【カクヨム小説創作オンライン講座2019】カクヨムコン歴代応募作品講評会 第6回

11月末より開催する第5回カクヨムWeb小説コンテスト応募者に向けて、創作にまつわる様々なヒントやアドバイスを提供し、スキルアップに役立ててもらう「カクヨム小説創作オンライン講座2019」
その第1弾「カクヨムコン歴代応募作品講評会」、第6回をお届けします。

※「カクヨムコン歴代応募作品講評会」とは? という方は第1回の記事をご覧ください

第6回 掲載作品

【現代ファンタジー】カネサダを北極星へ向けろ 作者 梧桐 彰
【ホラー】彼女を待ちながら 作者 斉賀 朗数
【恋愛】ヴァンパイアらばぁあ! 作者 巴 遊夜
【キャラクター文芸】メグル・ゲームミュージック 作者 痩身


【エントリーNo22 現代ファンタジー
ゾンビVS日本刀 少女のため真剣は死者を斬るか
カネサダを北極星へ向けろ 作者 梧桐 彰
あらすじ:
僕は上町邦彦。剣道部の中学生だけど試合は負けっぱなし。明日で退部する予定だった。
次の日。世界はゾンビに覆われた。
父さんも母さんも死んだ。部員も同級生も死んだ。生き残ったのははるか遠くにいる、片思いの幼なじみ。
僕を助けてくれたのは、それまで大嫌いだった剣道だった。

◆点数評価:
・作品のオリジナリティ:3
・キャラクター:4
・ストーリー:2
・世界観:3
・文章力:3

◆良かった点:
街中でゾンビが大量に発生するパニックものは星の数ほどありますが、本作はそこに武道の精神や技術を組み合わせることで、既存の作品との差別化を図ることに成功しています。日本刀、木刀、和弓、スコップ……。銃のない日本を舞台にしながら、様々な武器でゾンビと対峙する描写が印象的でした。
キャラクターもそれぞれ魅力的なのですが、孫思いで腕も立ち、命の危機に瀕しても最後まで邦彦に教えを授けるお爺ちゃんが非常にかっこよかったです。若者だけではなく、他の年代の人物を魅力的に描けるというのは大事な武器なので今後も大切に磨いていってください。

◆改善すると良くなりそうな点:
武術を強調する、学生の主人公でも対応できるようにする。この二つの要素を成立させるためにゾンビがやや弱く感じられ、「この程度のゾンビだったら撃退できる大人がもっといるはずでは?」と邦彦たちの置かれている状況に違和感が出てしまいました。ここのパワーバランスはもう少し整合性をつける工夫が欲しかったです。
また邦彦がユミを助けに行くというストーリーは良いのですが、後半になると上手くユミと合流しても帰還は無理そうだなという絶望感が強く、サラ姉の助けだけではまだ弱いので、もうちょっと登場人物にこの先も生き残れるような希望を与えてほしかったです。


【エントリーNo.23 ホラー
彼女を知らない方がいい。物語を彷徨う事になる。
彼女を待ちながら 作者 斉賀 朗数
あらすじ:
印象的な靴を履いて、今時のおしゃれな服装に身を包んだ一人の女性。彼女は問う。
「今の生活に満足している?」
人生と言う問いに、答えを求めるのは間違っているのだろうか。

《喜び》というものの種類は多種多様ありますが、《恐怖》というものの種類は比較的少なく感じます。
種類というより振り幅と言い換えた方が分かりやすいかもしれません。
その振り幅の上限ではないところ、心を気付かない程少しずつ切り取り続けていく恐怖を与え続ける事が出来ればと思います。

◆点数評価:
・作品のオリジナリティ:
・キャラクター:
・ストーリー:
・世界観:
・文章力:

◆良かった点
主人公を掘り下げた「深さ」に驚かされました。ここまでしっかりとひとりの人間像を描き出せる筆力は説得力となり、どうして主人公がその行動を取ったのかに疑問を挟ませませんでした。お見事です。
そしてそれを生かせるだけの明確さ(舞台設定や描写)が世界観にもあり、物語の空気感をよく醸し出せていたのもいいですね。「におい」という、文章と相性の悪い要素を十全に引き立てられているのは評価ポイントです。

◆改善するとよくなりそうな点
キャラクターがいて、雰囲気もある。しかしそれを魅せるドラマが弱いという印象です。
ホラーでは、どんなエピソードにおいてもその裏に「這い寄る恐怖の気配」が感じられなければなりません。
言い換えれば期待値ということになるのですが、ドラマの起伏が小さいことでその恐怖への期待値が上げられず、せっかくのお膳立てが効力を発揮できなくなってしまっているのです。結果、物語の印象が冗長になってしまっているのは本当に惜しい。
話を引っぱる。読者を焦らす。どちらも有用な一手ですが、特に応募作では「出し惜しまない」ことを心がけてください。ネタを尽くして話を引っぱり、キャラやサイドエピソードの魅力をもって読者を焦らし、ピンポイントで大きなドラマを叩きつける。この構成を心がけでいただければ。


【エントリーNo.24 恋愛
ボクっ娘少女と男性吸血鬼のお人好しから始まる恋
ヴァンパイアらばぁあ! 作者 巴 遊夜
あらすじ:
※登場する魔物・魔族にオリジナル設定が多く含まれます。
人間界と魔界が融合し、一つとなってから百年以上が経った近未来。
お人好しで中性的な顔立ちの少女、時詠茜はある日、怪我をしたアデルという人物を見つける。放っておくことができなかった茜は病院に連れて行こうとするが、アデルは拒絶した。少し休めば問題ないと彼は言う。そんなわけがないだろうと反論した茜にアデルは自身が吸血鬼であることを明かした。
それでも病院に連れて行こうとする茜にアデルは言った「血を分けてくれれば傷はすぐに癒える」と。これも茜は動じず、自身の血を飲めばいいと答えた。あまりにお人好し、いや危機感のない茜の行動にアデルは困惑する。これが二人の出会いだった。
これは魔族と人間が共存しあう世界で始まる人間と吸血鬼の恋物語。

近未来と現代を混ぜたようなファンタジーの恋愛物となります。

◆点数評価:
・オリジナリティ:
・キャラクター:
・ストーリー:
・世界観:
・文章力:

◆良かった点
お互いに恋愛経験のない、異性への関心が薄い二人が次第にお互いを意識していく過程が初々しくて清々しかった。普段は生真面目でクールなアデルですが、茜が絡むと嫉妬深かったり冷静さを失ったりする姿は人間味が垣間見えてよかった。種族の垣根を越えた愛という一見ありふれたテーマですが、上手くいくばかりでなく苦労もあり、ときには悲恋もあり、夢物語でない地に足がついた恋愛模様の悲喜交交が胸を打ちました。

◆改善すると良くなりそうな点
アデルと茜の関係が順調に行き過ぎて物足りなく感じます。もっと恋の障害やライバルを登場させて盛り上げましょう。茜側によったほのぼのとした日常パートはよいのですが、アデル側によったシリアスな事件パートをさらに厚めに描くとメリハリが出ると思います。例えば犯罪組織に茜が人質に取られてしまったり、善意から冤罪事件の容疑者を匿ったり、共に事件や危機を乗り越えていくことでお互いの信頼や愛情を盛り上がっていく「吊り橋効果」を演出してみてください。


【エントリーNo.25 キャラクター文芸
本当に好きなもの、ありますか。
メグル・ゲームミュージック 作者 痩身
あらすじ:
 大学に入学した真面目一辺倒な青年、白井健(しらいけん)は、ゲーム音楽を愛し、ゲーム音楽に全てを捧げる少しおかしくも可愛い先輩に出会う。
 なぜそこまで好きなのか。何がそこまで駆り立てるのか。
 ぶっちゃけドン引きするくらいゲーム音楽を語られた末、半強制的に先輩の所属する軽音楽部に入部させられる。
 始まってしまった部活動の日々、初めてのバンド体験。
 様々な出会いや経験を通して、ゲーム音楽を巡る二人の成長を描く、そんな話。

◆点数評価:
・作品のオリジナリティ:
・キャラクター:
・ストーリー:
・世界観:
・文章力:

◆良かった点
一人称を使いこなした主人公の心情描写の深さは文句なしの完成度。結構マニアなんだなという下敷きをきちんと見せた上で本題へ滑り込んでいく自然さで、物語にするりと惹き込まれました。
ゲーム音楽だけでなく、ゲームの魅力について熱く語られているのも、それを知らない人にきちんと伝えようという意識の高さがあり、好印象。こうした独りよがりに落ちない気配りは本当にすばらしいものです。

◆改善するとよくなりそうな点
音楽ものなのに演奏の描写がほぼなく、表現もまた拙いことは大きなマイナスでした。これは蘊蓄部分の比重が大きく、会話劇が中心になっている構成的問題もあるのですが、やはり音楽がテーマですから、演奏が作品の軸にないと映えません。
章にひとつは演奏(練習)シーンを置き、それを積み重ねて大きなカタルシスをもたらすクライマックス演奏シーンを据える。この「映え」を押さえて構成できると、会話劇もさらに魅力を増すはず。

汗をかけ、というと乱暴になりますが、作者の苦労は作品にかならず輝きをもたらします。テーマとしっかり向き合い、これがあるからこそ、このテーマはおもしろいんだと言い切れる作品に仕上げてください。


第7回は11月17日更新予定です。