第十五話 マッド・サイエンティスト ~オン・ザ・ステージ~
「世界が亡ぶからです」
リリスの言葉はあまりに正論で、それ故に俺は反論を持たなかった。
反論する必要を認めなかった。
「聞いていますか、玖星くん? いまあなたの混沌侵蝕率は500%を超えてなお上昇しています。落ち着いてください、魂を、蝕まれてはいけません」
その言葉は、俺には届かない。
静止するに値する力を持たない。
理由は簡単だ。
彼女たちは安全装置に過ぎない。
俺がその気になれば、そのような制約など引きちぎることはたやすい。
そうだ、ステラを殺そうとする人類に、どれほどの価値がある。
ステラを、ステラを。
「――I――AM ――」
唱える。
己を殲滅者へと変える、破壊神へと変じる禁忌の呪文を。
その悪魔の詠唱は――
『――オン・ザ・ロックンロォォォォォォォッル!!!』
底抜けに明るい声と爆音によって、中断された。
俺の携帯デバイスへ、強制的に繋がれた通信。
その先から響いてくるのは、馬鹿のように
……いや、もう、なんか戦慄といっていいぐらいそれは耳障りな代物だった。
『あっひゃひゃひゃひゃひゃ! ご機嫌麗しくというかむしろボクの才能天高く超える春というか、つまりは久方ぶりの
セルフエコーやめろよ、すごい萎える。
もう、その長広舌というか壊れっぷりで、なによりリリスのものとは違い、次元断裂的隔壁の存在する俺の端末をこじ開けられる人物というだけで、それが誰なのかは明らかだった。
「ドクター・トラスク! なんの用だ、こっちは取り込み中だぞ!」
俺の怒声に、彼は高らかに笑い声を上げる。
その、なんかすごいむかつく感じの。
『ひゅばばばばば! そんなこと、ボクが知ったことではなぁぁぁいのであーる。もとよりその試験場は、ボクのためのものであるからして、つまりは主人公はボク!? これは物語の崩壊なのでは!?』
メタ的なこと言うのやめてください、本当お願いするんでやめてください。
『それはともかくとして――どうやら取り込んでいるようではないか、そうだろう、ミスター・アカーリー?』
「…………」
そうだ、そうだった。
すっかりペースを乱されてしまったが、こんなやつにかかずらっている暇はないのだ。
すぐに、すぐにでもリベリオスでステラを救いに――
『リベリオス。それは禁裏の火を運ぶ悪魔。門を開くカギの一つ。ならばしかして、きみはなにか、玖星アカリ。ハエク・ヴィブルニアスの名を捨て、肉体を捨てたきみは何者か。そんなことは、語らずして自明、白日の下にさらされ日光でまっしろーく漂白されるのは、な、なーんとボクの白衣!?』
「俺は俺だ。すべての邪悪を滅ぼす、黒き闇」
『……うーむ、どうやら侵蝕率が想定値より高いようであーるな。思考が本体にひきずられている。ならば、いまいちど思い出すがいいのである、玖星アカリ。きみが何者であるか。感じるがいいのである。この――潔白なる波動を! イッツ・ア・ショータイム・ジーニアス! 目覚めよ、
「――っ!?」
トラスクの耳障りな叫び声と同時に、〝それ〟は俺の中核を貫いた。
波涛となって押し寄せて、波紋となって俺の魂を振動させる。
清廉、潔白、無垢、純真、凄烈。
知っている、俺はこの音を、知っている。
この、唸りを知っている。
遥かな永劫の昔から、この輝かしき遺志の光を!
『さあ! その権能、存分に使うがよいのである。間もなくそちらに、大陸弾道ミサイルで打ち上げた人類の盾にして剣が届くからして! 玖星アカリ、ご注文の品はいまこそ納品・オン・ザ・セールなのであーる! なお、
もはや彼のふざけた台詞は聴こえていなかった。
俺は、弾かれたように空を見上げる。
暗雲に満ちる大空。
瘴気に覆われた流星学園、そして眞火炉の上空に、一条の流星がよぎる!
「――リリス!」
叫ぶ俺の声に、しかし今度こそ、彼女は応じてくれた。
「行きなさい玖星アカリ! すべてを、救うために!」
差し出されたのは仮面――ではなく漆黒の外套。
俺はそれを見に纏い、懐かしい、旧きその名を呼んだ。
「来い――ディバイオス!!」
俺の身体が、
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