12月1日より開催する第6回カクヨムWeb小説コンテストの応募者に向けて、創作のヒントやアドバイスを提供し、スキルアップに役立ててもらう「カクヨム小説創作オンライン講座2020」。
その第1弾「カクヨムコン歴代応募作品講評会」、第5回をお届けします。
※「カクヨムコン歴代応募作品講評会」とは？ という方は第1回の記事をご覧ください
第5回 掲載作品
・【恋愛】呪われた龍にくちづけを 第一幕 ～特別手当の内容がこんなコトなんて聞いてません！～ 作者 綾束 乙
・【異世界ファンタジー】婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています 作者 葉柚
・【現代ファンタジー】そこにいる猫 作者 あきのななぐさ
・【キャラクター文芸（現代ドラマ）】後宮武侠物語 作者 古月
【エントリーNo.19 恋愛】
イケメン二人と美少年にご奉公！？ ときめき大盛りの中華風ファンタジー！
呪われた龍にくちづけを 第一幕 ～特別手当の内容がこんなコトなんて聞いてません！～ 作者 綾束 乙
あらすじ：
きゅんきゅんとによによが止まらない⁉ 秘密とときめきがいっぱいの、中華風ファンタジー！！
義父が作った借金返済に追われる明珠（めいじゅ）の生きがいは、弟、順雪（じゅんせつ）を立派に成長させること。
そんな明珠に義父が話をつけてきた奉公先は、なんと生き別れた実父が暮らす屋敷・蚕家（さんけ）での侍女奉公！
抵抗する明珠だが、先立つもののない身では、受け入れるほかはなく、蚕家に赴くが……。着いた早々、大失態をやらかしてしまう。
なんとかクビは免れた明珠が勤めることとになった蚕家の離邸には、女の子と見まごうような美少年・英翔（えいしょう）と、従者の青年、季白（きはく）と張宇（ちょうう）の三人だけが暮らしていた。
可愛く甘えてくる英翔にきゅんきゅんするものの、英翔は何やら複雑な事情を抱えているようで……？
悪戯っ子の英翔、優しく穏やかな張宇、口うるさい小舅（こじゅうと）季白の三人に囲まれて過ごす明珠の日々は、予想もしないにぎやかさ。
明珠は果たして無事に借金を返済できるのか⁉ そして、英翔に隠された秘密とは⁉
◆点数評価：
・オリジナリティ：４
・キャラクター：３
・ストーリー：３
・世界観：５
・文章力：４
◆良かった点：
情景が見えました！ ていねいに構築された作品世界があり、その上にそれぞれの思惑やら秘密やらを抱えたキャラクターたちが生きている……世界観という要素をしっかりと感じられた一作でした。
さらには世界観を存分に描き出し、読者へ伝えられる作者さんの筆力も高評価です。地の文章は小説を形作る基礎であり、軸。その太さ、本当にすばらしくありました。
◆改善すると良くなりそうな点：
なにより気になったのは心情描写の薄さです。
地の文による描写がセリフの量や質と噛み合っていない――端的に言えば少ないことが原因なのですが、当然のことながら（特に初見の）読者は作者ほどそのキャラのことも作品のことも知りません。このキャラはこういう性格だからこう言う、対してあのキャラはああいう設定だからこう応える、というのは作者だけの常識です。
嫌になるくらい各キャラの心情を描写してあげてください。なにも知らない人へ伝えるにはそれだけの手間が必要ですし、それができればより強く、キャラの魅力を押し出せます。
また、恋愛以外の見せ場が小さくまとまってしまっていたことも目に付きました。
アクションでも心理戦でも葛藤劇でも、どう描けば大きく激しく――あるいは密やかに緊迫させ、映える展開ができるものか、ここを練ってみてください。
【エントリーNo.20 異世界ファンタジー】
もふもふな猫様と一緒に異世界スローライフ
婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています 作者 葉柚
あらすじ：
婚約者の二股により婚約破棄をされた３３才の真由は、突如異世界に飛ばされた。
そこはど田舎だった。
住む家と土地と可愛い3匹の猫をもらった真由は、猫たちに囲まれてストレスフリーなスローライフ生活を送る日常を送ることになった。
レコンティーニ王国は猫に優しい国です。
◆点数評価：
・オリジナリティ：２
・キャラクター：３
・ストーリー：２
・世界観：３
・文章力：２
◆良かった点：
やさしい世界とやさしい人たち、そしてやさしい猫。ささくれだった心をやさしくなでてくれるような、とてもやさしいものに満ち満ちた作品でした。
風情や雰囲気というものはそれこそ、技術だけでは出し得ないものですので、このまま育てていっていただきたく思います。
◆改善すると良くなりそうな点：
すべての要素が流行の域に収まってしまっている感を受けました。
賞という場で審査側が見たいのは「この作品ならではの輝き」です。形式が仕上がっているだけに安定安心な王道ネタへ乗るなら、それをして他の既存作を蹴散らせるだけの強さ――キャラ、ストーリー、世界観、どれかひとつでも――を打ち出す必要があります。
なにを押し出し、作品の売りにするのか？ ネタ出しの際はこのことを意識するよう心がけていただけましたら。
そしてそのためにも、「冒頭部」へは最大の注意を払っていただけましたら。
たとえば本作、１年に２，３回しか会っていない恋人への強すぎる感情や異世界トリップを理解するまでの早すぎる経緯等々、かなり強引な設定が冒頭部で示されています。
導入部はそれこそ、作品の第一印象を決める出逢いの場です。ここで読者の目と心を掴むには、当然ネタに相応な説得力と、後に続くドラマを匂わせるしかけが必要です。
ネタをしっかり練り込み、作品と読者がいい出逢いをできる場を整えてください。
【エントリーNo.21 現代ファンタジー】
人を守っているんです。そんな猫の物語。
そこにいる猫 作者 あきのななぐさ
あらすじ：
人の歴史に病気がある。
しかし、その病気について、本当にわかっている事は少ない。それは、人の知覚する領域を超えたところにその存在があるから。
――病魔。
古来より、人はこの病魔と闘い生きてきた。誕生した日に、その存在と共に。
――それが守護獣。
人に仇なす病魔から、人を守護するために傍らにて生きる者達。
だが、世は流れ、時は移り、いつしか守護獣の存在は人々の記憶から消え失せていく。
しかし、今もその戦いは続いている。人が生きている限り。病魔との戦いは無くならない。
そして今、一匹の黒猫がその街にやってきた。
◆点数評価：
・オリジナリティ：３
・キャラクター：４
・ストーリー：３
・世界観：３
・文章力：２
◆良かった点：
主人公のクロさんは人に仇なす病魔を喰らい祓う守護獣――でありながら、実はちょろい黒猫でした！ この落差が実に楽しいだけでなく、物語の端々にまで効いていました。読者を好きにさせずにいられない狡さいっぱいな主人公、最高としか言い様がありません！
他のキャラクターとの関係性もよかったですね。互いがきちんと互いに引き立て合っていて、物語を華やかに彩れていました。
◆改善するとよくなりそうな点：
セリフに頼りすぎていることが最大の問題です。
説明のすべてを詰め込んだセリフは、地の文をはぶいたリズムのいい展開を成しているように思えるものですが、実際はちがいます。キャラの（個性を体現する）挙動や秘するべき心情が丸々抜けているため、読者はそのキャラを好きになるきっかけを得られず、説明ばかりのセリフ――特に長ゼリフ――に目を滑らせてしまうこととなるのです。
さらに本作における地の文書。スタッカットに刻まれたものが多いのですが、単調なリズムとなってしまっており、かえって冗長に感じられました。
セリフと地の文章の関係性は、低音と高音を示すメリハリのそれと同じです。セリフを生かす濃やかな心情描写や挙動描写、地の文の説明を裏付ける（または裏切る）セリフまわしでメリハリがつけられれば、リズミカルな短文描写の気持ちよさもさらに高まります。
【エントリーNo.22 キャラクター文芸（現代ドラマ）】
皇太子妃の座を求め、後宮の美女が武を競う――空前絶後の武術大会、開幕！
後宮武侠物語 作者 古月
あらすじ：
「皇太子の妃には、強い女子がふさわしい」
皇后が残したその言葉は何をまかり間違ったのか字面通りに受け止められてしまった。
この世でもっとも強い女性を皇太子妃に据えるべく、今ここに史上初の後宮武術大会が開かれようとしていた！
◆点数評価：
・オリジナリティ：４
・キャラクター：４
・ストーリー：４
・世界観：４
・文章力：４
◆良かった点：
後宮に武侠に百合！ 全く相反するような設定を一つにした発想もさることながら、それらを違和感なく、組み合わせることができた力強い筆力を何より評価します。キャラクターも主人公とその友人はもちろんですが、ライバルである大会の他の出場者や、一見好青年に見える皇太子やあまりに傍若無人な師匠など、主人公たちだけではなく、脇役にいたるまでどのキャラクターも非常に個性豊かで最後まで楽しく読むことができました。
◆改善すると良くなりそうな点：
全体的なクオリティは文句なしに高いのですが、やや地の文が重すぎるようにも感じられました。ただここは本作を武侠小説たらしめている 部分でもあるので改善すべき、とは簡単に言いづらいのですが、それでも上手くバランスを取りながら、もう少し軽やかでリーダビリティの高い文章にできますと、より多くの読者に届く内容になると思われます。また、ここも好みの分かれるところですが主人公の過去の設定がちょっと重すぎるように感じられました。その後の皇太子を巡る展開もかなり悲惨なものがあるので、もう少し明るく希望の持てる要素を増やせると良いかもしれません。
第6回は11月5日更新予定です。
