夢3

 燃えている。

 家が燃えている。

 目の前で、圧倒的な現実感を持っていながら、私の心には響かない。

 ただ一枚の絵のようにそこに置かれているだけで、私の目はその異様な絵を見ている。

 それでも暖かさだけは感じられる。

 冷え切っていた体をじわじわと温めてくれる。

 ほっとしたのか、私の左目からはいつの間にか涙がこぼれていた。

 ゆっくりと、ゆっくりと。

 涙にゆれる絵は蜃気楼のようで、一層現実感を失ってしまう。

 けれど、私はその絵の二階に人影を見た。

 彼女は誰だろう。

 そう思ったときには、すでにそこに人はいなかった。

 どうして、彼女だと、思ったのだろう。

「火事だぞ」

「消防車を呼べ」

 次第に人が集まり、ことの重大さを必死に訴えている。

 もうすべてが手遅れで、悲劇は免れ得ないというのに、なんと愚かなことか。

 私の視界の先を、一羽の鳥が通り抜ける。

 私は力弱く微笑んだ。

「そんな近くにいると危ないよ」

 誰かが崩れ落ちそうになっている私の肩を掴んだ。

 痛かった。

 これは現実だ。

 私は痛みの中にゆっくりと沈んでいった。

 どこか遠くで家が燃えている。

 燃えている。

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