【カクヨム小説創作オンライン講座2020】カクヨムコン歴代応募作品講評会 第7回

12月1日より開催する第6回カクヨムWeb小説コンテストの応募者に向けて、創作のヒントやアドバイスを提供し、スキルアップに役立ててもらう「カクヨム小説創作オンライン講座2020」
その第1弾「カクヨムコン歴代応募作品講評会」、第7回(最終回)をお届けします。

※「カクヨムコン歴代応募作品講評会」とは? という方は第1回の記事をご覧ください

第7回 掲載作品

【異世界ファンタジー】サフィアガルドの動画配信者《ビジ・リリーサー》 作者 安室凛
【ホラー】それが造られた華だとしても 作者 ふぇいく
【現代ファンタジー】DEAD END,STRANGLE 作者 玉椿 沢
【SF】【叛逆のリアライズ】https://www.Re@LiZE.neet【顕現せしリベリオン】 作者 綾瀬アヤト


【エントリーNo.27 異世界ファンタジー】
憧れの動画配信者は、可愛くて過激な魔法使い
サフィアガルドの動画配信者《ビジ・リリーサー》 作者 安室凛
あらすじ:
『はぁい、私、旅の魔法使いユウ!
世界各地を旅してみんなに動画《ビジ》を配信《リリース》するね!
世界各地の美味しいもの、可愛いもの、キレイな風景、一緒に楽しもうね!』

ある日群れをなして飛んできた蜂蜜色の燕は、こんな動画《ビジ》を映し出した。

異国の不思議な景色、食べ物、おしゃれ。

楽しくって可愛い動画《ビジ》は断続的にとどけられ、飯屋の奉公人リンファは、動画《ビジ》のめずらしさとユウの魅力に夢中になっていた。

けれど王都からやってきた学生のトウミはユウの行動をいぶかしむ。

ユウは可愛いだけじゃない?

『魔法使いユウの「旅」、みんなも一緒にのぞいてみない??』

◆点数評価:
・オリジナリティ:
・キャラクター:
・ストーリー:
・世界観:
・文章力:

◆良かった点:
魔法使いが動画を配信するという設定が非常にユニークで、動画の内容を描写することでキャラクターを紹介しながら自然に世界観の説明も行うという動画配信という設定を物語に巧みに組み込んでいます。また、動画を一方的に配信しているようで視聴者からマナを回収するなど現実の動画配信を上手くファンタジー世界でも馴染むようにアレンジしている点もお見事です。動画配信者のユウとそれを眺めるだけだったリンファ、そしてワケありの学生のトウミ。生まれも育ちも全く異なる接点のなさそうな3人が、親しくなるまでの過程をしっかり書けている点も高く評価できます。

◆改善すると良くなりそうな点:
序盤はユウの動画配信という他にはないユニークさがあるのですが、1章が終わり2章となってユウとリンファたちが共に行動するようになると、動画配信という序盤で目を引いた要素が弱くなっていき、良くも悪くも普通のファンタジー小説のようになっていきます。決してつまらないわけではないので、これはこれで悪くないのですが、ユウの動画配信という設定をより上手く引き出す方法、たとえばユウと行動を共にするようになったリンファが動画作成の思わぬ苦労を体験するなど、せっかく独自性のあるアイデアですので、その独自性をより掘り下げる工夫をしてみてください。


【エントリーNo.28 ホラー】
この転校生にはヒミツがある。きみをいざなう最悪のルート
それが造られた華だとしても 作者 ふぇいく
あらすじ:
平凡な高校生・望月渉は、大嫌いな梅雨の時期を憂鬱に過ごしていた。そんなとき、クラスに転校生・橘芽亜凛がやってくる。
渉の幼馴染の百井凛と急速に距離を縮めていく芽亜凛。彼女の転校初日を境に、凛の周りで人が消え始めるのだった……。

◆点数評価:
・オリジナリティ:
・キャラクター:
・ストーリー:
・世界観:
・文章力:

◆良かった点:
なんでもない日常を侵蝕していく恐怖! ホラーとしてのテーマ性がブレることない筆で描き出されていたことは高評価でした。パニック系ならぬ這い寄る系ホラーは、それだけに勢いでごまかせない難しさがあるものですが、本作には必要な情報と情緒、さらには雰囲気が揃えられていました。それがあればこそ物語を「次のページ」へ引っぱれていたこともまた好印象です。

◆改善すると良くなりそうな点:
内容が文量に比例しておらず、物語が淡白且つ間延びしている印象を受けました。日常パートがただの日常パートになってしまっていて緊迫感が薄く、そのためにドラマを盛り上げられていなかった感が強いです。
これはミステリーにも言えることですが、キャラクターたちへは常に恐怖(あるいは謎)を意識させておかなければなりません。
たとえ緩い日常シーンであっても、恐怖が「そこに在る」ことが示されているだけで異様さや緊迫感が生まれ、読者を身構えさせることができます。しかしそれができていなければ、読者の目を滑らせてしまうばかりのダメエピソードとなってしまいます。
次回作ではテーマをくっきりと浮き彫り、大きく盛り上げるための構成について考えてみてください。


【エントリーNo.29 現代ファンタジー】
刃を取れ、拳を握れ。不利と敗北は直結しないと教えてもらったはずだ!
DEAD END,STRANGLE 作者 玉椿 沢
あらすじ:
今ではない時代、ここではない日本で、社会の生産に何ら寄与しない異能力者たちは、考えている振り、悩んでいる振りしかしないがために、行き詰まる。行き止まり、雁字搦めで行き着く先は、精々、小銭を稼ぐために殺し合う舞台だった。

劣った能力しかない少年たちは、自らが絶対に守るときめたもののために自ら、あるいは悪意によって強制的に舞台に上がり、大火力、大規模な異能と戦う事になるが、常に少年たちには、不利は敗北に直結しない事を教える大人たちがいる。

◆点数評価:
・オリジナリティ:
・キャラクター:
・ストーリー:
・世界観:
・文章力:

◆良かった点:
「方」と「導」という二つの異能力を使って戦うバトルがとても印象的でした。またバトル面にばかり焦点を当てるのではなく、夜は命をかけた死闘をしている人々が昼間はごく普通に学生として過ごしていたり社会人として働いていたりするなど、妙にギャップのある独自の人間ドラマが描かれているという点が大変ユニークで、彼らの日常を細かく描写することで、バトルのときに実際の人間が戦っているような臨場感を生み出せており、群像劇としてそれぞれのキャラクターを立たせることに成功しています。

◆改善するとよくなりそうな点:
設定面で気になる部分が多く感じられました。たとえば百識が隠された存在ではなく本作のようにおおっぴらに使われているのであれば、この世界のスポーツはどうなっているのか、登場人物の多くは金銭面で悩んでいるが、これだけの力があればもっと安全に金を稼ぐ手段はいくらでもあるのではないか。
登場人物の日常をリアルに書いているために、逆にこうした違和感が非常に引っかかってきます。「今ではない時代、ここではない日本」とは本作に出て来るフレーズではありますが、だからこそ作中の世界がどのような世界であるかをある程度説明し、描写してほしいと感じました。


【エントリーNo.30 SF】
対戦型VRセカイで、彼女たちは出逢い・悩み・戦い抜いて未来を掴む!
【叛逆のリアライズ】https://www.Re@LiZE.neet【顕現せしリベリオン】 作者 綾瀬アヤト
あらすじ:
2029年5月の現在。
新作フルダイブ型VRゲーム《MateRe@LIZE Nexus》のβテスターとして、僅か5000人の中に選ばれたアラサーニート女子の桐生リゼ。
彼女は男キャラ「リーゼ」としてゲームをスタートした。

リーゼ(のプレイヤー)は「ある事件」で過去の記憶を一部失くしており、その時のトラウマが元でニートにして廃人ゲーマーとなった。
しかし初めて体験するフルダイブ技術は脳に接続する技術……それが失われた記憶へアクセス。
直後、過去の記憶をトリガーに秘められていた脳の行き着く先【リンケージ】が開放される。
人の限界を越えた力を発揮し敵を一瞬で葬るが、これは同時に自身の脳を破壊する諸刃の力でもあった。

そして割れる様な頭の痛みから程なく、今度はVR内で悪質プレイヤーに狙われるトラブルに巻き込まれる。
心身ともに悩む日々……だが或る日、強くも美しい一人の女性プレイヤー「アルマ」と出会い、彼女と共にトラブルを打ち破ったリーゼ。
以降、二人はVRだけでなく、リアルでも会って親睦を深めた。

暫くしてβテストの終わりが近づく頃……戦いの先でリーゼは失った過去の記憶を取り戻す「光」を見つけた。
「光」を掴むため、彼ら二人は敵とぶつかり合い、千切れ合う程に戦い抜いてゆく。

その勝利の先に、望む明日があると信じて。

◆点数評価:
・オリジナリティ:
・キャラクター:
・ストーリー:
・世界観:
・文章力:

◆良かった点:
流行りのeスポーツ系FPSという題材がキャッチーで、敵も味方も登場人物の廃人プレイヤーたちの勝利にかける闘志が凄まじく、プレイヤーたちの意地とプライドがぶつかり合う白熱したバトルに手に汗握りました。各プレイヤーのテクニカルなスーパープレイの連続に圧倒され、それぞれの個性もわかりやすくキャラ立ちしていました。2vs2という試合形式をとることで、自然とパートナーのキャラの引き立て合いができていましたし、バディものとしても成り立っている設定作りが上手い。

◆改善すると良くなりそうな点:
ゲームにさらに自由度や戦略性を加えましょう。それぞれのキャラごとのスキル、パークがあったり、アサルトライフルの中でも様々な種類があったり、乗り物やステージギミックなどを登場させても試合展開が面白くなると思います。また回復薬がなく、接近戦の展開が多いのでFPSというより格闘ゲームよりのゲーム性になってしまいがちなのが気になります。主人公の台詞回しが、ところどころ場にそぐわなくて気取った感じで滑りがちに映りました。決め台詞や口癖はキャラ付けに有効ですが、ここぞという場面で大見得を切ることで空気を締めたり、気持ちを切り替えたりする使い方をしましょう。


今回でカクヨム小説創作オンライン講座2020の「カクヨムコン歴代応募作品講評会」は最終回です。
ご応募いただきました皆様、ありがとうございました。