【カクヨム小説創作オンライン講座2019】カクヨムコン歴代応募作品講評会 第3回

11月末より開催する第5回カクヨムWeb小説コンテスト応募者に向けて、創作にまつわる様々なヒントやアドバイスを提供し、スキルアップに役立ててもらう「カクヨム小説創作オンライン講座2019」
その第1弾「カクヨムコン歴代応募作品講評会」、第3回をお届けします。

※「カクヨムコン歴代応募作品講評会」とは? という方は第1回の記事をご覧ください

第3回 掲載作品

【異世界ファンタジー】北の谷の魔女は働きたくない 作者 水守中也
【ラブコメ】うちの剣士と聖女の恋愛スキルは絶望的です 作者 久里
【恋愛】萌梅公主偽伝 作者 都月きく音
【ミステリー】#セカイケイ 作者 菖蒲あやめ


【エントリーNo.10 異世界ファンタジー
私も魔法が使えたらこんな風に生きたいです
北の谷の魔女は働きたくない 作者 水守中也
あらすじ:
王国の北の果てにある巨大な谷。通称『北の谷』
その王都から遠く離れた辺境の地に、少女が一人住んでいた。
強力な魔法を操る彼女は、まるで北の谷の番人のようにそこにいて、いつしか「北の谷の魔女」と呼ばれ、人々から畏怖される存在になっていた。

――という設定ですが、描いているうちに、のんびりコメディになってしまった気がします。

◆点数評価:
・作品のオリジナリティ:3
・キャラクター:4
・ストーリー:3
・世界観:3
・文章力:3

◆良かった点:
登場するキャラクターがどれも可愛らしく、軽いノリでさくさく楽しく読むことができました。個人的にギャギャバーの姫の話はクレラもギャギャバーも非常に可愛く、本作の良い部分が詰まっていると感じました。また日常の繰り返しだけで物語が終わるのではなく、ちゃんと終盤にかけて盛り上がりどころを作ったり、ミリアがいつまで経っても成長しないという点にちゃんと意味があったりと、話を丁寧にまとめていったのも好印象です。

◆改善すると良くなりそうな点:
それぞれのエピソードでクスリとできますし、決してつまらないわけではないのですが、一話一話のオチがやや弱かったり、設定に目立ったものがなかったりして、物語全体の訴求力が不足気味に感じられました。
ミリアが使う魔法の設定をもう少し独特なものにしたり、ギャグやキャラクターの印象をもうちょっと印象強めにして、この作品でしか読めない何かが欲しかったです。一つ間違えるとこの作品ののんびりした空気を壊しかねないのですが、上手くバランスを保ちながら作品にもう一味加えるものがあれば、より良い作品になると思われます。


【エントリーNo.11 ラブコメ
「お前ら、いい加減に付き合えよ」「はああ!? 誰がこんな女(男)と!」
うちの剣士と聖女の恋愛スキルは絶望的です 作者 久里
あらすじ:
 半年前、最高難易度ダンジョンを完全制覇したという最強パーティには、錚々たるメンバーがそろっている。剣聖ルドヴィーク=カレイド、聖女マノン=ルーセンハート、魔導士アリス=ネブラシカ、盗賊ギーク=ユライ。四人の名は冒険者界隈に属している者であれば、誰もが一度は耳にしたことがあるだろう。
 王都の誰からも畏敬の念をもって熱視線を送られ、傍目には謎に包まれた最強パーティの内情はというと――
「お前ら、いい加減自分の気持ちを素直に認めて、そろそろ付き合ってくれないか?」
「「はああああああ!? 誰がこんな女(男)と!!!!」」
 ――しょうもなさすぎる恋愛ド素人劇が繰り広げられていた。
 冒険者としての腕は超一流、恋愛的には雑魚すぎる剣士と聖女の織り成す、初々しすぎるハイテンションラブコメ開幕!

◆点数評価:
・オリジナリティ:
・キャラクター:
・ストーリー:
・世界観:
・文章力:

◆良かった点
スペックは高いけれど、どこか残念な登場人物たちのドタバタの脱力感がよかったです。意地っ張りなルドとツンデレなマノンの会話が初々しくもどかしくなりました。常識人のギークや天然のアリスも二人の仲を煽ったり、ツッコミをしたりしていい味を出していました。お互いを常に見つめているのに相手の気持ちがわからず、毎回すれ違って空回りする展開も可笑しかった。
文章とストーリー進行のテンポもよく、場面転換でキャラの視点を切り替えることでリアルタイム感のある心理描写ができていたと思います。

◆改善すると良くなりそうな点
パーティの仲間同士だと関係性が平凡過ぎるように思いました。お約束ですが勇者と魔王、敵国の王子と王女、人間とエルフのように簡単には馴れ合わない関係にするとギャップが生まれます。
遊園地など現代要素も混じった異世界ファンタジーという設定は面白いと感じたのですが、世界観を活かしきれていないように感じました。冒険者という設定なのですから、キャラの格好良いところ、可愛いところを冒険や戦いの中で表現して欲しいです。現代に冒険者やモンスターがいたらどうなるか?というリアリティを突き詰めてもよいでしょう。
二人は有名人なのですから、もっと全世界の人が注目するラブロマンスとしてスケールを大きくしても面白いと思います。


【エントリーNo.12 恋愛
姉さんばっかり狡い…
萌梅公主偽伝 作者 都月きく音
あらすじ:
地味だけれど心優しい姉と、野心家な美しい妹の入れ替わり人生の物語。

螢月は炭焼きと薬作りを生業にする両親と、近隣一番の美少女と名高い妹との四人家族で、静かな村で穏やかに暮らしていた。
しかし、妹の月香が行方不明になったことから、その穏やかな暮らしが失われてしまう。
途方に暮れる螢月の前に、以前怪我をしていたところを助けた男が現れる。
「迎えに来た。わたしの妻になって欲しい」
そう言う男はこの国の次期王・世太子その人で――
戸惑いながらも王宮に連れて来られた螢月が目にしたのは、公主として傅かれる月香の姿だった。

◆点数評価:
・オリジナリティ:
・キャラクター:
・ストーリー:
・世界観:
・文章力:

◆良かった点
嘘と欺瞞が交錯する複雑な人間模様のストーリーがよかったです。慎ましやかな姉と自由奔放な妹という対比でキャラが立っていました。田舎の山奥で平凡に暮らしていた姉妹がふとしたことで王家に関わり、自分たちの出生の秘密を知り、立場や人生が激変していくシンデレラストーリーに夢がありました。欲しがるばかりでは何も手に入らず、与えるばかりでは自分を失う。キャラを通して欲と徳の功罪を説いているかのような顛末が考えさせられます。最後に明かされる宮廷の貴人たちの業の深さには思わず鳥肌が立ちました。愛憎うずまく男女の関係の本質をついた作品に思いました。

◆改善すると良くなりそうな点
この作品の肝は月香が如何に偽物とバレずに立ち回るかという騙し合いにあると思いますので、朧玉に疑惑をもたれるのが早すぎるように思いました。もう少し月香には慎重さや知性が欲しかった。悪くいえば姉の螢月は主体性がなく周囲に流されているばかりで、妹の月香は自己中心的で強欲な面が目立ちます。欠点があるのがいけないわけでなく、騒動や宮廷の生活を通じて二人の欠点が改善される成長が見られるとよかった。例えば、妹を心配して螢月が危険を冒して都へ向かったり、命を狙われる姉を月香が身体を張って庇ったり、そうした姉妹の絆を描くと読後感もすっきりしたと思います。


【エントリーNo.13 ミステリー
「円、まどか。夕月夜円。あなたは私が守るのです」
#セカイケイ 作者 菖蒲あやめ
あらすじ:
このセカイには、目には視えない無数の《アナ》がある。
そこに落ち込んだときに、ひとのこころにはアナが空く。それを揶揄するかのように、ある社会学者はそれを《アナアキ》と名づけた。
アナアキとなった人びとのための療養地と位置づけられた櫻町団地。再開発が始まってから数年が経ち、一見穏やかに見えるその町で今、奇妙な集団失踪事件が起こっていた。失踪した人びとの記憶を、遺された人びとは総て喪っていたのである。
夕月夜《ゆふづくよ》円《まどか》と恋蝶《こひすてふ》奏《かなで》は、親しい友人が失踪したことを機に、セカイに刻み込まれた異常に気がついた。その謎を解き明かすべく、少女たちは終焉に魅入られてゆくマンモス団地を奔走する。
終わる、終わる、町が終わる。遍くセカイはいずれ、アナアキに呑み込まれる。セカイがそのカタチを変えるまで、もう幾許の猶予も残されていない。

◆点数評価:
・作品のオリジナリティ:
・キャラクター:
・ストーリー :
・世界観:
・文章力:

◆良かった点
構成のうまさが際立っていました。ギミックをきちんと提示して読む側の期待値を高め、さらにそれを裏切らない展開を魅せられているのは本当にお見事です。そしてともすればガチャガチャしてしまいがちな要素群を一本の道筋に縒り合せてみせる力にも感心しました。まさに確かな筆力です。
さらに作品に漂う雰囲気もいいですね。こうしたセンスはただ学べば得られるというものではありませんので、すばらしい能力であると断言いたします。

◆改善するとよくなりそうな点
最初に感じたのはキャラクターの弱さ。これは外見描写ではなく、個性の描写が弱いことによります。ライトノベルもライト文芸も、主人公や重要人物の魅力をどれだけ押し出せるかが重要となりますが、これが充分ではなく、作品の中に埋没してしまっている印象を受けました。
冒頭部にそのキャラクターを印象づけられるエピソードを盛り込み、読む側が読中、自然とその人なりを思い描けるようにしてあげるように心がけてください。

また、進行が会話に頼りがちで、物語性が薄いことも気になりました。
セリフはキャラの心情から状況説明までひとつにまとめられる便利なものですが、作者が伝えたい意図を表面的にしか再現できないものでもあります。このような“読ませる”べき作品では、伝えきれないことがそのまま評価に直結してしまうこととなります。
地の文章を活用し、キャラの心情の動きを書き込んでいただければ。それによってギミックはさらに効果を増し、物語性も大きく高まりますので。


第4回は11月14日更新予定です。