誓約神意ディバイオス ~Myth of those who Lovecraft.~

雪車町地蔵(そりまち じぞう)

序章 滅びの幕よ、いざあがれ

第零話 同胞へと贈るモノローグ

『 では、ひとつ――人類が悲劇をごらんあれ。

 登場人物はみな端役、背景世界はみな書割。どれをとっても、ありきたりな、古典的で退屈な物語ストーリー

 だが、ひとつ。

 語り手だけが飛び抜ける。稀代の道化と認めよう。

 だから――きっと面白くなると思うよ? 』





 1979年――4月1日。

 その日、人類は星の侵略者と邂逅かいこうを果たした。

 のちに【エイプリル・フールの真実】と呼ばれるこの遭遇は、世界を絶望へと転落させてゆく。

 米国の南極調査隊が、探査中に南極大陸地下に未知の巨大空間を発見し、不明存在との接近遭遇をほのめかす一報を発するとともに、消息を絶った。

 直後、南極は


 さて、時を同じくして、世界各国の上空に【それ】は姿を現した。

 【アグレッサー】。

 のちにそう呼称されることとなる災厄の化身は、明確な破滅と、人類――否、生物全てへの敵意を剥き出しにし、あらゆるを無に帰すべく爪牙そうがを振るう。

 ここに、第一次アグレッサー大攻勢の幕が開く。




『 ――降って湧いた大災厄。開いたものはパンドラの箱か、聖櫃か。

 そうして人類は知ったのだ。

 生命の対敵とは、かくも邪悪で――そうして希望を喰らいつくすものであると。

 邪悪には、立ち向かわなければならないのだと―― 』




 戦力差は圧倒的だった。

 当時の人類の主力兵器では、悪魔染みた化け物には傷の一つつけることすら適わなかった。

 携行武器は意味をなさず、機銃の掃射も、戦車砲も、質量兵器たる地中貫通爆弾もバンカーバスターも、対艦ミサイルですら足止めの用も果たさなかった。

 彼我の絶望的な力の差のまえに、人類は敗退を余儀なくされ、愚かしくも戦術核による焦土作戦が決行された。

 人類生存圏の一つ、ブリテン島は、そうして未来永劫人の住めない土地と化したのだ。

 ……はて、このとき確認された被害は、死亡者だけで7億人。実際は、その倍以上の人的被害を出したと言われている。

 明確な、どうしようもない人類の敗北であった。




『 崩壊する世界経済。

 乱れる社会秩序。

 奪われゆく命、消えてゆく日々の営み。

 ――それでもなお、人類は屈しなかった。

 憐れにも屈するという選択肢さえ、人々は既に失っていたのだから―― 』




 同年、8月。

 超法規的措置として、人類の団結を目指す統治機構【地球連合】が発足する。

 すべての人類がアグレッサーに対抗すべく尽力する協定――その月の名を取った、オーガスト条約が締結された。

 これを契機にして、世界各国が第二次世界大戦中に開発を急いだオカルト兵器――現代のオーパーツとでもいうべき忌避兵装プロウトビット・オーパーツの製造、蒐集を開始。

 世界規模で、アグレッサーに対し有効な戦術・兵器の立案が開始される。

またこれに伴い、対アグレッサー組織【ハーキュリー】が結成。ことここに至ってようやく、人類は僅かながら戦局を回復する。


 1981年。

 アグレッサーの一方的な虐殺に立ち向かうべく、人類は叡智の総決算とも言うべき異形を産みだした。




『 そう、人類はその手に刃を執ったのだ。

 悪魔を滅ぼすものを意味する天使パワーズ。その名を冠する刃金は、何の為に振るわれるのか。

 生命、祈り、願い、ささやかな誇り……なによりも穏やかな日々のために。

 奪われたくないから、殺す。

 無垢なる天使の刃は、その瞬間から血に塗れた―― 』




 七型決戦兵器実戦配備型一号XOーNK01【パワーズ】。

 再び大攻勢に出たアグレッサーに対抗すべく、オカルトや神秘学、現代科学の粋を結集し産みだされた七型決戦人型兵器セブンスという名の鋼の天使は、三年の月日と、多大な犠牲を払い、ついにアグレッサーの撃退に成功する。

 かくして悪魔との遭遇から足掛け5年の月日かけて、ようやく第一次大攻勢は終結したのだった。




『 人々は願った、それが安寧の明日に繋がることを。

 永く続く平和への一歩になることを。

 だが――

 天使が切り拓いたのは明日ではなく――地獄の釜の蓋であったと知るのは、残念ながらそのすぐあとのことであった。 』




 パワーズの実戦配備。

 それが死傷者を軽減したことは確かな事実。

 だが、退けたはずのアグレッサーは世界各国にたびたび出現し、人々の心が休まるいとまは存在しなかった。

 そして六年の月日を経て、再びアグレッサーの大襲撃が始まる。

 第二次攻勢の開始である。


 パワーズの発展型たるXOーNK12【ヴァーチュズ】は一定の効果をあげるが、人類の損耗――特に否応なく最前線に立つパイロットの死傷率は高く、人員は常に逼迫した状態にあった。

 激戦に次ぐ激戦。

 損耗戦の果て、再び核の使用すら検討されたとき、しかし、唐突に大攻勢は終了する。

 まる二年の月日と、甚大で取り返しのつかない犠牲を産みだし、アグレッサーはまたも姿を消したのである。

 地球連合は一時的な安全宣言を出すと共に、確実に来るであろう次の襲撃に備え、プロウトビット・オーパーツ及び七型汎用兵器の研究開発を続けた。




『 人のうちには、かすかな希望があった。

 いつ悪魔が襲い来るかも解らぬ極限の恐怖のなか、しかし人間は立ち上がることを選ぶ。

 人類は、希望に縋ったのだ。

 絶望にすら抗うことができるのだという儚い希望。

 その希望が――

 次の世代への、犠牲を強いるとも知らずに―― 』




 人類に許された猶予は、12年であった。

 三度起きたアグレッサーの襲来。

 それは、過去最大の規模であり、大攻勢と呼ぶことすら烏滸おこがましいほどの大殺戮であった。

 異常な活性により、無限とも思えた大軍勢は、人類側の最新鋭機XOーNK23【ドミニオンズ】を以ってしても完全なる撃退を達成できぬほど強大で、悪辣であり。

 だが。

 それでも。

 それでも戦いは収束へと向かう。

 払われた犠牲は大きく、このとき人類の総人口は30億まで減少したが、アグレッサーはかつてと同じように、唐突ともいえるタイミングで闇へと潜った。

 奇しくもアメリカ本土が陥落寸前まで陥った、大決戦のさなかでの出来事であった。


 その日より、アグレッサーはかねてからの動向の通り不気味な沈黙を続け、そして時折現れてはまるで憎しみをぶちまけるように生物とこの惑星を蹂躙した。

 人類は生き残るため、対抗手段を模索する。

 この頃、対アグレッサー機関の最鋭鋒であったハーキュリーは、その名をスピリッツと改名。絶望的に減少したセブンスのパイロット養成のため、学園機構を樹立する。


 防衛Defense.地球Earth.機構Mechanism.――D.E.M.


 人類を救うという名目で少年兵を育成するこの組織の設立から、18年後。


 来たる、2018年4月。


 未だ衰えぬアグレッサーの襲撃。

 すべてが終わりへと向かう世界の中で、学園都市に生きる少年少女は懸命に生きる。








 これは、絶望の最中でなお生き足掻く、人類の――壮絶な運命の物語である。




















『 ――さあ、いまこそ人間、霊長、生命のすべては思い知るだろう。

 世界に満ちる憎悪と悲しみの連鎖。

 愚かしく、狂おしく、無明の闇黒のなか、孤独に戦う英雄の物語を。

 いずれ知るだろう。

 誰よりも絶望しながら、誰よりもすべてを愛した、たった独りの無貌の神の物語を。


 いまここに、開幕のベルが鳴り響く―― 』








―― 誓約神意ディバイオス ~Myth of those who Lovecraft.~ ―― 開幕

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