、この世界の‘ 魔 ’に満たされた今だ。


 だが、‘ みかけ ’の仕組みに飼い馴らされた人間達は、その現状をあたりまえとして過ごしていた。


 ‘ 武族 ’の時代、‘ 貴族 ’に生まれただけで、恵まれた‘ みかけ ’達が、権力を巡って争ったように。


 ‘ 先進国 ’に生まれただけで、恵まれた‘ みかけ ’達が、利権を巡って争い合うため、‘ 発展途上国 ’で殺し合いを起こし。


 難民という被害者が生まれても、それを援ける事など搾取者である‘ 貴族国 ’の‘ みかけ ’達は考えもしない。


 ‘ 武族 ’の時代だったなら、‘ 奴隷契約 ’とでも呼ばれたであろう‘ 不法雇用契約 ’で難民を縛る仕組みで。


 ただ、難民を‘ 人的資源 ’という道具として使うことを考えるだけだ。


 この島域でも、不法雇用というものは、犯罪組織や末端の弱小企業群で行われ。


 その利益が大企業や国家に流れるような仕組みが造られていた。


 当然、‘ みかけ ’が造っただろう仕組みは、多くの‘ 魔 ’に魅入られる人間を生み出していた。


 チョウと名乗らせた‘ 擬身 ’が、貨幣調達に使ったのは、そういった組織群での仕事だった。


 この島域で起きた地震と津波で、原子力いう危険なエネルギーを使った生産機械が壊れ、そこから放射性物質という数十万年も残る毒がもれ出て。


 そこでの作業に‘ 不法雇用契約 ’で縛られた人間が駆りだされたのだ。


 チョウも、そこで働く事になった。


 もっとも、直ぐにその仕事よりも‘ みかけ ’から‘ 魔 ’を祓う事のほうが、主な働きになってしまったのだが。


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