【カクヨム小説創作オンライン講座2020】カクヨムコン歴代応募作品講評会 第4回

12月1日より開催する第6回カクヨムWeb小説コンテストの応募者に向けて、創作のヒントやアドバイスを提供し、スキルアップに役立ててもらう「カクヨム小説創作オンライン講座2020」
その第1弾「カクヨムコン歴代応募作品講評会」、第4回をお届けします。

※「カクヨムコン歴代応募作品講評会」とは? という方は第1回の記事をご覧ください

第4回 掲載作品

【恋愛】貴女の為に、悪役令嬢 作者 富升針清
【ミステリー】先輩はあくまでニャンである。 作者 秋月 司
【異世界ファンタジー】天空の標 作者 蜜柑桜
【SF】レアメタリック・マミィ! 作者 陽澄すずめ


【エントリーNo.15 恋愛】
悪役令嬢に転生したのは、貴女の為
貴女の為に、悪役令嬢 作者 富升針清
あらすじ:
 普通の社会人だった彼女はある日交通事故に遭い、生前に嵌っていた乙女ゲームの世界に転生してしまう。
 転生先は、ゲームの中で主人公を虐める悪役令嬢であるローラ・マルティス。
 しかし、彼女は悲惨な最期を迎える彼女になった事に恐怖も嫌悪もなかった。
 彼女は今、自分を救ってくれた『彼女』を守る為に学園に足を踏み入れるーー

◆点数評価:
・オリジナリティ:
・キャラクター:
・ストーリー:
・世界観:
・文章力:

◆良かった点:
全体的に文章が上手く、キャラクターも立っていて、面白く読むことができました。第一印象が最悪だった攻略キャラたちが話を進めていく内にそんなに悪い奴じゃないと感じるようになり、やがて魅力的に感じられるように思えるのはお見事です。また何者かがゲームのヒロインを狙っており、ヒロインを守るために主人公が動くというミステリー仕立てのストーリーも読者の興味を惹くことに成功しています。

◆改善すると良くなりそうな点:
悪役令嬢に転生してゲームをプレイしていた時に大好きだった正ヒロインのアリスを守るために頑張るというコンセプトは面白いのですが、この設定の割には序盤でのアリスの存在感が薄いように感じられました。また、ヒロインが何者かに狙われるというミステリー要素は読者を惹きつけることに成功している反面、その謎がなかなか解決されないこともあって、読者としてはなかなか気が休まる暇がありません。賞に応募して書籍化などを目指す場合は、ある程度の分量で大きな山場を作って問題を解決しそれからまた新たなる問題が生じる……といった具合に、物語全体ではなく、部分的にも起承転結を作ることを意識してみると良いでしょう。


【エントリーNo.16 ミステリー】
先輩っ! 俺、彼氏感より下僕感が満載なんですが。
先輩はあくまでニャンである。 作者 秋月 司
あらすじ:
俺(柴田健吾)は大学二年生。
念願の一人暮らしは、ペット可のアパートにしたんだ。
え? なぜかって?
それはちょっと言えない。

先輩とのお家デートの最中、先輩の同級生の友達が、学生宿舎の階段から転落して死亡というショッキングなニュースが飛び込んできた。
いやいや先輩、なに舌なめずりなんかしてるんですか? あれ? すみません。いつもでしたっけ。
そして俺たちは事件に巻き込まれていく。
……いや、語弊がありました。
先輩が、事件に首をガツガツ突っ込んでいく……

◆点数評価:
・オリジナリティ:
・キャラクター:
・ストーリー:
・世界観:
・文章力:

◆良かった点:
主人公の健吾くんが最高にすばらしかったです。積み重ねられるキャッチーな心情描写に押され、いつの間にか彼を好きにさせられていました。そしてその心情を受ける千夏さんというヒロインも力強い個性があり、そんな彼らだからこその関係性に魅せられました。
作品全体にやさしい空気が満ちていることも好印象。安心して主人公とヒロインのお話を読み進められました。

◆改善すると良くなりそうな点:
物語の展開の遅さと謎を巡るエピソードの起伏の小ささ。この二点がなにより気になるところでした。
両者とも原因は同じで、牽引役の千夏さんがうまく機能していないことによるわけですが……その原因というものもあって、これは「健吾くんの千夏さんに対する恋心劇が多すぎる」ことによります。つまり、恋愛がミステリーを文量的にも物語の比重的にも食ってしまっているということですね。
ミステリーである以上、描くべきはその真相にまつわる謎の仕組みであり、それを関わるキャラならではの手段で明らかにしていく過程のドラマです。そこがおろそかになっている――そうでなくとも出来が悪いとなれば、当然評価は大きく下がってしまいます。
せっかくの恋愛ドラマを生かすためにもミステリー部分をさらに練り込み、濃やかに仕上げていきましょう。


【エントリーNo.17 異世界ファンタジー】
天と時の標、両の標の歪みと陰謀が、若き王子に迫る!
天空の標 作者 蜜柑桜
あらすじ:
森に囲まれた平和な国、シレア国は、先ごろより先帝の崩御と母后の逝去が続いた。その王位継承者の一人、第一子第一王子、カエルムは、正式に即位し、妹王女との共同統治を開始するにあたり、近隣諸国へ表敬訪問のため外遊の最中である。

シレアの南方に位置するは海に面した強国テハイザ。絶対中立を誓うシレアと、陸の豊かな資源を欲するテハイザの二国は、かねてより緊張関係にある。此度、カエルムは強固な友好条約を結ぼうと、外遊の最終訪問国としてテハイザを訪れる。

しかし、テハイザ城にある国の宝、「天球儀」は、明らかな異変を示していた。
隣国の王子は災禍の種として、王との謁見を阻まれる——

一方、その頃のシレア本国では、国で「時間」を知らせ、けしてその刻みを止めない唯一の「時計台」に異常が起こっていた。

一刻も早くの帰国が要される。残された時間に、テハイザ王との交渉は相成るか。

◆点数評価:
・オリジナリティ:
・キャラクター:
・ストーリー:
・世界観:
・文章力:

◆良かった点:
作者の高い文章力による数々の描写が非常に印象的でした。天球儀や図書館などの城内の施設から、空や海の自然の様子まで丁寧に描写されており、読者を独自の雰囲気を持った作品世界にひきずりこむことに成功しています。主人公である二人の関係性を会話の中で自然と読者に伝わるように書けている部分もお見事です。また作品全体のテーマがしっかり定められており、そこに向けてきっちり終わらせている点も評価できます。

◆改善するとよくなりそうな点:
本作でストーリーを大きく動かし、読者を引っ張っていくのは、なぜ天球儀が止まったのか? それは主人公の故郷にある時計台が止まったこととどのような関係があるのか? という謎だと思います。しかし、この作品だけではその謎が解決されず姉妹編も読んで確認して欲しいという構成は、本作を単体の作品として読んだ時に大きな欠点になります。しばしば言及されている主人公の妹も結局こちらの話では登場しないのも気になります。この二つの話を組み合わせて上手く一つの物語にすることができればより素晴らしい作品になるはずです。


【エントリーNo.18 SF】
空を駆け、剣を振るい、銃を乱れ撃つ、世界一かっこいいシングルマザーの話
レアメタリック・マミィ! 作者 陽澄すずめ
あらすじ:
 ——“オペレーション”!

 カンザキ・シュカ、33歳、シングルマザー。
 職業、レアメタル・ハンター。
 それは、スカイスーツと呼ばれる装備で生身のまま空を飛び回り、旧時代のスクラップから生まれた怪物を解体して貴重な資源を回収する、リサイクルセンター所属の『戦う公務員』だ。

 残り少ない天然資源を巡る大陸戦争が終結して25年。
 戦勝国間での資源配分格差が拡がる中、国内では再び戦争への機運が高まりつつあった。

 『スパイダー・リリィ』というハンターネームを持つシュカは、5歳の息子・イチを女手一つで育てながらスクラップ・クリーチャーを狩る、忙しくも賑やかな生活を送っていた。
 そんなある日、シュカは参加した特別任務で不可解な爆発事故に遭遇する。
 混乱に乗じて暴れ始めたクリーチャーとの交戦中、自分を庇った上司が負傷したことで、シュカは2年前のとある任務を思い出す。
 彼女が最愛の夫を喪う原因となった、悪夢のような一件を。

 それでもなお、シュカがレアメタル・ハンターを続ける理由は何なのか。
 彼女はいったい何と戦っているのか。
 その真相に近づく時、思いも寄らない敵の姿が明らかになる。

 ——さぁ、さよならの時間だよ。

◆点数評価:
・オリジナリティ:
・キャラクター:
・ストーリー:
・世界観:
・文章力:

◆良かった点:
主人公がクリーチャーとの戦闘を生業とするシングルマザーという点はあまり他で見ない設定でユニークでした。メインとなる彼女の戦闘シーンの描写に大変迫力がありました。ストーリー面でも最初に起きた事件での小さな違和感、そして過去にあった事件の謎が徐々に積み重なっていき、最終的に国家規模の大事件になるという話の組み立て方はエンターテインメントの文脈に沿っており、幅広い読者が楽しめる内容になっています。

◆改善すると良くなりそうな点:
主人公がシングルマザーという設定は斬新なものの、その一方でSF部分の設定は格好よくはあるのですが、どこかで見たようなガジェットが多くオリジナリティという面で弱いように感じられました。またイチとの親子関係にしても、少し普通すぎるというか現代の働くお母さんのあるあるになっているように感じられ、読者の共感を呼ぶという意味ではこういう書き方でも良いのかもしれませんが、せっかくSFというジャンルにしているのだからもう少し捻った親子関係にして、その上で現在とは一見違うけれど、その中でも通底するものがあるという書き方に挑戦しても良いかもしれません。


第5回は11月4日更新予定です。

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