夢2

 燃えている。

 家が燃えている。

 目の前で起きているはずなのに、全く現実感がない。

 それともこれは夢なのだろうか?

 そうではないことを私は知っている。

 私の知った風景は、すべて炎に包まれて、消えてゆく。

 炎が作り出す、いくつもの熱風が、私の心を溶かしてゆく。ああ、私の心はどうしてこんなにも凍えているのか。

 左目から涙が流れていた。

 ゆっくりと、ゆっくりと。

 これを待ち望んでいたのだろうか。

 それとも、望まぬ現実であろうか。

 忘れないと胸に強く描いたから、私はこの光景だけは忘れていない。

「火事だぞ」

「消防車を呼べ」

 野次馬が集まり、己の無力さをひた隠す。

 私は力なく微笑んだ。

 抱えきれない虚脱感と、あふれ出した無気力とに蝕まれて。

「そんなに近くにいると危ないよ」

 誰かが目の前の炎から私を遠ざける。

 振り返ろうと頭を動かすと、見覚えのある鳥が頭をかすめ、私ごと消えてゆく。

 どこか遠くで家が燃えている。

 燃えている。


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