33 PS.ある情報員の謀略
33 PS.ある情報員の謀略
「おいおい、Ⅹファイルじゃないんだぞ」
意味のない過去のデータのあら探しをしていた無能な上司は、私が出した報告書を、くだらないフィクション呼ばわりしてくれた。
無能な部下は排除できるからいいが、無能な上司は始末に手間がかかるので困る。
「いや、もちろんそう思うのは当然です。私も最初はそう思いました。ですが、こちらのファイルを御覧になっていただければ、‘ 幼児退行症候群 ’の実在は御理解頂けるかと」
無能な働き者ほど組織を危機に招き、敵を利するものだ。
私が上に登った時は、この無能も排除しなければなるまい。
だが出世するためには、無駄に上司を敵に回すリスクを負うわけにはいかない。
とりあえず肯定から入るという無駄な手間が必要だ。
「オマエ、見て判らんのか? 俺は忙しいんだ。緊急でもない要件に時間を割いてられないんだよ」
緊急かどうかはともかく、忙しい仕事とやらは、正規の仕事ではないだろう。
組織の膿を出すために権力闘争は必要だが、優先順位というものが、この無能には理解できないらしい。
「これは、本局のみならず、国家レベルで対処しなければ危険な案件になるかもしれません」
‘ 幼児退行症候群 ’は、オカルト呼ばわりされているが、人為的に起こされているというのを、数学的に証明したのがこのファイルだ。
既に数人、政府の要職についていた人間や多国籍企業の大株主が‘ 幼児退行症候群 ’で倒れている。
スキャンダルや政治力学上の不均衡を怖れて隠されているが、原因不明の症状で国家が脅かされている可能性もあるのだ。
このデータでは、意図的に引き起こされているのは証明できても、意図が解らない。
無差別テロという可能性もあるし、シリアルキラーのような狂気による犯行かもしれない。
しかし、情報分析組織という本局の性質上、それを判断するための基礎データとしては極めて重要なものだ。
「かも? かもで俺の手を煩わす気か?」
断言すれば責任問題になるので誤魔化したが、ファイルに目も通さず、そこを突いてくるか。
私の手柄で出世させてやっているというのに、この男は何が不満なのだ、理解できん。
組織内の敵派閥を攻撃するのは理解できる。
競争なき組織が、無能の温床になるというのは、もちろん。
有能さを評価する上層部が相対評価をする以上、敵派閥の無能さを証明するのは、自己の有能さをアピールする機会だ。
無能な部下を排除するのも、同じ意味で理解できる。
だが、自分の功績となる仕事をしている部下の足を引っ張ってどうするというのだ?
「解りました、申し訳ありません。手隙になりましたら、御覧ください」
しかし、私も大人だ。この程度の非合理性は笑って流せる。
「ヘラヘラするな、バカものが。無能な働き者は局には必要ないぞ」
そう言って無能な上司は、私の仕事の成果を無造作に、ごみファイルを入れる優先度最低のファイルボックスに放り込んだ。
仕方あるまい。
どうやら先にこの無能を葬る手筈を整えなければなるまい。
しかし、それで自分の不利益を招いてはいけない、
早急に手を打つか。
このファイルを使って上層部に直訴などは悪手だ。
となると、あのコネを使って──。
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