夢4

 燃えている。

 家が燃えている。

 目の前ですべてを焼き尽くそうと燃えているのに、どうしてこんなにも現実感が乏しいのだろう。

 冷え切っている私の体をその熱が駆け巡る。

 炎の作り出す揺らめきが蜃気楼を作り出し、私の瞳に膜を作ってしまった。

 その膜越しに見る風景は虚構でしかなく、その中をただ一羽の鳥が飛んでいる。

 涙が溢れていた。

 あまりのことに圧倒され、左目からゆっくりと、けれどとめどなく。

 この瞬間を待ち望んでいたのかもしれない、この瞬間なんて来なければよかったのかもしれない。

「火事だぞ」

「消防車を呼べ」

 口々に叫ぶ声が混乱を呼び、最善の策を後回しにする。

 それなのに彼らは後で自己弁護する。

 私は力弱く微笑んだ。

 それが、私にできる最低な抵抗だ。

「そんな近くにいると危ないよ」

 誰から私の体を引き寄せた。

 もう私の体には抗う力もない。使い果たしてしまった。力なく倒れる過程で、私はその誰かを見た。知っている顔だ。

 誰だろう。

 意識は途絶えてゆく。

 どこか遠くで家が燃えている。

 燃えている。

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