第5回カクヨムWeb小説コンテスト大賞受賞者インタビュー|秋原タク【ラブコメ部門】

賞金総額600万円以上、受賞者はKADOKAWAからの作家デビューが予定されている第6回カクヨムWeb小説コンテストが、今年も12月1日(火)から始まりました。

そこで、かつて皆様と同じようにコンテストへ応募し、そして見事書籍化への道を歩んだ前回カクヨムコン大賞受賞者にインタビューを行いました。創作のルーツや作品を作る上での創意工夫などを語っていただいた受賞者の言葉をヒントに、小説執筆や作品発表への理解を深めていただけますと幸いです。



第5回カクヨムWeb小説コンテスト ラブコメ部門大賞
秋原タク
▼受賞作:元スパイ、家政夫に転職する(受賞時タイトル:元スパイの俺、モテすぎ三姉妹が次々デレてくるせいで家政夫業が捗らない)
kakuyomu.jp

──小説を書き始めた時期、きっかけについてお聞かせください。また、影響を受けた作品、参考になった本があれば教えてください。

高校卒業後、なんか面白いことないかなー、とぼんやり考えてたときに、部屋に転がってた奈須きのこ先生の小説を目にして、「あ、小説書こう」となったのがきっかけだったと思います。これまで小説なんて一度も、一文字も書いたことがないくせに、です。
そこからすぐ文房具屋に走って、作文用の20字×20行の原稿用紙を500枚大人買い。プロットなしのアドリブ小説を手書きで400枚、10日で書き上げて公募に投稿しました。しばらく人差し指が変な形になって戻りませんでした。いい思い出です。いい思い出か?

影響を受けた本はたくさんあります。前述した奈須きのこ先生の『DDD』もそうですし、西尾維新先生『世界シリーズ』なんかにも価値観をぶっ壊されました。
小説の新人賞に応募すると、評価シートなどで大抵「あなたの文章には独特のクセがある」と指摘されるのは、このお二方の影響だと勝手に思ってます。ちがったらごめんなさい。でも、たぶんそう。

小説作りの上で参考になったのは、曽根圭介先生『鼻』という本です。はじめて拝読したとき、文章表現の最適解を見つけたような気持ちになりました。簡素で淡泊で、だけど過不足ないあの文章は、いまでも私の目指すべき理想形です。

──今回受賞した作品の最大の特徴・オリジナリティについてお聞かせください。また、ご自身では選考委員や読者に支持されたのはどんな点だと思いますか?

主人公を面白くしようとした、コメディの比重を増やした、この二点が最大の特徴じゃないかなと。元スパイと家政夫という異なる設定の組み合わせのオリジナリティ『だけ』では、おそらく受賞には至らなかったんじゃないかと思います。
とにかく主人公の個性が光って、コメディ部分も引き立つお話にしようと心掛けていました。ヒロイン視点を挟まず、主人公の視点だけで話を進めたのは、そうした理由からです。
選考委員の皆様や読者の皆様が支持してくださったのも、そういった『ほかとはちょっとちがうラブコメ』だったからなのかな? なんて思っています。

▲2020年12月1日発売「元スパイ、家政夫に転職する」カバーイラストを公開! 主人公・クロウは、炊事洗濯にご近所トラブル、「お悩み相談」までも解決していく(イラスト/ハリオ)

──今回受賞した作品を今までに執筆した作品と比べてみたとき、意識して変えた点や、後から気づけば変わったなと思う部分はありますか?

いままでのは「自分が楽しければそれでいい」をモットーに執筆していましたが、今回受賞させていただいた元スパイでは、絶対に受賞してやるぐらいの意気込みでがっつり「パッケージ」を意識して書いていました。ガメついですね。
また、既存の作品と比べたとき自作の個性は埋もれてしまっていないか、ほかの作品と差別化できているかなど、ライトノベル市場を見て念入りに分析した思い出があります。作品作りだけでなく、そうした戦略もしっかり練らないと、いつまで経ってもアマチュアのままだと思ったんですよね。
カクヨム内でしたことは、「元スパイ」と「家政夫」の単語が含まれている作品はないかどうかのチェックです。これは投稿する前日まで、毎日チェックしていました。

変わったなと思う点は、作品におけるシリアスとコメディの割合がいい感じになったこと、でしょうか。これまではどちらかが多すぎたり少なすぎたりしたんですが、元スパイはちょうどいい塩梅だったように感じています。

▲三姉妹の長女「夏海」の悩み事を解決するため、クロウは『偽彼氏周知作戦』を決行することに……

──作中の登場人物やストーリー展開について、一番気に入っているポイントを教えてください。また、今回の作品には無かったけれど、こんな要素がある作品を読んでみたい、というものはありますか?

どんでん返しや叙述トリックなど、昔から読者をアッと驚かせる展開が好きなので、桜というヒロインがとある事件に巻き込まれる場面は気に入っています。
そうした心揺さぶる「仕掛け」が好きなので、ものすごいどんでん返しが待っている作品を読んでみたいです。
期せずして、第六回カクヨムコンテストでは「どんでん返し部門」というものがあるそうなので、いまから楽しみにしています。

──Web上で小説を発表するということは、広く様々な人が自分の作品の読者になる可能性を秘めています。そんななかで、自分の作品を誰かに読んでもらうためにどのような工夫や努力を行いましたか?

上記の質問でもすこし答えましたが、自分の作品の個性はほかに比べて埋もれていないか、差別化はできているか、といった分析を念入りにした上で、タイトルをキャッチーなものにすることが大事だと思います。
元スパイのタイトルは、誇張でもなんでもなく、本気で三日三晩悩みました。一目見てクリックしたくなるような言葉を選んだりして、ちょくちょくタイトルを微修正したりもしてましたね。成功してたかどうかは別として。

どなたかが仰ってました。読んで「面白い」作品じゃなく、読む前から「面白そう」と思わせる作品を書けと。タイトルから、あらすじから、読者を惹きつけろという意味ですね。至言だなあ、と思いました。

もちろん、物語の流れも読者の期待に応えるものにする、というのは大前提かと思います。かと言って、ありきたりな展開にしてしまうと差別化できなくて書籍化が遠のいてしまうので、そのあたりは悩みどころですね。

──これからカクヨムWeb小説コンテストに挑戦しようと思っている方、Web上で創作活動をしたい方へ向けて、作品の執筆や活動についてアドバイスやメッセージがあれば、ぜひお願いします。

とにかく書いて公開する、自分が面白いと思うものを書く、というのは当然として……書いた作品を完結させる、ということは、かなり大事だと思います。
パっと思いついたお話でも、勢いで書き始めた作品でもなんでもいいので、とにかく完結させる。そうじゃないと小説を書く力は身につきません。私はむしろ、物語の終わらせ方にこそ、その作家の力量が表れると思っています
終わらせられないと、またパっと思いついたアイディアに流されて、古い作品は放置して新作を書き始める、その繰り返しになるだけです。
グダグダでも納得いかない終幕でも、とにかく完結させる。この重要性は、頭の片隅に入れておいて損はないと思います。

なんて。
なんか偉そうなこと言っちゃいましたが、WEB小説は読者の反応をダイレクトにもらえる楽しい場でもあるので、変に気負わずエンジョイできたらもうそれだけでいいと思います
WEB小説だったら、人差し指も変な形になりませんしね。

──ありがとうございました。


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