12月1日より開催する第6回カクヨムWeb小説コンテストの応募者に向けて、創作のヒントやアドバイスを提供し、スキルアップに役立ててもらう「カクヨム小説創作オンライン講座2020」。
その第1弾「カクヨムコン歴代応募作品講評会」、第6回をお届けします。
※「カクヨムコン歴代応募作品講評会」とは? という方は第1回の記事をご覧ください
第6回 掲載作品
・【異世界ファンタジー】人外専門治療院 ~白日の治癒術師と合成獣の少女~ 作者 秘鷺
・【恋愛】悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました 作者 高岡未来
・【ラブコメ】パラディーゾ! 作者 並木坂奈菜海
・【現代ファンタジー】ライセンス! 作者 ともはっと
【エントリーNo.23 異世界ファンタジー】
【第二部完結】人でない者と生きていく―ここは心も体も癒す人外専門治療院
人外専門治療院 ~白日の治癒術師と合成獣の少女~ 作者 秘鷺
あらすじ:
人生は旅の様なもの。あなた方の道行きが、どうか幸福に満ちたものでありますように――。
少年の作品名、白日《はくじつ》の治癒術師。通名アダムスは、治癒術師として造られた道具・魔法生物―ランプ―である。
一方、合成獣《キメラ》にされてしまった少女は、人間の姿には二度と戻れない。
元の人間とはかけ離れた姿となった少女は、傷付き歪んだ身体を治療するため、自分を助けた少年と共に、精霊の森に住むことになった。
精霊の森には、人外か、心の綺麗な者か、招かれた者しか立ち入ることはできない。
人外専門の治療院を営む少年たちの元には、様々な者が訪れるーー。
少女は治療を通して、生きるという旅を進む。
傷ついた全ての者のため、少年と少女、ふたりを取り巻く静かで賑やかな治療院生活。開業いたします。
◆点数評価:
・オリジナリティ:4
・キャラクター:4
・ストーリー:3
・世界観:4
・文章力:4
◆良かった点:
ランプの医師が人外の存在の患者を治療していくという内容に夢と幻想性を感じました。森の中の素朴な暮らしを中心に描きながらも、独自の生態系や文化を形成している世界観を垣間見せているところが興味深く、訪れてみたくなる魅力があります。人間ではない魔法生物であっても救えなかった命に後悔や懊悩する姿に人間味が溢れていて、共感を抱きました。その他のランプたちのキャラやのかけ合いも面白く、医療のあり方を模索するストーリーに引き込まれました。
◆改善すると良くなりそうな点:
ストーリーが痛々しく重くなりがちなので、雰囲気を中和する恋愛要素や笑い要素を加えてはいかがでしょうか。女性で看護師のようなヒロインを作り、アダムスに好意を抱いているが、患者第一のアダムスは鈍感で気づかないというような関係でもいいですし、森に住むいたずら好きな妖精が病院内で騒動を起こすというのでもストーリーの緩急が生まれ、読者が息をつけるタイミングを作れると思います。
【エントリーNo.24 恋愛】
元悪役令嬢、現双子の黄金竜のお世話係。森でスローライフ満喫中
悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました 作者 高岡未来
あらすじ:
魔法学園シュリーゼムへようこそ☆の悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムに転生したわたしは幽閉エンドを回避したくて孤軍奮闘もむなしく、王太子ヴァイオレンツから卒業式での婚約破棄イベントルートへまっしぐら。このままだと本気で幽閉からの死亡ルートになっちゃう! そんなの絶対にイヤ! ってことでわたしは一計を案じることに。仮死状態にる薬を飲んで死んだふりして埋葬すると見せかけて国外脱出→あとは悠々自適に実家とも魔法とも縁を切って暮らしていけば……と思っていたのに、死んだふりしている間に黄金竜のちびっこ双子に拾われちゃった! 竜の一家が目の前に、しかもいたずら双子のお世話係就任ってどういうこと!?
◆点数評価:
・オリジナリティ:3
・キャラクター:2
・ストーリー:3
・世界観:3
・文章力:3
◆良かった点:
悪役令嬢として世間からドロップアウトしたヒロインが人里離れた地で黄金竜の子供のお守りに四苦八苦する姿が愉快でした。家族愛に恵まれなかった彼女が、お菓子を作ったり、旅行へいったり、何気ない日常を過ごすうちに黄金竜の一家と疑似家族のようになっていく様子が和みました。地位や前評判なしのありのままの姿がイケメン王子に見初められるというのも乙女心を刺激します。もうひとりの転生者を出して、生まれや境遇ではなく本人の行動が人物評価を決めるのだという、因果応報の対比が効いていたと思います。
◆改善すると良くなりそうな点:
悪役令嬢や転生者という設定をもっと活用してストーリーに取り入れましょう。乙女ゲームだった頃の知識や経験を活かして騒動を解決したり、イベントで活躍させたり、転生によるアドバンテージが活かせる展開を作ってみましょう。ドラゴン以外にもエルフや獣人など異種族を登場させたり、幻想的で神秘的な土地や環境をもっと描いたりして、読者が作品世界への憧れを感じる世界観を練ってみましょう。
【エントリーNo.25 ラブコメ】
うちの生徒会長(♀)、実は女装男子です。
パラディーゾ! 作者 並木坂奈菜海
あらすじ:
琴吹中・高等学校生徒会会長、桜川真。
完璧ではないが、生徒からも教師からも信頼の厚い、ほとんど人格者のようなクラスメイト。
そんなアイツが持つ、俺だけが知っている『秘密』——。
◆点数評価:
・オリジナリティ:3
・キャラクター:3
・ストーリー:2
・世界観:2
・文章力:2
◆良かった点:
キャラクターにもお話にも、すばらしい勢いがありました! 生き生きと駆け回るキャラクターたちが「楽しさ」を醸しだし。それがまた小気味よく物語として綴られていく。その様に思わず目を奪われました。
作品のテンポ、リズムというものは読みやすさに直結するものですし、もちろん作風として武器ともなるものですので、今後もぜひ意識していただきたく思います。
◆改善するとよくなりそうな点:
気になったのは、地の文章がほぼほぼ状況説明になってしまっていて、他のすべてがセリフで表現されていたことです。
キャラの感情も状況の説明も地の文を使わずにできるセリフは便利なのですが、だからといってそれだけで物語を形作れば不自然なセリフで満ち満ちるばかりです。そしてそれは、キャラクター自身の魅力をも大きく引き下げる原因となります。
文学ならぬライトノベル、ライト文芸でも、説明や心理描写を担う地の文章をいかに使いこなせるかがカギとなるのは同じことです。ぜひ、物語を練ると共に魅せる地の文章についても考えてみていただけましたら。
また、作中で多用されている三点リーダー。
余韻や間を表現してくれる便利なものですが、審査では「文章を書く力がないからこそのごまかし」と見られます。多用は避け、絶対必要なところでのみ使うようにしてください。
【エントリーNo.26 現代ファンタジー】
裏世界で生きる少年は、今日も許可証をもって生きていく。
ライセンス! 作者 ともはっと
あらすじ:
全てには表裏がある。
世界もまた然り。
不自由ながらも豊かに幸せに希望に満ち溢れる世界が『表』。
『裏』は表で定めた法律が通じない無秩序、非常識、何でもありの世界。
そんな裏世界に、殺人を犯しても咎められない許可証があった。
殺人許可証――通称、ライセンス。
裏世界の規律として存在するその許可証を手に入れ自分の目的を達成するため、
永遠名冬(とわな ふゆ)は、許可証取得試験へと挑む。
それは、世界全てを巻き込む『世界樹事変』と呼ばれた戦いの始まりであった――
◆点数評価:
・オリジナリティ:3
・キャラクター:4
・ストーリー:3
・世界観:4
・文章力:4
◆良かった点:
怖気が走るような倫理観の崩壊した裏世界のダーティな世界観と、そこで暗躍する殺人許可証所持者たちのキャラクターが際立っていて独自の世界観を構築できていました。一般人の感覚を持ちながらも目的のために殺人許可証取得を目指す主人公の苦悩や葛藤も描けていてキャラに深みが出ていました。自分よりも圧倒的に強い者たちを前に、生き残るために死にものぐるいで抵抗するバトルシーンにハラハラさせられました。ストーリーが進むごとに後戻りできない深い闇に落ちてゆく姿に胸を締め付けられました。
◆改善すると良くなりそうな点:
殺人許可証や裏世界に所属することに魅力やメリットを見出しにくいです。莫大な報酬が得られたり、表の社会では得られないお宝や情報が得られたり、リスクが大きいことにして相応のリターンを設定してみてください。また主人公の目的が姉の行方を探すことだけであると読者の興味が薄いです。回想シーンなどを挟んで、どういった人物なのかを描いて、主人公にとっていかに大切な存在かを読者に意識づけてみてください。もしくは裏世界の頂点に立つ、あるいは裏世界を滅ぼすなどの壮大な目標を設定して読者の期待感を煽ってみてください。
第7回は11月6日更新予定です。