第三十一話 叛逆機の敗北

 DR浸食度マイナス【19282】。

 それはリベリオスの降臨によって、【99999999999イレブンナイン】まで失墜する。

 だが、止まらない。

 その程度で、直轄者の肉体と精神をバイパスとして降りてきた災厄は止まらない。

 邪神クトゥルフ──その分御霊わけみたま

 あまりに埒外な存在が、眼前で咆哮を上げる。

 その狂気にあらがうべく、リベリオスが我が精神を漆黒に塗りつぶす。

 混沌浸食係数は、すでに400を超えて。

 叛逆機の残り稼働時間は、42セコンドを切っている。

 それだけ周囲の瘴気は濃い。もはや、異界であるかというかのように。


「──混沌庭園の開放を提言」


 おぞましいバケモノへと、黒鉄の身体を駆って、墜落するような速度で肉薄しながら、我は文言を唱える。

 我は即座に、リベリオス最大の昇華機構を発動せんとしたのだ。

 目の前にあるバケモノは、あるだけで世界を毀す。

 そんな代物を野放しにはできない。

 可及的速やかに、排除しなければならないのだ。

 そして、彼奴の吐き気を催すほど堅牢な生半可な兵装では、傷ひとつつけることは叶わないだろう。

 最大、最悪の暴力をもって、邪悪、最低の神を駆逐するほかないと、我は考えたのだ。

 だが──


「──なに?」


 

 承認されない。

 右手に内蔵された術式が、疑似・輝く多面体が、一切応答しない。

 それは、つまり。


「……ためらっているのか、玖星アカリ」


 その問いかけに、おれの右手は震えた。

 我は即座に判断を変更。左手に内蔵されたアッシュールバニパルの焔を起動し、殲滅のために振り下ろす。

 そして、それが致命的な失策だった。


「がああああ!?」


 黒鉄に殺到する、無数の触腕。

 100を超え、1000に届く、暴虐の波涛。

 そのかぎづめが、本来なら傷ひとつつけることが叶わないはずの、リベリオスの装甲を破壊する。

 掲げていたはずの左手など、触れたものすべてを燃やし尽くす焔など、まるでマッチに水をかけるがごとく消し去って。微塵に打ち砕いて。

 左脚部がねじ切れる。

 右肩が破壊される。

 そして、心臓部が貫かれる。

 その反動が、すべてこの肉体へと還り、我は血反吐を吐いた。


『ZUAIAAAAAAAAAAAAAAIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII!!!!』


 勝利の叫びをあげる化け物。

 それは、まったく己の敗北など予知してはおらず、まるで神のように──事実神である──全能感に満ち溢れていた。

 のたうつ触腕がそのままリベリオスをからめとり、圧迫──いや、圧縮し、破壊を試みる。

 ぎりぎりと軋むコックピット。

 全身をさいなむ激痛。

 見えるのは敗北と。

 我の死と。

 そして、人類の滅亡。

 そんな状況下にありながら。

 なのに。

 


「玖星アカリ、おまえは、やはりあまりに──!?」


 あと一歩で、リベリオスが崩壊する──

 その瞬間だった。

 ふいに、神話型アグレッサーは、その力を緩めた。

 拘束からは抜け出せない、だが、死にもしない絶妙の力加減。

 そして、そいつは。

 そのバケモノは。

 まるで、獲物をいたぶるかのように、見せつけるかのように。


 持ち上げた一本の触手のさきに、光を展開した。

 おぞましきは黄金の光。


 理解する。

 圧倒的に理解する。

 その光は、街ひとつ程度ならば一発で消滅させてしまう破壊の化身なのだと。

 そして、その光が向く先にあるのは。


「ふ──」


 我は。

 否。

 おれは、叫んだ。


「ふざけんじゃねぇッ!! その先には──ステラがいるんだぞおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!?」


 我は見た。

 確かに視た。

 邪神が、醜悪な笑みを作るさまを。

 そして。


 光輝は放たれる──

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