先日、高校生限定の小説コンテスト「カクヨム甲子園2025」の詳細が発表されました。
7月8日(火)の開幕に先立ち、今から作品の内容を考えている方、これから応募を検討したい方など、参加を予定している皆様へ向けた「歴代受賞者のインタビュー」をお届けします。
今回は、昨年のカクヨム甲子園2024《ロング部門》で大賞を受賞した、蘇芳ぽかりさんにお話を伺いました。
――カクヨム甲子園への3度目の挑戦で見事大賞を獲られましたが、1度目・2度目と3度目の応募作品で変えたこと、逆に貫いたことなどがあれば教えてください。
蘇芳ぽかり:
実は1度目・2度目の応募から意識して変えようとしたところはありません。とにかく自分の描きたいものを追求しようと気の向くままに物語を書きました。とはいえ私の作品を読んだ母にはよく「書き始めた頃よりもずっと作品が読みやすくなった」と言われます。ずっと書き続けたことが、3年間で文章が上達するにあたり大きかったのでしょう。
昨年参加された皆さん、そして今年参加される高校生の皆さんには、どうか書き続けて欲しいということをお伝えしたいです。小説はさておき、文章は書けば書くほど確実に伸びます。ひたすら書いて書いて書きまくってください。
――カクヨム甲子園参加以前に、創作のご経験はどの程度おありだったのでしょうか。
蘇芳ぽかり:
小説を書き始めたのは、私が中学2年生であったときのコロナ禍の休校期間中です。その前から小説を綴ってみたいという思いはあったので、せっかく時間がたくさんあるということで執筆を始めてみました。とはいえ当初はノートに手書きで書いて、友人やクラスメイトに感想をもらって満足していました。
本格的に物語を練って書くようになったのは中学3年生からです。特に明確なきっかけがあったわけではなく、気づいたら本気になっていたという感じでした。その年の秋に文芸部に入部し(中高一貫校でしたのでその時期になります)、当時部長をしていた先輩がカクヨムにて執筆を行っていたことが、このサイトを始めたきっかけです。
―― カクヨム甲子園で大賞をとられたこと以外に、応募から授賞式を通して、参加してよかったと思ったことを教えてください。
蘇芳ぽかり:
参加したことで良かったことは、何よりもさまざまな出会いがあったことです。
授賞式に共に参加した同世代の方々と創作談義をし、たくさんの刺激を受けました。その時に文芸サークル「彼方冬のひかり」を結成したのですが、これからの活動が楽しみです。よりたくさんの創作仲間と交流する機会が得られるだろうと思います。小説の執筆活動は基本的に1人で行う作業ですが、同じ道を志す仲間がいることはとても励みになります。「私も頑張ろう!」と思えます。
また、授賞式では編集者の方々や憧れていたはやみねかおる先生と直々にお話をさせていただくことができました。これから歩んでいく作家への道をより確かに感じられたひとときでした。

――小説を書く際に影響を受けている作家さんや作品があれば教えてください。
蘇芳ぽかり:
最も影響を受けているのは辻村深月さんの小説だと思います。辻村さんの書かれる、恐ろしいほどに繊細で誰もが自然と感情移入をしてしまうような心情描写にずっと打ちのめされてきました。私も「人間」というものをもっと知って心を抉るような物語を書きたいと思っています。『満月と卵焼き』ではそれが少しだけ形になっていると感じています。
また、現在はさらに伊坂幸太郎さんの文章のような疾走感とシュールさを取り入れてみようと努めています。よりさまざまな文体を取り入れ、混ぜ合わせ、自分の文体を構築していきたいです。独自の雰囲気を持った小説に憧れています。
――『満月と卵焼き』はどのような着想で書かれた作品でしょうか。
蘇芳ぽかり:
『満月と卵焼き』を書き始めたきっかけは、実際に私がよく好きで卵焼きを焼いていたことです。あるとき「あ、これを書いてみよう」と思いつき、そこから物語を広げていきました。あのような兄妹の姿を描いたのは、歳の離れた姉のいる友人の影響が大きいです。私は普段、日常で感じたことや経験などを元に小説を書くことが多いと感じます。日々の暮らしはネタの宝庫です。
ちなみに作中の調味料などの配分は我が家仕様になっています(笑)。ただし私は葉月のような円筒形の卵焼きは作れません……。
――受賞作でも受賞作以外でも、応募された作品への思い入れを語ってください。
蘇芳ぽかり:
『満月と卵焼き』は自信があった作品ですが、それ以上に個人的に気に入っていたのは『心』です。初めて書いた時代小説であり、自分への挑戦でした。時代背景の調査にこれまでの小説で1番時間を掛けましたし、心理描写や表現の言い回しにはかなりこだわっています。だからこそ最終選考に残っているのを確認してほっとしました。授賞式で編集者の方々にお褒めの言葉をいただいてとても嬉しかったです。
『心』は本来2万文字などという字数には到底収まらない作品であると自負しています。いつか壮大な時代長編に編み直したいです!
――作品を完成させるための執筆作業の際、行った工夫などはありますか?
蘇芳ぽかり:
1日何文字というノルマのようなものは設けていませんでしたが、暇さえあればノートパソコンやスマホを取り出して執筆をするようにしていました。
具体的には登下校時にバスを待っている時間、授業の間の10分休み、自習時間などです。私は小説を書くときには完全に静かな場所よりも程よく雑音がある場所のほうが集中できるので、学校の教室で執筆するのが好きでした。
また近くに友人がいる環境で書くことで、「この言い回しって不自然かな?」と気になったときにすぐに尋ねて、読み手の一般的な視点を取り入れることができました。
――最後に、カクヨム甲子園2025に挑戦する高校生にメッセージをお願いいたします。
蘇芳ぽかり:
授賞式のスピーチにてもお話させていただいたことですが、言葉とはそれ自体では無力なものです。しかし人が物語を紡ぐとき、言葉は誰かの心を動かすような何らかの力を持つでしょう。どうか伝えようとすることを諦めないでください。ストーリーを何度でも作り直し、描写に最後の最後までこだわってください。小説を書いた先に自分が何を求めるのかを、もう一度考えてみていただきたいです。
また、読者を大事にしてください。日々膨大な数の小説が上げられる小説投稿サイトの大海において、私たちは読者に読んでいただくことで初めて存在することができます。ネット小説は紙の本と違って実体を持たないのでなおさらです。小説を届ける相手のことを考え、読みやすさ、読後感などに配慮するのは大切なことであると思います。
創作の夏を迎える皆さんのことを心より応援しています。同世代の物書きとして一緒に頑張っていきましょう!
蘇芳ぽかりさん、ありがとうございました!
▼カクヨム甲子園2024のショート部門大賞受賞者、冷田かるぼさんのインタビューはこちら
「カクヨム甲子園2025」の応募受付は、7月8日(火)正午から開始します。
皆さまのご応募、お待ちしております!
▼「カクヨム甲子園2025」応募要項