第7回カクヨムWeb小説コンテスト大賞受賞者インタビュー|髙橋炬燵【異世界ファンタジー部門】

12月1日から応募受付が始まった第8回カクヨムWeb小説コンテストは多くのカクヨムユーザーの皆さまにご参加いただき、例年以上の盛り上がりとなっています。12月15日現在の応募数は長編:約7,000作品短編約4,560作品です。
そこで、かつて皆様と同じようにコンテストへ応募し、そして見事書籍化への道を歩んだ前回カクヨムコン大賞受賞者にインタビューを行いました。受賞者が語る創作のルーツや作品を作る上での創意工夫などをヒントに、小説執筆や作品発表への理解を深めていただけますと幸いです。
第1回目は明日12月16日に書籍が発売される『チュートリアルが始まる前に ボスキャラ達を破滅させない為に俺ができる幾つかの事』の著者、髙橋炬燵さんです。

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第7回カクヨムWeb小説コンテスト 異世界ファンタジー部門大賞
髙橋炬燵
▼受賞作:チュートリアルが始まる前に ボスキャラ達を破滅させない為に俺ができる幾つかの事
kakuyomu.jp

──小説を書き始めた時期、きっかけについてお聞かせください。また、影響を受けた作品、参考になった本があれば教えてください。

 初めて小説らしきものを書いたのは、小学二年生の頃の作文の時間でした。『家族との思い出』というテーマで、虚実入り混じった話を原稿用紙十五枚分程書いてしまい、そこで時間切れとなり、未完成のまま提出しました。きっかけは……何だったんでしょうね、多分書いている内に楽しくなっていったんだと思います。
 影響を受けた作品というものは、それはもう数が多すぎて枚挙に暇がありませんが、あえて長編と短編一本ずつに絞るのであれば、ドストエフスキーの『罪と罰』、太宰治の『女生徒』を挙げさせて頂きます。『女生徒』の方は、青空文庫様の方で無料で閲覧する事が出来ますので、未読の方は是非ご覧になってみてください。あの瑞々しくも美しい文章こそが私の理想とするところであります。
 そして忘れてはならない、語らずにはいられないのが『ファイアーエムブレム烈火の剣』というゲームの存在です。このゲームはいわゆるシミュレーションロールプレイングゲームというジャンルに属するゲームなのですが、その中に出てきたボスキャラ達がどれもこれも魅力的な奴等だったんですね。だけど、彼等はボスキャラ――――つまりゲームの進行上どうしても倒さなければならないキャラクター達だったので、私は泣く泣く推しになった彼等を倒さなければなりませんでした。それだけならばまだ良かったのですが(いや、全然良くなかったんですけど)、なんとそのゲームの終盤で、彼等がラスボスの力によって『綺麗なゾンビ状態』となって復活を果たしたんです。厳密にはその『綺麗なゾンビ』は、本物の彼等というわけではないのですが、生前彼等と縁のあった人間達をぶつけてみると意味ありげな反応を示したりして――――本当に心が抉られました。おのれ任●堂と何度も叫びました。これがきっかけで性癖が歪んだというか、どうしても主人公勢よりも敵に注目するようになってしまい、あれよあれよという内にボスキャラ達を救済する物語を書くようになったのだと思います

──今回受賞した作品の最大の特徴・オリジナリティについてお聞かせください。また、ご自身では選考委員や読者に支持されたのはどんな点だと思いますか?

 コンセプトが良かったんだと思います。本作のメインコンセプトとなる『ゲームのボスキャラ達を悲劇的な運命から救い出し、仲間にしていく』という設定は、とても話が作りやすく、そして少しでもゲームを嗜んだ方であれば「楽しそう」と思って頂けるような極上の素材なので、後はこれをどう美味しく調理するかだけでした。

▲2022年12月16日発売『チュートリアルが始まる前に ボスキャラ達を破滅させない為に俺ができる幾つかの事』のカバーイラスト(イラスト/カカオ・ランタン)。

 加えて、本作が俗に言う中世ヨーロッパファンタジーではない事が逆に目を引いたんじゃないかな、とも思います。本作「チュートリアルが始まる前に」の主となる舞台は、スマホが普及していて、繭形の筺体端末で冒険者達が模擬戦を行うようなそんな異世界です。
 これは良く誤解されがちな所ではあるのですが、カクヨムコンの異世界ファンタジー部門は、別に狭義の意味でのハイファンタジー作品や中世ヨーロッパ的な剣と魔法のファンタジーでなければならないといったルールがあるわけではなく、ただ【現実ではない異世界を物語の舞台にした、広義のファンタジー】であればいいんです。時代背景や生活様式については不問なんですよ。だからスマホが出てきても良いし、馬の代わりに自動車が走っていても、登場人物達の名前が和名であってもそれが理由で落とされる事はありません。他作品との差別化を図る為の一要因として、中世ヨーロッパ風の異世界ファンタジーから離れてみるのも、割とアリな戦略なんじゃないかな、と個人的には思います。

──作中の登場人物やストーリー展開について、一番気に入っているポイントを教えてください。

 気に入っている登場人物というのは、かなり迷いますがここは蒼乃遥というキャラクターを推させて頂きます。彼女がいるからこの作品は成り立っているといっても過言ではありませんので。

▲本作のヒロイン・蒼乃遥のキャラクターデザイン。

 気に入っているシーンは、今回書籍化させて頂いた部分ですとエピローグでしょうか。カカオ・ランタン先生が描いて下さった美麗なイラストも相まって、その破壊力はウェブ版の比ではない程に高まっております。自信をもってお勧めできる最高のワンシーンです。

──受賞作の書籍化作業で印象に残っていることを教えてください。

 やはりイラストを始めて拝見した時でしょうね。これに勝る衝撃と喜びはありません。本作のイラストを担当して下さったイラストレーターのカカオ・ランタン先生が本当に本当に本当に素晴らしいクリエイター様でございまして、何が素晴らしいのかと問われれば勿論何から何まで全て素晴らしいのですが、敢えて一点に絞るのであれば、先生のキャラクターデザインは非常にロジカルなんですよ。モチーフに対する解釈と、それをキャラクターとして出力した時の説得力が桁違いなんです。だから見れば見る程、考えれば考える程「このキャラクターはこのデザイン以外あり得ない」という風に思えて来るんです。

▲カカオ・ランタン先生による美麗な口絵イラスト。

──書籍版の見どころや、Web版との違いについて教えてください。

 表現の大幅な修正改稿は勿論の事、新ダンジョン、新武器、ウェブ版ではまだ出ていない原作の主要キャラクター達に、ボスキャラ達のエピソードといった数え切れないほどの新規要素、そして何よりも稀代の神イラストレーターであらせられるカカオ・ランタン先生の描く魅力的なキャラクター達の絵を添えて、『チュートリアルが始まる前に』はここに完全版として完成致しました。是非手にとってみて下さい。後悔は絶対にさせません。

──Web上で小説を発表するということは、広く様々な人が自分の作品の読者になる可能性を秘めています。そんななかで、自分の作品を誰かに読んでもらうためにどのような工夫や努力を行いましたか?

 書き貯めを五十万文字程行いました。大体、二年弱ですかね。毎日仕事終わりにコツコツと書き続け、ようやく第一部を書き終えた時期が去年の十一月だったんです。書き貯めの是非については識者によって意見が分かれるところだとは思いますが、カクヨムコンの一時審査のような「限られた期間中に高頻度の投稿を行う事」が有利に働くコンテストであれば、戦術の一つとして有効だとは思います。ただし、所詮は生存者バイアスというか、たまたま私の場合は書き溜めが性に合っていたというだけの話でして、それが唯一の解答だとは全く思いません。結局のところは、書き手の性格や普段使う事の出来る時間次第なのでやっぱり人によるとは思います。

──これからカクヨムWeb小説コンテストに挑戦しようと思っている方、Web上で創作活動をしたい方へ向けて、作品の執筆や活動についてアドバイスやメッセージがあれば、ぜひお願いします。

 今やカクヨムコンは名実ともに日本最大のウェブ小説コンテストとなりました。今年もアマプロ問わず大勢の方がこの半年にも及ぶ長い戦いに身を投じる事かと思います。特に開始から約二ヵ月間に渡り行われる読者選考というやつが曲者で、私も去年の今頃は阿鼻叫喚でした。だってポイント上位者一割強しか最終選考に残れないんですよ!? そりゃあ、どこもかしこもポイントの話で大盛り上がりになりますってば。
 かといってポイント特化型のいわゆるクリックベイト作品(煽情的なタイトルで釣るアレなやつです)や、ただ流行の要素を継ぎ合わせただけの作品(一昔前の流行だった追放ざまぁや、現在カクヨム内で流行している悪役ゲーム転生ジャンルもの)の大半は、今度は最終選考で落とされます。淘汰の結果とでも言いましょうか、一次審査をクリアする為に流行ジャンルを追うという戦略を多くの書き手が取る為、必然的に似たような読み味の作品が増え、結果“新規性”や“独自性”という部分が弱まり、一部の“流行要素を抑えつつもメインコンセプトやその他の要素が突出している作品”以外は落とされてしまうというわけですね。
 あくまで個人的な解釈かつ生存者バイアスが過分に含まれた意見ではありますが、結論と致しましては“ウェブ小説として読まれる工夫”と“その作品ならではのオリジナリティ”を両立させる事が大事なんじゃないかな、と私は思います。“自分の世界”を重視し過ぎて、読者様を置いてけぼりにしてしまっては一次選考を突破できませんし、かといって“ポイントを獲得する事だけ”に特化した戦略を取ると今度は最終選考で埋もれます。
 ありのままの私でも、着飾り過ぎた私でもダメなんです。そして“カクヨムコン攻略法”なんてものはこの世のどこにも存在しません。仮にそんなものがあるとするならば、とっくの昔に私が “初投稿でも受かる、大賞受賞者が語るカクヨムコン絶対攻略法! これさえ読めばあなたもウェブ小説コンテストで書籍化!”等というタイトルの作品を投稿しています。しかし現実はそう単純ではないので、もう本当に各々のやり方で自分の考える“面白い”を形にしていくしかないのです。地道にいきましょう。そしてこの一年に一度のウェブ小説の祭典をどうか目一杯楽しんでください。

──ありがとうございました。


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