11月末より開催する第5回カクヨムWeb小説コンテスト応募者に向けて、創作にまつわる様々なヒントやアドバイスを提供し、スキルアップに役立ててもらう「カクヨム小説創作オンライン講座2019」。
その第1弾「カクヨムコン歴代応募作品講評会」、第5回をお届けします。
※「カクヨムコン歴代応募作品講評会」とは? という方は第1回の記事をご覧ください
第5回 掲載作品
・【異世界ファンタジー】パーティー追放された者同士で組んだら、全員魔剣士だったけど割と万能で強かった件 作者 @-Hunya-
・【キャラクター文芸】ぼくたちはバイトがあるので異世界にはいけない。 作者 犬怪寅日子
・【現代ファンタジー】おしゃま少女ヒゲグリモー 作者 オジョ
・【SF】摩訶★大戦隊 ダイ×ショウ×ギ×レン×ジャー 作者 gaction9969
【エントリーNo.18 異世界ファンタジー】
魔剣士フルパが強すぎる件
パーティー追放された者同士で組んだら、全員魔剣士だったけど割と万能で強かった件 作者 @-Hunya-
あらすじ:
勇者見習い職とされる“冒険者”をしていたハルトは、ある日突然パーティーを追放されてしまう。
そして同じくパーティーを追放されたマナツ、モミジ、ユキオの3人とパーティーを組む。
しかし、4人の職業は全員“魔剣士”であった。
前衛も後衛も中途半端で決して良い待遇を受けない魔剣士だけのパーティー。
皆からは笑われ、バカにされるが、いざ魔物と闘ってみるとパーティーボーナスによって前衛も後衛も規格外の強さになってしまい――
偏った魔剣士パで成り上がりを目指す冒険ファンタジー!
◆点数評価:
・オリジナリティ:3
・キャラクター:4
・ストーリー:4
・世界観:3
・文章力:4
◆良かった点
メインの四人がみな好感を抱けるキャラクターになっていて、関係性のバランスもよかった。普段の日常やシェアハウスでの暮らしぶりも仲間の絆や人間味を感じさせて心温まりました。戦闘力が強化されるメリットと、仲間から離れられないというデメリットがあり単純なチートになっていない設定がよかった。ただ力押しするのでなく、連携や作戦の駆け引きのある魔剣士パーティだけの戦闘シーンも練られていたと思います。本人の意志ではなく冒険者を強制させられている彼らが、何のために戦うのかという理由を自問自答するところが、現代の若い読者の共感を引き出せると思いました。
◆改善すると良くなりそうな点
追放ものとしては、元いたパーティや周囲を見返すというところに読者のフラストレーションを払うカタルシスがあると思うのですが、そこが解消しないまま話が進んでしまって少しモヤモヤしました。主人公たちがほぼ街から離れないため世界観が狭い。異世界ファンタジーらしく夢やロマンを感じさせる冒険をさせましょう。パーティバフだけでない成長要素も加えるといいでしょう。魔法剣であったり、合体魔法であったり、新たなスキルや必殺技を習得するイベントを設けても盛り上がります。
【エントリーNo.19 キャラクター文芸】
ともかく定時であがりたいバイトリーダーと有象無象のバイトたち!
ぼくたちはバイトがあるので異世界にはいけない。 作者 犬怪寅日子
あらすじ:
関雅人はともかくおうちに帰りたい、ネットカフェで働くごく一般的なフリーター。
十二連勤を終え、休みを目前にした定時の17時に帰ろうとするが、暇を持て余すバイト先に、なぜか8人もの人間が出勤してきて――?
みたいなバイト生たちのドタバタ群像劇と、唐突な異世界想像のお話です。
◆点数評価:
・作品のオリジナリティ:3
・キャラクター:4
・ストーリー:2
・世界観:3
・文章力:3
◆良かった点:
変人揃いのネットカフェで、無茶な注文を次々振られて関が右往左往する様子が非常に楽しかったです。一難去ってまた一難どころか、去らない内に次々二難三難飛んでくる地獄絵図。そこを頼れる仲間とともに乗り越えていけば王道ですが、その仲間も新人の渡辺君を除けば揃いも揃ってろくでなしという絶望的な展開。
またかなり多くの登場人物が登場するのですが、誰もがインパクトがあってどのキャラクターもしっかり書き分けられている点もお見事です。人格破綻者たちの会話はキレがあってテンポも非常に良く、面白い喜劇の台本を読んでいるような気持ちになりました。
◆改善すると良くなりそうな点:
関の視点から進む1幕の裏では実は別の問題が発生していたというのが、本作の2幕の読みどころだと思うのですが、その種明かしが弱いように感じました。
関が持ってきた小説を台無しにしたために、代わりの小説を用意しようとする渡辺たちですが、そもそも別の小説を用意したところでフォローにはなりません。さらに後半からは川野さんの心情がメインとなり、小説の存在がますますどうでもよくなっているのは残念です。裏で進行している事件を解決する必要性をもうちょっと持たせて、一本芯の通ったものにすればより良くなるかと。
また幕間のモニター室で登場人物たちの心境をまとめて書いていますが、この内容を2幕の中に散りばめてみるのはいかがでしょうか。渡辺が事件を解決しようとする内に同僚の特殊な事情を理解していく、という展開にすると、執筆の難易度は上がりますがより上手い見せ方になるでしょう。
【エントリーNo.20 現代ファンタジー】
強く 毛深く 美しく
おしゃま少女ヒゲグリモー 作者 オジョ
あらすじ:
中学1年生の紺野ツバメは、唐突に現れたネコ妖精に素質を見出され、魔法少女となる。
その名もヒゲグリモー。
不思議な付けヒゲの力で悪を討つ戦士である。
やる気のないツバメだったが、お構いなしに敵は現れ、戦いを余儀なくされる。
ついには、迫りくる悪の妖精軍から「聖なるヒゲ」を守るため、仲間と共に立ち向かうことになるのであった。
指揮者、ガンマン、大剣豪。
武将に海賊、独裁者。
ファラオやスルタン、果ては魔術師まで。
様々な属性を持つヒゲがからみ合ってはほつれての大戦争が始まる。
これは世界の命運を託された、付けヒゲ少女達の物語である。
◆点数評価:
・作品のオリジナリティ:3
・キャラクター:3
・ストーリー:3
・世界観:3
・文章力:2
◆良かった点
ヒゲと魔法少女、思いがけない組み合わせが実にいい味を出しています。ネタを他の書き手とちがう方向から見定め、練り上げることは非常に難しいことです。それができるのは確かな長所ですので、これからも大事にしていただきたいですね。
キャラクターの登場数によらず、作品が魅せてくれる賑やかな雰囲気も好印象。読む側の心を自然に盛り上げてくれるいい“筆”でした。
◆改善するとよくなりそうな点
一文ごとの改行も相まって、文章に強いぶつ切れ感があります。1シーンで一段落を構成すること。さらには体言止めを始めとした語尾のバリエーションを増やすこと、この二点を心がけてみてください。
加えて文章作法。段落の先頭はひと文字下げることや、“!”や“?”の後ろをひと文字空けること等は、基礎的な作法となります(読みやすさにも多大に影響しますし)。これは心がけるのではなく、かならず実行してください。
さらにキャラクターの内面描写の薄さ、少なさは気になるところです。
状況だけでなく、キャラクターの感情や心情を、過ぎるほどに詰め込んでください。作者が10伝えたつもりでも、読む側はそれを多くて3、下手をすれば1しか受け取れないものですから。特盛りくらいでちょうどいいくらいの気持ちで盛りましょう。
【エントリーNo.21 SF】
キミたち、千駄ヶ谷将棋会館2F道場横カップ式自販機前で、僕と悪手!!
摩訶★大戦隊 ダイ×ショウ×ギ×レン×ジャー 作者 gaction9969
あらすじ:
時は西暦2040年。
20年前に突如として棋界に舞い降りた、全方位型・天才的ヒーロー、先女郷 巡の降臨によって、日本は空前の将棋ブームへといざなわれていた。
世は正に、大将棋時代―
国民の半数以上が段位を有する未曾有の世界で、いまや「棋力」は、全ての価値観を推し量る指標へと置き換わりつつあるのであった……
進学も就職も恋愛も結婚も、政治も経済も文学も芸能も、はたまた賭博もアプリも夜のおかずも。
あらゆるものが将棋を核に廻り巡る、そんな歪曲した世界。
そのいびつさに引き寄せられるかのように、突如、別次元の狭間から、「二次元人」を標榜する正体不明、謎の軍団が姿を現す。
戸惑う人々を「対局」へと引きずり込み、己が存在意義を突きつけるかのように、「二次元人」は宣戦布告の狼煙を上げるのであった。
そして、生命を賭けた「人間将棋」が始まる。
無類の棋力を有する人々も、それを凌駕する「二次元人」の差し回しに、ひとり、またひとりと、あえなく敗れ、取り込まれ、ある者は命を奪われ、またある者はその軍門へと下っていってしまうのであった。
そんな、狂気と絶望が顕現し始めた世界に、立ち上がる者たち。そして、
十八歳にして未だ初級者の域を抜け切れず、「永世七級」と周囲から馬鹿にされ続けている高校生、鵜飼 守男は、ひょんな事から、世界を守る戦いへと身を投じていくことになってしまうのであった……
◆点数評価:
・作品のオリジナリティ:4
・キャラクター:3
・ストーリー:2
・世界観:2
・文章力:3
◆良かった点
ぶっとんだネタというだけではなくドラマ性もあり、「そうきたか!」と思わせられるだけのものを魅せてくれていました。荒唐無稽な発想を小説という形でまとめられる力は希有な能力です。この武器はぜひとも大切にしていただきたく思います。
主人公の能力にひとひねりがあったのもよかったです。こうしたマイナスをプラスに転じられる設定は主人公を引き立て、物語に推進力や爆発力を生みます。こちらも意識して心がけていただけましたら。
◆改善するとよくなりそうな点
最初に感じたのは構成の弱さ。特に主人公の筋トレ設定と世界観のギャップが冒頭の対局でうまく生かされておらず、そこからの展開がご都合に見えてしまっているのは気になりました。
冒頭部は読者を引き込むための撒き餌です。この作品の場合であれば、「この世界が主人公にとってそれはもう生きづらい場所である」ことを濃密にまとめて見せる構成をしたいところです。
作者の都合ではなく、ドラマのおもしろさを最重視していきましょう。
そしてこれは将棋に限りませんが、特定の競技や物品をテーマに据える場合、「それをまったく知らない人」へいかにそのおもしろさをアピールできるかは鍵となります。あたりまえにあるものだからと省くのではなく、逆に自分がテーマとして選ぶほどのものなのだ! と伝え抜くことを考えてみてください。
第6回は11月16日更新予定です。