白い部屋、赤い染み、黒き鳥

なつ

夢1


 燃えている。

 家が燃えている。

 目の前で起きていることなのに、どこか遠くに感じる。まるで、映画のワンシーンのように、一切の現実感を喪失した風景。

 それでも、火の熱さ、だけは強く感じる。

 そんなにも私の心は冷えていたのだろうか。確かに、私の両手両足は氷のように冷たく、自分の体ではないような気がする。

 それが次第に氷解していくようで、熱が体の表面から次第に内部へと浸透してくる。

 ゆっくりと、ゆっくりと。

 左目から涙が流れていた。

 夢の中での一コマを、心に刻み付けるように、忘れてはいけないと、目に焼け付けるように。

 私は、泣いている。

「火事だぞ」

「救急車を呼べ」

 野次馬が集まる。

 私は力弱く微笑んだ。嬉しかったのか、悲しかったのか、楽しかったのか、怖かったのか。

 どうして私は涙を流し、そして微笑んでいるのだろう。

 燃えている二階の窓に、私の知っている顔があった。

 誰だろう、知っているはずなのに、思い出せない。

 その顔がふと上を見上げ、私の視線もそれに従う。

 一羽の鳥が、空を横切る。

 意識してか、無意識にか、私の足はその燃えている家へと動いた。

「そんなに近くにいると危ないよ」

 誰かが私の肩をぐいと引っ張った。

 次第に意識が途切れがちになる。

 目の前が白くなり、何も考えられなくなる。

 どこか遠くで家が燃えている。

 燃えている。



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