第三十話 邪悪降臨
まとわりつく、粘度が異様に高い海水。
それを突き破り、俺は海面へと浮上する。
口腔を開く。
とたんに肺腑へとなだれ込む外気、大気、空気!
「がはっ!」
貪るような呼吸。
全身が、悲鳴を上げていた。
どうやら俺は──深海1500メートル付近にいたらしい。
そこからの急浮上、もとより、人間にできるまねではない。
だから、俺は既に
漆黒の衣装を翻し、仮面を装着し、我は空中へと舞い上がる。
流星学園生徒会長──人であった時の名は、大十字ナコト。
超高速で海中を突っ切り、空中まで飛翔した我が見たのは、渦巻く地獄と化した海洋であった。
泡立ち、この世の終わりのような赤に染まる、奈落じみた海面。
その中心に、そこから発せられるあまりに異様な邪気に、自然と視線は吸い寄せられた。
ギリリッ、と。
そこには、光の異形があった。
それは、一見して甲殻をまとう巨大な烏賊のようでもあった。
翼をもつ蛸のようでもあった。
無数の触手。その先端には例外なく、鋭利なかぎづめが生えている。
胴を覆うのは、ぬめる外殻と、ゴムのような鱗。
背後で、小さな──しかし人類にしてみれば巨大すぎる翼が、空間をゆがめながら広がる。
光り輝く異形の獣。
それこそはアグレッサー、人類の天敵。
星野侵略者にして──
旧支配者の、力の具現であった。
「EEEEEEEEEEEEEEEEEEEGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
おそらくあのセブンスを依り代に受胎したのだろう、そのアグレッサーは判別不可能な産声を上げる。
リベリオスの倍、100メートルはあろうかという巨体が蠢動する。
深き男が、その頭上で笑った。
狂った、ゆがんだ悦楽の表情のまま、男は冒涜的な賛歌を紡ぎ続ける。
「ルルルイエェェ! 死せる、死せるううう! 死せる館にて、瞑想する偉大なるぅぅぅ! 偉大なるクトゥルフはああああ、夢見るままに待ち至りいいいいい!!! ふんぐるい むぐるふなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐんッ!!!」
どこまでも狂った。
だからこそ、狂えない彼の詠唱。
神への讃美歌。
邪神への贄。
異形の文言によって、深き男の肉体が崩壊する。
どろどろと溶け落ちた男は。
異形の〝直轄者〟は、邪神へと吸収された。
男の目的を果たすために。
人類を廃滅するために。
いま。
「────」
そして我の。
その行動は、同時だった。
もとより同じ体なのだから。
「
空間が軋む。
空が砕ける。
流動する悪意にして他を否定し尽くすモノ。
傲慢なる善意にして他を肯定し尽くすモノ。
それは混沌が内包する無窮の根源。
それは死すらも弑しいする邪悪な永劫。
汝は破滅の先に揺蕩う瘴気の海。
汝は崩滅の過去たる絶望の大空。
原罪よりも悪しきモノ。
尊ばれ敬われる悪行。
その御名は。
その忌名は。
「闇を狩り立てるモノ──叛逆機リベリオスゥゥゥゥゥ!!!」
鋼の肉を持ち、刃金の骨格を有し、
光輝の獣に抗うべく生み堕とされた、闇色の巨人。
機械仕掛けの兵士。
機械の神。
烏羽根色の頭部から延びる漆黒の髪。そして、その頭部を縦断するかのように伸びる三本の燃えたつ血色の飾り角。
口も、鼻も、目すらもない、無貌の巨人が。
邪悪を打つ砕くために。
リベリオスという名の、さらなる邪悪となって、降臨する──
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます