第二十一話 生徒会、南へ

「突然だけど、来週から生徒会うち、九州に遠征するから」


 流星学園生徒会臨時役員補佐見習い心得という、なんだかよく解らない役職にむりやり付けられた俺が、とりあえずその日の職務である残務処理をこなすべく生徒会室を訪ねると、出会いがしらに彼女は、そんなことを言いやがりました。

 俺を、副会長権限で補佐見習い心得に任命した張本人、織守ステラが、いつもの不敵で無敵な笑みを浮かべ、立っていたのだ。


「ええっと……」


 状況がよく理解できず周囲を見渡すと、経理を担当している呉羽くれはマイと目があった。

 

「おい、説明してくれ」

「にゃーんと! それはつまり、なんでも知ってるこのミーにすべてを解説させようという粋な計らいかと!」


 そんな深い意図はないし、おまえは別になんでもは知らんだろう。


「なんでも知ってるにゃん! 知ってることだけ!」

「詐欺の論法だからな、それ」


 この眼鏡かけてる系猫耳少女との会話は不毛と判断し、俺は恐らく生徒会の中で最も話がわかるであろう相手に声をかけた。

 すなわち、いやし系ナンバーワンの誉れ高きキリヤくんである。


「で、どういうことだ?」

「玖星先輩……詳しく話す、と……ながくなる」

「うん」

「九州にある、D.E.M.傘下のPプロウトビットOオーパーツ研究施設〝ガーデン〟……が、いくつかの新式POを……開発、したん……です」

「ふむ」

「その、テスト要員が……欲しいって……雨宮先生は、ちょうどいい……からって」


 ……つまり、要約するとこういうことらしい。

 九州の支部において開発が急がれていた新式PO〝ニトクリス〟および〝スペース・ミード〟が、その他の副産物とともに試験段階ながら完成した。

 しかし、度重なるアグレッサーの襲撃により、SPIRITS本隊は疲弊。とくにその施設を防衛するために手勢を裂いているため、実験要員まで確保できない。

 くわえて現地では、謎の奇病が蔓延しており、ある程度態勢が高く、健常な肉体を持つ人間でないと立ち入れない。

 そこで、予備兵力としての側面を持ち、かつ新型機体や装備の運用に一定の実績がある流星学園うちが、補充要因として駆り出されることになったのだと。

 雨宮女史は、これについて日頃の激務に当たっている生徒会役員の気晴らしになるだろうと了承したらしい。

 というのも──


「そう、その施設がある地域は、九州でもレジャースポットとして名高い〝圦洲口いりすぐち〟! 防衛部隊が疲弊してるといっても、あくまでそれはテストパイロットをやれる人材がいないってだけ。つまり実質──これは生徒会の慰安旅行なのよ!」


 はっはっは!

 と、高笑い上げ、なぜか机の上に立ち上がるステラさん。

 非常にアレゲな様子で、見ていて俺は生温い笑顔が漏れてくるのだった。


「なに関係ないみたいな顔してんのよ、アカリ」


 そんな俺の様子にどうして彼女は首を傾げ、とんでもないことを言い放った。


「もちろん、あんたも行くのよ、この旅行に」


 ……は?


「え、マジで?」

「マジマジ。大マジ」

「…………」


 かくして、なにも起きないわけがないだろう旅行に、俺はそんな風にして巻き込まれたのだった。

 高等部2年、初夏の出来事である。

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