第5回カクヨムWeb小説コンテスト大賞受賞者インタビュー|烏丸 紫明【恋愛部門】

賞金総額600万円以上、受賞者はKADOKAWAからの作家デビューが予定されている第6回カクヨムWeb小説コンテストが、今年も12月1日(火)から始まりました。

そこで、かつて皆様と同じようにコンテストへ応募し、そして見事書籍化への道を歩んだ前回カクヨムコン大賞受賞者にインタビューを行いました。創作のルーツや作品を作る上での創意工夫などを語っていただいた受賞者の言葉をヒントに、小説執筆や作品発表への理解を深めていただけますと幸いです。



第5回カクヨムWeb小説コンテスト 恋愛部門大賞
烏丸 紫明
▼受賞作:悪役令嬢は『萌え』を浴びるほど摂取したい!
kakuyomu.jp

──小説を書き始めた時期、きっかけについてお聞かせください。また、影響を受けた作品、参考になった本があれば教えてください。

文章を書き散らしはじめたのは小学生の時で、それが起承転結を伴う小説という形になったのは、中学生の時です。幼いころから本が友達で、自然と自分も書きたいと思うようになりました。

影響を受けた作品はたくさんありますが、氷室冴子先生の存在は大きかったと思います。
『なんて素敵にジャパネスク』『ざ・ちぇんじ!』のあのドキドキ・わくわく感。平安時代の歴史や文化を正確に――だけど堅苦しくなく、わかりやすく。キャラクターもより共感しやすく、親しみやすく、平安時代を現代風に描写する。あれは今読んでもすごい技術だと思います。普通は平安時代の姫が「~じゃない!」みたいな言葉遣いをするだけで、違和感があるものなんですが、それがまったくない。本当にすごいと思います。惜しくも未完となってしまった、壮大なスケールの歴史ファンタジーである『銀の海金の大地』は、未だに続きが読みたくて読みたくて……枕を濡らすこともあります。

──今回受賞した作品の最大の特徴・オリジナリティについてお聞かせください。また、ご自身では選考委員や読者に支持されたのはどんな点だと思いますか?

乙女ゲームの悪役令嬢の転生ものという分類で言えば、今はとても多いと思います。そこで埋もれないためには、一つでいいので、ほかの作品とは違うと感じてもらえる要素を入れることでしょうか。

「悪役令嬢は『萌え』を浴びるほど摂取したい!」は、基本的には悪役令嬢ものの王道展開をしっかりと踏んでいると思います。ただし、
●『推し』と結ばれる『夢展開』が大地雷
●攻略対象の数だけ悪役令嬢ポジションのキャラが存在し、ヒロインが自身の婚約者を攻略相手に選ばなかったときは、自分は悪役令嬢ではない
この二点が、ほかの作品にはないところかな? と思います。

▲2020年12月15日発売「悪役令嬢は『萌え』を浴びるほど摂取したい!」カバーイラストを公開! 主人公・レティーツィアはあり得ない展開に超困惑!!(イラスト/林 マキ)

ゲームシナリオ的に、攻略対象によってライバル役が変わる。ヒロインが自分の婚約者以外を選べば、おそらく普通に自分は婚約者と結婚して国母となる。それで破滅ENDは回避できるけれど、そもそも婚約者が自分の最推しなため、破滅云々一切関係なく婚約者と結婚をしたくない! 推しと自分が結ばれるのは大地雷! だから、ヒロインが婚約者を攻略対象に選ぶ(自分が悪役令嬢になる)ルートを選び、ヒロインと婚約者に幸せになってもらったうえで、破滅を回避したいという、めちゃくちゃ難しいことをやろうとします。そこが少し変わっていて面白いと感じてもらえたところかなと思います。

──今回受賞した作品を今までに執筆した作品と比べてみたとき、意識して変えた点や、後から気づけば変わったなと思う部分はありますか?

実は、「悪役令嬢は『萌え』を浴びるほど摂取したい!」で、はじめて悪役令嬢ものを書いたのですが、前の質問とある種逆と言うか対と言うか、『王道』や『様式美』といったものをとても意識しました
乙女ゲームの悪役令嬢の転生ものならではの『王道』『様式美』――いかにも悪役令嬢らしい、あるいはヒーローらしい、ゲームのヒロインらしいキャラクター設定であったり、破滅回避のための画策シーンだったり、世界が自分を中心に回っていると思い込んでいるヒロインの言動だったり、そんなヒロインをギャフンと言わせる大逆転展開だったり、そういったものをキチンと組み込むようにしました。

そのため、オリジナリティ満載というよりは、『王道』にオリジナリティを忍ばせたという感じの作品になっています
乙女ゲーム転生ものや悪役令嬢ものを好む読者のみなさまは、まさにその『王道』や『様式美』が読みたいのではないかと思いまして。というのも、私自身がそうなので。
読者の『読みたい』に、作家の『書きたい』をどうマッチングしてゆくか。
普段はあまり気にしないのですが、「悪役令嬢は『萌え』を浴びるほど摂取したい!」に関しましては、そういった意味で『読者目線』や『ニーズ』をかなり強く意識して書きました

──作中の登場人物やストーリー展開について、一番気に入っているポイントを教えてください。また、今回の作品には無かったけれど、こんな要素がある作品を読んでみたい、というものはありますか?

作中で一番お気に入りのキャラは、エリザベートです。ヲタク文化のない世界で、独りでがっつりヲタクやっていた子です。
自分自身、小説・漫画・アニメ・ドラマ・映画とエンターテイメントが大好きで、同人活動も一次でも二次でも長いことやっていた身なので、自分の世界をちゃんと持っていて、楽しみ方を知っている子はとても好きです。

▲マニアックな趣味を持つ者同志の存在に感極まる二人

それもあって、レティーツィアとエリザベートが萌え語りしているシーンは好きですし、書籍化作業で追加したシーンにも、ヲタクの心得みたいなことが出てくるのですが、とても好きです。

素晴らしい作品を生み出してくれるクリエイターさんには、心からの感謝と尊敬を。
そして、そこに惜しみなく投資できる自分でありたいです。推しのATMになりたい(笑)

──Web上で小説を発表するということは、広く様々な人が自分の作品の読者になる可能性を秘めています。そんななかで、自分の作品を誰かに読んでもらうためにどのような工夫や努力を行いましたか?

個人的に、『好き』に勝るものはないと思っています。
『好き』を題材にし、作者の『好き』であふれている作品は、それだけで魅力的に映るのではないかなと
私は「私はこれが好きなんじゃー!!」と『好きなもの』や『性癖』を読者のみなさまにアピールするつもりで書いています。
「悪役令嬢は『萌え』を浴びるほど摂取したい!」では、楽しみ方を知っているエリザベートには好きしかありませんし、セルヴァのあの小物感たまらなくないですか?(笑) あのキャラ実は性癖です。一人だけレベルの違う悪党のイザークも、平然とそれの主をやっているリヒトさまも大好きです。

軍服やマント、フロックコート、組紐に、紅茶に薔薇……キャラクターやシーンを彩るものも、『好き』のオンパレードです。
そのほうが書いていて楽しいですし、作者が最大限楽しんで書いたものはきっと、読者のみなさまへの伝わり方も変わってくるのではと思っています。
同じものが好きなみなさまには、「わかるよ!」と、それらに興味がなかったみなさまには「ほう? いいね!」と思ってもらえたら、これほど嬉しいことはありません。

──これからカクヨムWeb小説コンテストに挑戦しようと思っている方、Web上で創作活動をしたい方へ向けて、作品の執筆や活動についてアドバイスやメッセージがあれば、ぜひお願いします。

アドバイスができるような大した人間ではないのですが、『好き』を描くことは本当に素晴らしいことだと思っています。だからこそ、『好き』という溢れんばかりの気持ちを作品に込めてください。

そして、「悪役令嬢は『萌え』を浴びるほど摂取したい!」を応援してくださったみなさまへ。更新が長期に渡って滞りがちで、申し訳ありません。「悪役令嬢は『萌え』を浴びるほど摂取したい!」の続編も含めて、連載途中のものは完結すべく、ものすごくゆっくりのったりペースではありますが、私自身最大限楽しみつつ更新してゆきますので、どうぞおつきあいくださいませ。

──ありがとうございました。


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