カクヨムコン歴代応募作品講評会2022 第3回

来月12月1日(木)よりはじまる第8回カクヨムWeb小説コンテストにむけて、応募者の創作活動を応援するために、「カクヨムコン歴代応募作品講評会」を開催します。
今回は第3回(最終回)をお届けします。


※「カクヨムコン歴代応募作品講評会」とは? という方は第1回の記事をご覧ください

第3回 掲載作品

【ホラー】生命の膿 作者 椎葉伊作
【異世界ファンタジー】再生悪女の暗殺計画 作者 鏡も絵
【SF】ディ・ア・レ・スト 作者 つるよしの


【エントリーNo.7 ホラー】
膿=傷口に溜まる粘液。もしくは、始末しないとすっきりしないものの例え。
生命の膿 作者 椎葉伊作
あらすじ:
金が無くては、やがて妻となる彼女との豊かな生活を手に入れることができない。そう、金が無くては―――。しかし、現実は厳しく、働いても働いても、うだつは上がらず、豊かさからは遠のく始末。
そんな日々を送っていた内藤悟志はある日、友人から奇妙なバイトを紹介される。
それは深夜、とある山にポリタンクを背負って登り、頂上付近に在る古井戸に、その中身を捨ててくるという、なんとも怪しげなものだった。しかし、その報酬はとても一夜限りのバイトとは思えないほど高額なものだという。
金の為、彼女の為なら———。
内藤は、その奇妙なバイトを引き受けることにした。
身の毛もよだつ恐怖が待っているとも知らずに———。

◆点数評価:
・オリジナリティ:
・キャラクター:
・ストーリー:
・世界観:
・文章力:

◆良かった点:
主人公が紹介された怪しげなバイトの雰囲気がしっかり書けています。集められたいかにも社会的不適合者な人たち、胡散臭い雇い主、説明されても何をするのかよくわからない仕事内容……。これらのディテールを丁寧に書くことで、前半に不穏な雰囲気を出すことに成功しています。また、ポリタンクの中身を井戸に捨てるシーンが異様に生々しく、読んでいて気分が悪くなりました(褒め言葉です)。ここの場面は擬音の使い方も巧みで、作品の臨場感を見事に高めています。主人公には中身がわからないけど読者には薄々正体に察しがつくという描写のさじ加減も見事です。

◆改善すると良くなりそうな点:
ストーリーが一本調子になっているところが気になりました。話数でいうと「十五」まで不穏な気配を高め続け、「十六」で溜めていた緊迫感が一気に解き放たれてるのはいいのですが、逆に言うと物語のピークは「十六」のラストシーンになっています。ジェットコースターで例えると一度最高地点に到達した後、そのまま一番下まで滑って終わりという感じでしょうか。短編ならばこのような構成でも良いのですが、長編なら序盤で不穏な雰囲気を出すだけではなく、何らかの形で死人を出す、井戸の中にいる怪異の恐ろしさを読者にだけそれとなく見せるなど、序盤から具体的な恐怖をもう少し出して展開にメリハリをつけると、より良くなると思います。
また終盤の岩澤の行動ですが、狂人染みたキャラは何をやってもおかしくないだけに、あのような形で主人公の足を引っ張ってしまうと、作者の都合で動かされている感じが出てしまいます。アマネがぬいぐるみを見てあの場から動けなくなった展開のように、岩澤が木札を壊すにしても少し自然な流れでストーリーに組み込むとより良くなるでしょう。

【エントリーNo.8 異世界ファンタジー】
次は上手く殺る。
再生悪女の暗殺計画 作者 鏡も絵
あらすじ:
ブルーメンブラット辺境伯の私生児・プリマヴィーラ。正妻の異母姉妹・フェアリッテを毒殺しようとした罪で死刑となったはずが、気づくと、フェアリッテと出会った日にまで時を遡っていた。「一周目」ではフェアリッテの殺害を成し遂げられなかったが、「二周目」こそはと謀略を巡らせ、その本心を微笑みの下に隠すのだった。

◆点数評価:
・オリジナリティ:
・キャラクター:
・ストーリー:
・世界観:
・文章力:

◆良かった点:
悪役令嬢という王道ネタへ斬新な切口から抉り込んだ設定、すばらしいのひと言でした。王道で勝負をかけるには、他の方が思いつかないものを練り込むことが必須となります。それを冒頭部から思いきり味わえるのは最高です。
主人公のブレない悪役ぶりも極上ですね。言ってみれば“真・悪役令嬢”。そんな彼女がさまざまなどんでん返しを経ながら辿る道筋は実にドラマチックで、すっかり目を奪われました。

◆改善すると良くなりそうな点:
ひとつの段落が大きく、読みづらいです。文章の連なりには緩急、つまりは長短によるメリハリがついていないと、読者の目はあっさりと離れてしまいます。段落分けを適切に行い、長文の間に短文を利かせて読みやすく整理することを心がけてみてください。
これに関係していることとなりますが、各シーンで説明過多が目立つことも気になりました。描写も過ぎれば冗長となります。ですので心情をメインにしつつ文量を削る。その上で場面を増やし、1シーンに留まる時間(文量)を減らして停滞感を解消する。これらを意識していただけると完成度はさらに上がるものと思います。

【エントリーNo.9 SF】
戦争の残像が傷痍軍人と少女を追う。誰もが誰かのDearest=最愛の人
ディ・ア・レ・スト 作者 つるよしの
あらすじ:
恒星間抗争の終わった惑星に暮らす傷痍軍人イヴァンと少女スノウ。
イヴァンは、戦火により顔の半分と身体の自由を失い、スノウは、戦争によって身を売ることを強いられる夜を過ごす。
2人は、イヴァンの「落としもの」をきっかけに、ある日出会い、共に旅に出ることとなる。
イヴァンは自らの“内なる戦争”を終わらすべく無くした記憶を求め、スノウは自身を傷つけた忌まわしい記憶を消すべく虚空を彷徨う。
果たして、自分の「Dearest(最愛の人)」は誰なのかを求めつつ。
旅の各所に潜むのは、終わったはずの戦争の傷跡と影。
戦争とは、2人にとって、何時、終焉を迎えるものなのか。
さらに、イヴァンの消えた記憶に絡む謎を追い、追われながら、いつしか迎える旅の終わり。
――2人は、記憶を辿る旅路の最後に、何を知るのか。

◆点数評価:
・オリジナリティ:
・キャラクター:
・ストーリー:
・世界観:
・文章力:

◆良かった点:
義眼を落としてしまった傷痍軍人と、その義眼を宝石と勘違いしてしまう少女の冒頭での出会いがとても鮮烈で、一気に物語に引き込まれました。ちゃんとラストでその義眼の設定を使うのも見事です。失った過去を思い出したいイヴァンと、過去を忘れたいスノウという対象的な組み合わせも面白く、またスノウに雪を見せる旅に出るというロマンチックなメインストーリーに、イヴァンの過去に隠された秘密を絡めることで読者の興味を最後まで惹きつけている点もお見事です。

◆改善すると良くなりそうな点:
突発的に船内で起きた事件に巻き込まれるという流れが何度もあったのが気になりました。目標の惑星にすぐ着いたら話が終わってしまうので仕方ない部分はありますが、何度も船の中で事件を起こすよりは、立ち寄った惑星上で物語を展開する方が自然な流れになるかと。実際途中で立ち寄ったスフェーンやローディでの出来事は、イヴァンの背景と上手く合致してて印象深いものになっています。ただ偶然トラブルに巻き込まれるのではなく、たとえば主人公には事件を避けて通れない理由があった、あるいは偶然に見せかけた何者かが仕組んだ罠だったなどの、主人公が事件に介入する必然性を用意すると、より物語の深みが増します。
また設定面なのですが、話の展開上必要な事とはいえ、監視に必要な義眼があっさり外れたり、軍の秘密を知っているイヴァンが殺されずに記憶を消すだけで解放されていたりするのはやや不自然です。あくまでメインとなるのは二人のラブストーリーかもしれませんが、こうした細かい部分もしっかりフォローしておくと作品の完成度がより高まります。


今回で「カクヨムコン歴代応募作品講評会」は最終回です。
ご応募いただきました皆さま、ありがとうございました。

第1回・第2回はこちら。

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