VS.児童虐待

21 VS.児童虐待

21 VS.児童虐待イジメ ノ レンサ




 病院から出た後、凉樹一瓏スズキ イチロウは保護者がいないため、<他生之園>という児童養護施設に送られる事になると知って、そこを調べてみる事にした。


 そこでは、児童福祉などというものを、この島域を統治する組織の運営者達が本気で考えていない事を示すような情況が繰り広げられていた。


 ‘ 仏造って魂入れず ’という言葉が、この島域にはある。


 形だけはそれらしく立派で善いものを造ったが、一番大事な在り方が抜け落ちて意味のないものになっているという意味の言葉だ。


 まさに、<他生之園>は、その言葉にふさわしい場だった。


 人が心を‘ 魔 ’に侵されて‘ みかけ ’に至るような環境を造る制度と。


 ‘ 人の心をないがしろにする組織の在り方 ’のせいで、子供を護るための場所で、子供を傷つける事を許すような組織しか造れず。


 それを必要な犠牲と切り捨ててしまい、子供の心を諦めで満たすか、‘ 魔 ’を吹き込むような在り方をした‘ 征服統治組織 ’。


「それが政治であり、経済であり、為政者の正しい在り方である」

 そう、うそぶく‘ みかけ ’の声が聞こえてきそうな場だ。


 職員に‘ みかけ ’が一人いて、周囲を汚染し、子供達を傷つけ、子供達もまた子供達を傷つける。


 弱い者が弱い者を傷つけ、その弱さを強さだと誤魔化す卑屈な心の在り方が、<他生之園>に蔓延はびこっていた


 施設のトップである園長は、‘ 魔 ’にまだそれほど汚染されてはいなかったが、心を諦めで満たされかけて、それに気づいてもいない無気力ぶりだ。


 私営という事が原因なのかと思って、公営の施設も調べたが、全ては施設の職員の質しだいで、監督をする役所の予算と人手不足のせいで、職員の質が低下しているようだ。


 ‘ みかけ ’が長い間かけて築き上げた仕組み。


 ‘ みかけ ’が得をして、‘ みかけ ’を増やし。


 ‘ みかけ ’を地に満たす心の在り方を‘ 正義 ’と呼ぶ誤魔化し。


 それをしかたないと諦めた人々が、この島域の‘ 征服統治組織 ’を動かす人間の中に‘ みかけ ’を増やしたのが、この結果を招いたのだろう。


 だから、起こった問題の対処にではなく、隠蔽にばかり力を入れている組織もある。


 問題の対処をしても、大本の‘ みかけ ’が造った仕組みをどうにかしようとする事を、階級制度というその仕組みが邪魔をする。


 ‘ 民主主義 ’というものが建前でしかなくなっていて、‘ 他者を力で屈服させ富を奪い、奪った富の分け前を仲間に与えて従える在り方 ’こそが、この世界の常識ワールドスタンダードになっているからだ。


 本気で‘ 民主主義 ’を語る者は、“ 綺麗事しか知らない愚か者 ”とあざけられるか、‘ 融通の利かない依怙地者 ’と敬遠され。


 誤魔化しの‘ 似非えせ民主主義 ’で、自分達の利権を公共の利益と偽る者が、‘ 賢明な為政者 ’とかたられ、征服者達の利権組織を守らなければならないと信じ込ませる仕組み。


 法を護るのではなく、掟に従う人間を創り出すその仕組みは、一握りの人間が、多勢の配下を造り、争い合うためのもので、弱い者達や未熟な子供達を護り育てるためのものではないのだ。


 そういった誤魔化しを表す言葉。


 為政者が心構えとした‘ 清濁併せ呑む ’と言う言葉が、この島域にはある。


 人は善悪を併せ持つ者だから、共にそれを受け入れ、悪は罰し善をしょうし、ふさわしくむくいねばならないという因果応報の考え方だ。


 ‘ 民主主義 ’ならば為政者とは役割にすぎない。


 だから、当然、為政者の場合は自分も例外にせず、自らを律し、必要悪として悪を行っても、それを悪だと忘れてはならず、しかたなく悪を為したとしても、罰を受けねばならない。


 それが、法を護るという事だからだ。

 護らねば法はその意味を失い、有名無実となり滅びていく。


 だから、人は法の下に平等に裁かれるべきという法治主義で、自らを律し、‘ 民主主義 ’では‘ 身分 ’で例外を認めない。



 だが、自分が特別で“ 為政者とは‘ 身分 ’である ”と考えるものは、自分達の‘ 身分 ’なら悪も許されるという誤魔化しを望む。


 ‘ みかけ ’は、善も悪も絵空事で、力と利だけが全てで、それが正しい理で、それに従うのが合理主義だとかたり。


 ‘ 清濁を混ぜ合わせる混沌で、全てを濁らせて清を失くす事 ’こそが、‘ 清濁併せ呑む ’という事だという嘘を広め。


 特別な‘ 身分 ’を持つのが、為政者だと考える者達は、‘ ジメツ ’を広める‘ みかけ ’へとなっていく。


 そういう誤魔化しが、この世界の常識ワールドスタンダードを支えるから、‘ ジメツ ’は人を蝕み続けるのだろう。

 


 その仕組みをどうにかしなければならないが、それは人の役割だ。


 人としての凉樹一瓏スズキ イチロウは幼子にすぎず、将来ならともかく、今できる事はない。


 だが討魔者として‘ みかけ ’の‘ 魔 ’を祓い、子供達を護る事はできる。


 だが、一瓏イチロウの近辺で‘ 魔 ’を祓うのには、問題があった。


 警察という治安組織が、初めて‘ 魔 ’を祓った男のことを調べているのだ。


 あの後、数十人の‘ 魔 ’を祓ったが、他の地域で警察組織が継続して調べ続けるような事にはなっていない。


 この状況で、一瓏イチロウの周囲で同じように‘ 魔 ’を祓えば予期しない問題が起こるかもしれない。


 そうなったとしても、‘ みかけ ’でない人間をどうこうする気はない。


 保身のために罪もない誰かを害するという行いは、必ず‘ 魔 ’を心に呼び込む。


 この島域には、正当防衛などという言葉もあるようだが、それは生命いのちを護るために生命いのちを害するのは仕方ないという諦めだ。


 決して、誇れる行いではない。

 ましてや、この場合はそれにあてはまりもしない。


 討魔者のルールでも、それは同じだ。


 ルールに反する行いをし続け、己を律する事を忘れれば、‘ 魔 ’に魅入られ、妖魔と化していく。


 この世界でも、“ ‘ 魔 ’を滅ぼすための‘ 魔 ’ ”と化した討魔者なら、それは同じだろう。


 だから、警察をどうこうしてしまう気はないし、人である警察官に敵対されとしても害するつもりはない。


 そうなれば、“ 凉樹一瓏スズキ イチロウが人として生きる事 ”は難しくなるのは間違いない。


 だが、もちろん‘ みかけ ’を放って置くわけにはいかない。


 保身のために‘ みかけ ’が為す害を見逃すのもまた‘ 魔 ’に魅入られる基となる行いだ。


 そうして、‘ みかけ ’を見逃した者は、自分を誤魔化して生きていく事になる。


 誤魔化しとは‘ 魔 ’を呼び込む行いだ。


 それは、討魔者のルールに反する。


 では、どうするのか?


 ‘ みかけ ’を<他生之園>から追い出してから、別の地で‘ 魔 ’を祓えばいい。


 どうもこの島域の治安組織には管轄という縄張りがあって、別の地域の情報は入りにくいらしい。


 県という統治組織内の区分を離れると、事件になっていない情報など組織として共有されたりはしないようだ。


 調べている警察官も組織としてではなく、個人で動いているようなので、それで充分だろう。


 こちらの常識では、‘ 魔 ’などフィクションの中だけのもので、2歳の幼子が、疑われるような事はないのだから、過剰な配慮だ。


 もし、秘匿されていたり知られていないだけで、常識外の存在がいるなら別だ。


 しかし、フィクションやオカルトの噂や 宗教のウソの中には、ありふれているのだが、こちらの世界には、霊や魂や‘ 魔 ’が実質化した痕跡すらない。


 だから、とりあえず<他生之園>の園長を《瘴気浄化》で‘ 魔 ’の影響から解き放ち、施設の運営用に貨幣を調達して渡し、‘ みかけ ’を解雇させよう。


 後は‘ みかけ ’の意識を奪い、‘ 擬身 ’で表面を覆って、転居をさせてから、‘ 魔 ’を祓えばいい。


 ‘ 擬身 ’は《念動》で動くので、中に何かを収納しても動かせる。

 

  元々はポケットなどの服の収納を擬したり、内部に練成素材を入れて運ぶ想定の機能だったのだが、その応用というわけだ。


 後は‘ みかけ ’の影響を受けた子供達が、‘ 魔 ’に魅入られかけているのをどうするかだ。




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