
異世界生活を楽しむファンタジー作品を大募集!
945 作品
この度は「MFブックス異世界小説コンテスト」にご応募いただき、誠にありがとうございました。
長編部門、中編部門合わせての応募総数は945作品となりました。ご応募いただいたすべての作品、作者の皆様に重ねてお礼申し上げます。
どの作品にも皆様の思い描く「楽しい異世界生活」がつまっており、編集部一同、楽しく、そして悩みながら選考をさせていただきました。
世に数多くの異世界小説が出ている中、「いま読者が求めている作品」とはどういうものなのか、あらためて難しい問いに向き合う選考期間となりました。
厳正なる選考の結果、大賞作品0作品(該当なし)、特別賞5作品(長編部門3作品、中編部門2作品)を選出いたしました。
長編部門の受賞作は、それぞれ方向性の違った3作品となりました。どの作品も技量と工夫の光る作品でした。
選考会では最後まで議論しましたが、甲乙つけがたく、3作品を特別賞とすることで決定いたしました。
中編部門の受賞作は、読んでいてあたたかな気持ちになれる2作品となりました。
最終候補作品はどれも素晴らしい内容でしたが、結果としては、中編という制限のなかでコンセプトをはっきりと示した2作品を特別賞とすることに決まりました。
受賞作品は、担当編集が付いてMFブックスからの書籍化を目指します。
今後ともMFブックスをよろしくお願いいたします。
総評・講評:MFブックス編集部
耐えがたい頭痛と身体の痛みに意識が戻ると、そこはスラムのゴミ箱の中だった。
自分が何者か、どうしてここにいるのか、なにもわからない。
やがて水を出せることに気がつき、痛みを取り、身体をキレイにできることに気がつく。
どうしてオレはゴミ箱に捨てられたのか?、その理由もわからずこの魔法のある世界を生き抜いていく方法を探していく。
だけど、オレの水魔法はどこかおかしい…。
伯爵令嬢リーナは、ある日突然、婚約を一方的に破棄された。
さらに家族からも勘当され、心の拠り所だった故郷を離れることに。
たどり着いたのは、隣国ブランネル王国の地方都市アードベル。
旅の途中で魔物に襲われた彼女を救ったのは、若き騎士だった。
そしてその出会いをきっかけに、リーナの中で前世の記憶がよみがえる。
日本で惣菜店に勤めていた頃の記憶。小料理屋を開きたいという夢。
食材を見極める鑑定の魔法と、料理人としての情熱が、彼女をもう一度立ち上がらせた。
「この魔物の肉……唐揚げにしたら、絶対おいしい!」
まずいと敬遠されていた魔物肉が、リーナの手で驚きの一品へと生まれ変わる。
その料理は、騎士団や町の人々の心と胃袋をつかみ、やがて故郷にまで噂が届いて……?
笑顔と温かさを届ける和食スローライフ、今日も開店です!
『和食で騎士団を虜にした令嬢は、婚約破棄から人生やり直し中です 〜隣国で小料理屋をはじめたら、元婚約者が土下座してきました〜』は、美味しそうなごはん描写が魅力の満足度の高い作品でした。
魔物を唐揚げにして美味しく食べるという、和食×異世界ならではのコミカルな展開から始まり一気に心をつかまれ、日本が誇る和食が異世界に影響を及ぼしていく様子に大変ワクワクする物語です。
婚約破棄されながらも悲嘆に暮れず、誰かを笑顔にしたいという目的をもって、利益度外視で和食を作っていく主人公はとても好感度が高く、共感の気持ちを持って読み進めていくことができました。周囲のキャラクターも魅力的でしたし、主人公リーナの料理、そしてその人柄を通じて段々と人の輪が広がっていく様子もとても温かく大変魅力に感じました。
この作品の特徴である読んでいてほっこりする、幸せで穏やかな空気感を大切にしながら読者の方に届けたいと考えています。
佐倉杏、享年七十八歳。現世で人生をまっとうして疲れ切っていた杏に、女神フレイアが自分の創った世界に転生して欲しいと懇願する。最初は固辞していた杏だが、のんびりと暮らせるならと異世界で図書館の館長になることを引き受けた。
異世界で十六歳の身体になったアンは、この世界のナビゲーターに相談しながら、様々な問題を図書館館長のスキルを使って解決していく。
妖精、貴族、騎士団、対立する宗教団体と、否応なしに周囲の人々と関わることになるアン。だが「今世のモットーはのんびり生きていくこと」と、面倒を避け、昼寝の時間を死守しようとする。
『異世界図書館の館長としてのんびり生きてみます』は、第二の人生をのんびり過ごしたいと願いながら、困っている人たちを放っておけない主人公の真面目で優しい、心温まる作品でした。
また、図書館の館長として本に囲まれて暮らすという、本好きが一度は憧れるようなシチュエーションに目を引かれ、万全なセキュリティという安心感、そして図書館を自由にカスタマイズできるというワクワク感が大変魅力的です。
「今世のモットーはのんびり生きていくこと」と掲げているアンですが、困っている人を放っておけない優しさと誠実さ、そんな彼女を慕い集まってくる周囲のキャラクター達も非常に好感度が高く、癒しと安心感を得られる作品だと感じました。
穏やかで心温まる人間関係や緩やかに流れる空気感を大切にしながら、より多くの読者の方々へ届けたいと考えています。
性格も年齢も見た目も境遇も全く違う2人が出会って家族になっていく、心温まるファンタジー!
6歳のニーナは、遠縁の親戚に引き取られ、虐げられて暮らしていた。
ある日ニーナは発熱し、命を失ってしまう。その身体に転生したのが、現代日本でOLとして暮らしていた椿だ。
椿は医学部受験に失敗したことで家族から見放されていた。そして見知らぬ子供を庇って事故死し、ニーナに転生したのである。
椿が転生したタイミングで、ニーナは治癒魔法の才能が開花する。
魔法の才能があれば一人でも生きていけるのでは!? と思ったニーナは山に逃げる。そして山で、一人のエルフと出会った。
だがそのエルフは、あまりにもぽんこつで……!?
「何を食べても食べなくても、どうせ私は死なないから。エルフだし」
「ちょ、ちょっとエリーゼさん、栄養状態が最悪ですし、部屋は片付けてくださいってば……!」
家族からの愛を知らない天才幼女(中身は元大人)、そして寂しさを抱えて生きていたぽんこつエルフ(1245歳)
これは、そんな凸凹な二人が、家族になっていく物語。
『天才幼女、ぽんこつエルフに拾われる~転生したら強力な治癒魔法持ちでした、ただし幼女ですが~』は、人とエルフが織りなす物語に切なさと温かさを感じられる心に響くスローライフ作品です。
はじめは主人公・ニーナとまったく家事ができない「ポンコツ」なエルフ・エリーゼの、共同生活の中で繰り広げられるコミカルな日常が描かれますが、やがてエリーゼの悲しい過去に触れることで、人と人とのつながりが深く掘り下げられていきます。その緩急に惹き込む力が感じられ、読み手を離さない構造となっていました。
二人の関係性が深まるにつれ、生まれも種族も異なるがゆえの考え方の違いが浮き彫りになりますが、互いの心のやさしさによって、時にすれ違いながらも少しずつ歩み寄って家族になっていく姿は、血のつながりに寄らない多様な家族の在り方を示すものでした。
中編という形式ですが、人間とエルフという設定を活かしきり、読者の感情をほっこりさせたり感動させたりと様々な方向に動かす作りが見事です。
読んだ人もやさしい気持ちになれるような素敵な作品であり、その魅力を大切にしながらより多くの読者の方々に届けたいと思います。
洋食屋の娘だったユーナは、両親を事故で亡くしたばかりのある日、突然異世界に落ちてしまった。森の近くの小さな町で食堂を営む優しい老夫婦に拾われてから一年……この世界でもご飯を作ることに決めたユーナは森で灰色の竜と出会う。
お腹を空かせているらしい大きな竜は、ご飯を約束すると五歳ほどの人の姿になってしまった。子竜のフォルは、ユーナのところに居着いてしまい、一緒に暮らすことに。そこへ老夫婦の孫である騎士クロードが様子を見に訪れて――。いや、聖女とか急に言われても困ります。私はここでのんびり暮らすので!
不器用だけど優しい家族の形がゆっくり育っていくお話。
『ボロボロの仔竜に懐かれたので、おいしいごはんでふくふくにします!』は、食卓を囲む温かさを通して、「喪失からの再生」と「家族の絆」を予感させる、心温まる作品です。
両親を失った主人公ユーナは、異世界で料理を作りながら生きていこうと決意します。そんな彼女のもとに現れるのは、空腹でボロボロになった仔竜フォル。ごはんを差し出すことで無邪気に懐かれ、一緒に暮らすようになります。さらに、彼女を見守るためにやって来た元騎士クロードが加わり、三人の共同生活が始まっていきます。
現時点では、家族のような関係が具体的に築かれる前段階ですが、ユーナの喪失感を補うフォルの明るさや、クロードの寡黙ながらも純粋な優しさが交わり、読者にこれからの関係性に期待を抱かせてくれています。
また、本作において「料理」は単なる食事描写にとどまらず、絆を結ぶきっかけそのものとして機能しています。ひと皿を分かち合う温かさが、読者に安らぎをもたらす点も大きな魅力です。
読後には「これからこの三人がどのような居場所を築いていくのか」を想像せずにはいられない――そんな未来への期待感を感じさせてくれる、ほんわかと優しい物語でした。
「MFブックス異世界小説コンテスト」の中間選考の結果を発表させていただきます。
多数の力作を投稿してくださった皆様、並びに作品を読んでくださった皆様には、改めて深く御礼申し上げます。
※掲載の並びは作品のコンテストへの応募順となっております
講評
『オレの水魔法はどこかおかしい 〜気がついたらゴミ箱に捨てられたスラムの孤児だった〜』は、こつこつと小さな実績を積み重ねる楽しさを噛み締められる、異世界サバイバルの原点に立ち返るような良い作品でした。
異世界の少年マークに転生した主人公"オレ"は冒頭からゴミ箱の中で瀕死状態で記憶喪失という過酷な状況ですが、「生き延びたい」というシンプルな願いで泥臭く行動し、ギリギリの状況で能力を開発しながら活路を見出していきます。
水魔法を考察しながら能力を地道に育て、次第にできることが増えていき自由に冒険活動の幅を広げ"オレ"は少しずつ自分自身の記憶を取り戻してゆく。
逆境の中での小さな成功体験の積み重ねが、読んでいてとても心地良かったです。
主人公の思考軸がブレない点や主人公を取り巻く世界背景が丁寧に作られておりサバイバル描写や冒険活動に説得力がある点も魅力的でした。
読み手が異世界を一緒に旅しているような読書体験ができる本作の魅力を、より多くの読者の方に届けたいと考えています。