夢9

 燃えている。

 家が燃えている。

 目の前で、信じられないほど激しく火の粉を撒き散らしている。

 それは強い意志。

 もう揺らぐことのない意志。

 たとえ非現実であったとしても、たとえ誰に笑われたとしても、目に映る世界は真実。

 左目から流れる涙がいつの間にか止まっている。

 その目が二階に人影を見つける。

 あれは誰?

 燃え盛る火の温かさが私を包み込む。

「おい、火事だぞ」

「消防車呼べ」

 現実を告げる叫び声がこだまする。

 それは私の罪。

 二階に見えている彼女の罪ではない。

 けれどそれも全て燃えてしまう。

 そして清めの水がまかれるのだ。

 すべてを流してしまうような。

 私は口元に笑みを浮かべた。

 それが今の私に出来る、全身全霊の思いの結晶。

 すべてを覆す。

 それを示す、黒い鳥。

「そんな近くにいると危ないよ」

 誰かが私に気が付いて、大きな手を私の肩に手をかける。

 温かく、優しさに溢れる手。

 そうか、彼だったんだ。

 私の意識はそのまま薄れてゆく。

 どこか遠くで家が燃えている。

 燃えている。

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