夢5

 燃えている。

 家が燃えている。

 目の前で火の粉を巻き上げ、圧倒的なスケールで炎を空に立ち上らせている。

 私は動けない。

 まるでそこに縛られているように、まるでそれが現実であることを忘れているかのように。

 それなのに、肌を焼き付ける熱さだけはやけに感じる。

 いつの間にか流れる涙に、人影が揺れる。

 二階に、まだ誰かがいる、あれは誰なのだろう。

 どうして、あそこに残っているのだろう。

 その窓に、黒い一羽の鳥が降り立つ。

「おい、火事だぞ」

「消防車を呼べ」

 遅すぎた声がそれを取り戻すように響き渡る。

 いつの間にか集まった人が、何も出来ずに、ただ騒ぎ立てる。

 それが限界なんだと、私には分かっている。

 私は力なく笑う。

 あざ笑うように、自嘲するように、励ますように、褒め称えるように。

「そんな近くにいると危ないよ」

 誰よりも近くにいた私を誰かが引き寄せる。

 ああ、これで私は助かるのだろうか、それとも失われてしまうのか。

 薄れゆく意識の中で、私はその人を見る。

 目の前は白くぼやけ、それが誰か分からない。

 どこか遠くで家が燃えている。

 燃えている。

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