夢10

 燃えている。

 家が燃えている。

 いわゆる火事。目の前で起きているのにどこか遠くの出来事のように感じる。

 映画のワンシーンのようで、リアルでありながら、リアルではないと知っている。

 それでも感じるのは火の熱さ。

 それは強い意志。

 誰にも負けたくないという意志。

 逃げ出さないと決めた意志。

 涙はもう流れない。

 左ほおに残った涙の跡は、右目の感情を刺激する。

 私の右目は何かを見ていた。

「おい火事だぞ」

「消防車呼べ」

 ようやくことを理解した雑踏が騒ぎ始める。

 こんなに近くで起きているのに、それでも干渉を避けようとする。

 くだらないと私は首を振る。

 その視界が、二階の窓の人影を見つける。

 うつろな瞳で私を見下ろす松田晴美。

「そんな近くにいると危ないよ」

 誰かが私を呼びとめ、手をかける。

 わたしは、ありがとうと声を絞り出す。

 やがて白くなる世界に、うっすらと映る顔。

 私の右目が、刹那、鳥を見つける。

 白くなる世界に、消えてゆく世界。

 遠くで家が燃えている。

 燃えている。

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