カクヨムコン歴代応募作品講評会2022 第2回

来月12月1日(木)よりはじまる第8回カクヨムWeb小説コンテストにむけて、応募者の創作活動を応援するために、「カクヨムコン歴代応募作品講評会」を開催します。
今回は第2回をお届けします。


※「カクヨムコン歴代応募作品講評会」とは? という方は第1回の記事をご覧ください

第2回 掲載作品

【ラブコメ(ライトノベル)】魅力的な義妹と幼馴染に「好きな人ができた」と伝えてみたら、なぜか急に俺を取り合い始めたんだが。 作者 橘奏多
【ミステリー】スノージャスミン 作者 一宮けい
【現代ドラマ】紡ぎの調べ 作者 Youlife


【エントリーNo.4 ラブコメ(ライトノベル)】
「最終的には私のことを好きになるに決まってるんだからっ!」
魅力的な義妹と幼馴染に「好きな人ができた」と伝えてみたら、なぜか急に俺を取り合い始めたんだが。 作者 橘奏多
あらすじ:
俺、九条晴也には好きな人がいる。
義妹と幼馴染にそう伝えたことが全ての始まりだった。
「晴は渡さない!」
「お義兄ちゃんは私の物だもん!」
好きな人がいると言っているのに、俺の取り合いが始まった。
俺にはもう好きな人がいるってこと、分かってる?

◆点数評価:
・オリジナリティ:
・キャラクター:
・ストーリー:
・世界観:
・文章力:

◆良かった点:
幼馴染、義妹、ツンデレの多彩なヒロインの四角関係ラブコメで、どれかが好きな読者にリーチできる設定が上手いなと思います。ヒロイン三人の間で勝手に恋のバトルがヒートアップして主人公がいつも振り回されるという王道パターンにニヤニヤしてしまいます。
ヒロイン一人ひとりがそれぞれ可愛らしく描かれていて、主人公にストレートに想いを伝えてくる猛烈アタックにもドキドキしますし、心を許している相手だけに見せる無防備な姿にもときめきました。
学校生活での日常シーンや行事をうまく取り入れて恋愛イベントに繋げるストーリー力が素晴らしい。複数人でのドタバタもあれば、一人ずつにスポットを当てて掘り下げた回もあり、ストーリーに変化を加えて単調にならない工夫ができていたと思います。

◆改善すると良くなりそうな点:
主人公が受け身でヒロインとの釣り合いが悪く、魅力的なヒロインたちに惚れられているのがご都合主義に思えてしまいます。部活動でもスポーツでも、趣味でもいいですから、何かひとつのことに情熱をもって打ち込んだり、これだけは誰にも負けないという特技を持たせて、ヒロインから惚れられるに相応しい魅力を与えてみてください。
恋愛ものは障害がある方が盛り上がります。主人公とヒロインが協力して困難を乗り越えていくストーリーに読者は絆や成長を感じます。
例えば、柊木さんに相応しい男になるために勉強もスポーツも学年一番を目指すという行動原理を加えて、恋のために努力し続ける主人公というキャラクターを与えれば、ストーリーラインも明確になり、成長と魅力を感じさせます。

【エントリーNo.5 ミステリー】
一人じゃ解決できない、言語化できない。そんな二人の中華ミステリ
スノージャスミン 作者 一宮けい
あらすじ:
「そうか、浩然(ハオラン)は僕が言ってる意味が分かるもんね」
酒村希(さけむらのぞむ)にこう言われた範浩然(ファン・ハオラン)。
浩然は中国生まれの日本育ちで、日本語しか話せないが、中国語は聞いて分かる。
一方希は日本人だが、中国へ行ったり来たりしていた内にどちらの言語も中途半端なダブルリミテッドバイリンガルだった。
そんな二人が日常のちょっとした謎を解いていく中華ミステリ。

◆点数評価:
・オリジナリティ:
・キャラクター:
・ストーリー:
・世界観:
・文章力:

◆良かった点:
中国語のリスニングはできるけど自分では話せない浩然と、日本語も中国語もどちらもできるけど希という、一人だけでは欠点のある二人が手を組むことで、見えなかった物が見えてくるという設定がとてもユニークに感じられました。語学面ばかりではなく、国ごとに異なる文化や思想を作品の中で上手に盛り込んでいるのもお見事です。また、ただ謎解きをするだけでなく、物語を通じて浩然の考え方に少しずつ変化が起き、最終的に成長していくという物語の構成もよくできています。

◆改善すると良くなりそうな点:
浩然の視点ですが、時々三人称と一人称が混同されている部分がありました。細かい部分ですがミステリーというジャンルでは、こういう混同を利用したトリックもあり、読者を不要に疑心暗鬼に陥らせることもあるので気を付けてください。本作の内容でしたら三人称を使わず、浩然の一人称で話を進めても問題がないと思われます。また、中国文化を取り入れた話はクオリティが高く、本作のタイトルにもなっている3章の「スノージャスミン」などはとても良かったのですが、逆に一部の事件では本作の設定じゃなくても成立しそうなトリックがありました。本作の場合は浩然と希の設定がユニークですので、二人の設定を存分に使えるような事件を考えるとより完成度が高くなると思われます。

【エントリーNo.6 現代ドラマ】
再び命を吹き込まれたピアノが、人間たちの心を繋いだ。
紡ぎの調べ 作者 Youlife
あらすじ:
町はずれの大型ごみ処分場に家具を処分に行こうとしたピアノ調律師の博也は、大きなグランドピアノを処分しようとしていた男性と出くわした。ピアノはまだ十分弾けそうだと判断した博也は男性を説得し、危うく処分される所だったピアノを引き取った。博也は自らの手で引き取ったピアノを修理し、再び活躍の場を与えようと模索していた時、見つけた場所とは……。

◆点数評価:
・オリジナリティ:
・キャラクター:
・ストーリー:
・世界観:
・文章力:

◆良かった点:
捨てられていたピアノという“きっかけ”が新たな縁を繋ぐ人間ドラマ、そのあたたかさと確かさは本当に心地よいものでした。テーマを正しく見据え、それを書き抜けることは得難い才。ご自身の武器としてさらに磨いていただきたく思います。
そして、各話のラストを引きとして、次の話へ繋げていく構成もお見事。連載形式だからこその見せ方が考えられていたのはすばらしいです。

◆改善すると良くなりそうな点:
セリフが説明的で、キャラクターの個性を表すものにしきれていない点は特に気になりました。セリフに説明をまとめてしまうのは、作者にとって楽な作業(所謂作者の都合)です。こうした都合は公募において絶対の減点対象となりますので、独白を含む地の文章の用い方をあらためて研究していただきたく。
次に、見せ場になるシーンが大きく不足していることも気になりました。こうした現代ものは異能力や特殊設定が使えないだけに、キャラクターの行動(心情の動き、実際のアクション、会話等)が重要となります。説明になってしまっているセリフを削り、キャラの個性が見える行動へ差し替えてみてください。


第1回・第3回はこちら。

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