【オファーの瞬間vol.7】『おっさん、転生して天才役者になる』|マンガ化の決め手は〇〇〇

カクヨム作家の皆様に贈る、編集者・プロデューサーへのインタビュー企画「オファーの瞬間」。第7回に登場いただくのは『おっさん、転生して天才役者になる』(11月26日第1巻発売)を担当している、電撃マオウ編集部のYさん。本作は第6回カクヨムWeb小説コンテストより設けられたComicWalker漫画賞での「直コミカライズ作品(小説の書籍化を経ずして、マンガ化された作品)」の一つです。ウェブ小説のコミカライズの技法、マンガ編集ならではのウェブ小説への視点、カクヨムコン参加者に向けたメッセージを聞きました。

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「新しさ」で決めたComicWalker漫画賞

――『おっさん、転生して天才役者になる』、注目を集めていますね。

Yさん:ありがとうございます。基本的に今のマンガの人気はいわゆる「なろう系」の話が上位に来るんですが、それ以外のジャンルとしては、かなり人気を得ている実感があります。書店さんからの反応もよく、コーナーをつくりたいとおっしゃってくださった書店さんもありました。編集長や営業も前向きですので、がんばって売っていきたいと思っています。

――カクヨムコン6で『おっさん、転生して天才役者になる』にオファーを決めた理由を聞かせてください。

Yさん:とにかく面白かったからですね。一話目を読んだ段階で映像が頭の中に浮かんできて、直感的にマンガにできるなと思いました。その後もすっと話に引き込まれて、カクヨムコンの審査のために他の作品もどんどん読んでいかなければならないにもかかわらず、この作品は夢中になって最新話まで一気に読んでしまいました。

――どういった面白さがあったのでしょうか。

Yさん:わかりやすいところでいうと「無双する面白さ」でしょうか。読んでいてストレスがなく楽しめます。あとは「新しさ」です。異世界転生モノが多くを占めるなかで、現代転生モノで演劇というあまりない題材を扱っている、それでいてストーリーラインがいまのエンタメ作品で類のないタイプの独特なものでした。

――類のないタイプのストーリーラインについて詳しく聞かせてください。

Yさん:たとえば、主人公がいてライバルがいて敵を倒しながら成長していく、そういう物語を王道とすれば、『おっさん、転生~』はその対極にあります。ライバルもおらず主人公が達観し無双するだけ。主人公は基本的に成長もしませんし、かといって周囲の人間をどうこうするつもりもない。けれども主人公のカリスマに周囲が勝手に影響を受けて、成長し、人生を切り開いていきます。主人公のおかげで生まれる脇役たちの人生模様に、良質な人間ドラマに立ち会っている気分になれる作品です。

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直コミカライズだからできた作り込み

――マンガ版はいわゆる「魅せ方」が本当にうまくて引き込まれますね。

Yさん:今回の作品ではあえてチャレンジな構図、マンガのお約束から離れたネームの切り方をしていただいている部分もあるので、そう言っていただけるとうれしいです。マンガ家の芽々ノ圭さんにはストーリーの新鮮さに負けないくらい、演出も新鮮さを意識していただいています。表情や仕草は過剰気味に描いても「まあ演技の話だから」と設定として流してもらえると思っていますし、普通のマンガよりはだいぶそのあたりに踏み込んでいる箇所もありますね。
 単純な読みやすさだけでいえば、もっと読みやすい作品にすることはできますが、本作では読みやすさよりも大胆さでハッタリをかますほうに重点を置いています。お約束を崩すのは勇気がいるし、非常に難しくて、普通はこじんまりというかまとまりをつくってしまうんですが、その点芽々ノ圭さんは非常に技量がある方で、意図を汲み取って演出いただいています。

――そうした演出があって、作品としての「妖しげ」な雰囲気が生まれていると。

Yさん:それでも特に「キメ」のカットでは、芽々ノさんに「もっとハッタリかましてください」と言うことが多いですね(笑)。私の国語力が足りないこともあるんですが、言語化できないものを絵で表現してもらうことにコミカライズの意義があると考えているので、基本的には読んで感じたことをベースに、こういうニュアンスを求めている、ということをキャッチボールするようにしています。
 たとえばあるシーンにたいして迫力を出すために目を大きくして、というような指示もできなくはないのですが、おそらくそうした具体的な指示は百点の提案ではないと思っています。もっと先に理想像があって、一つの方法論として編集者の指示があるだけなので、原作者さん、マンガ家さん、編集の全員で同じ理想像を共有できるかどうかのほうが重要だと思っています。

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――今回はいわゆる「直コミカライズ」ですが、そのあたりも影響していますか。

Yさん:はい、影響しています。ある程度売れている小説のコミカライズのほうが部数も見込めるし、商売として安定します。けれども、やはりかかわる人が多くなると、目線を合わせるのが難しくなる部分もあります。個人的には原作者さんと直接やりとりできたのは、特に今回のような新しい作品作りにおいてはありがたい部分も多かったです。

――マンガ版の第一話は、いわゆるカクヨム原作版の一話目の内容ではなかったですよね。

Yさん:この作品、原作は大きく二部構成なんですが、第一部の終盤からとってきたかたちです。
 まずは転生するシーンを一話目で描きたくなかったというものがあります。転生モノですと、死にました→転生しました→いまこういう状況です、という状況説明からはじまるものが多いですよね。
 様式美的なものとして受け止められるとはいえ、基本的には面白さに直結しない部分なので、いまのオリジナルマンガでは基本的には面白さに直結しないシーンを極力省こう、描くとしても最低限で、という考え方をしています。
 ですので、まずはこの作品の、このタイトルを象徴する話を一話目でやりましょうよ、という話を原作者のほえ太郎さんと話をして、順番を組み替えさせていただいた形です。
 ほえ太郎さんも「根本的に違わなければ、マンガが面白くなるように組み替えていただいてかまわない」といったスタンスの方だったのでスムーズでした。

――原作者さんの前向きな理解があっての、マンガの完成度ということですね。

Yさん:実はほえ太郎さんにはマンガ用に新たに脚本を書き下ろしていただいてもいます。原作者の方にそこまでやっていただくことは多くはありません。この作品ではほえ太郎さんが作り直した脚本を受けとり、芽々ノ圭さんがマンガのネームに落とし込んでいるので、普通に原作小説をコミカライズすることに比べてだいぶ手が入った漫画になっています。
 そうした作り方をしているので、小説原作とはとても思えないぐらい、文字を少なくすることにも成功しています。小説ならではの言い回しに頼らずに、演技や空気感で表現できています。「一から十まで原作通りにしてくれ」と言われると、こういう魅せ方はできないので、本当にマンガとしていい作品が作れていると思います。

マンガ編集者が重視するのは話のツカミ

――ComicWalker漫画賞の審査に際して、意識された部分を聞かせてください。

Yさん:まずカクヨムコンの審査、という前提では、少なくとも私たちの編集部では一話目だけで判断するわけではありませんし、面白くないと思ったとしても最低2万字ぐらいはしっかり読みます。
 それでもマンガ編集の目線としては、基本的には一話目の印象が判断の七割を占めます。
 一話目で読者のことを気持ちよくしてくれそうにないな、と思った作品がエンタメとして成り立つかというと厳しいものがありますよね。マンガの世界では、冒頭のページで引けなければ読んでくれないし、表紙が悪ければ買ってくれません。ですから、この小説面白いですよ、という雰囲気は一話目で感じられるようにしていただきたいと思います。
 もちろん途中から急に面白くなる作品というのも、たまにあります。今回のようなコンテストであればそういう作品も評価できますが、一読者としてであれば一話切りしている可能性もあります。
 逆に言えば、それだけ冒頭でしっかり引き込まれる作品が少ないということでもあります。そこをしっかりブラッシュアップしてもらえれば、食いつく編集者は多いと思いますし、ウェブでの読者の獲得も期待できるのではないかと思います。

――一話目で、これができていれば引き込まれる、というものはありますか?

Yさん:まずは、絶対条件として最低限正しい日本語であること。たとえば一話目から「てにをは」を間違っているような作品だと、そこで引っかかってしまい読む気が失せますよね。ですのでストレスなく読めることは重要です。
 そのうえで、文体のリズムに独自色があるものには惹かれます。
 たとえば『ソードアート・オンライン』は、最初に冒頭数ページ読んだ時から「これはすごい」と衝撃を受けた覚えがあります。小説の冒頭の内容に関しては、ある程度パターンというものが存在すると思いますし、そこでオリジナリティは出しづらいかもしれませんが、新しい文体で書かれているものは、やはりツカミとしては強いと思います。マンガの第一話がいかに見開きの絵で惹きつけるかに注力するのと同じだと思います。

――小説サイト原作は普段から探されているんでしょうか。

Yさん:私自身は普段はあまりチェックしておらず、月一回、多くて二、三回のぞいてみる感じでしょうか。どちらかというと、まだ連載を持っていない若手の編集者やマンガ家さんに「面白いウェブ小説原作を探してみるのも手だよ」という話をすることが多いです。「この小説でチャレンジしたいんですが、どうでしょうか」という提案を受けて私も読んでみて、いけそうな手ごたえがあれば私、もしくは各編集者から小説家さんにアプローチして相談するという形ですね。
 なのでカクヨムコンのような場はありがたいと思います。普段では読まない本数を、こちら側からは探さないジャンルをふくめてがっつり読ませてもらう数少ない機会ですから。自分のようにウェブ発を主戦場にしていない編集者だと、ウェブ小説を見に行くときもどうしてもバズっていた作品をチェックしたりランキング上位を中心にみて終わってしまうことが多いので。

――電撃マオウ編集部としてはウェブ小説発の原作発掘に力を入れているんでしょうか。

Yさん:特にそういうわけではないですね。社内では異世界系、ウェブ小説作品のコミカライズ作品が連載ラインアップの半分以上を占める編集部もありますが、マオウは一割、あって二割ぐらいでしょうか。売れ筋のコミカライズ作品ももちろん手掛けていますが、そこばかりに目を向けるのではなく、むしろ「なろう系」のブームが去った後に備えて、どんどん新しいことに挑戦してオリジナリティの高い作品を出していこうよ、という方針で動いています。いちはやくVTuberのマンガや特集冊子を出したりしたのもその一環ですね。もともとマオウが人気ゲームのコミカライズのために生まれた雑誌で、あらゆるジャンルを受け入れることが前提にあったことも影響しているかもしれません。

――コミカライズ目線で行ける原作として面白いということは、小説的にも面白い、ということでいいのでしょうか。

Yさん:難しい質問ですね。どちらも面白い作品が多いのですが、小説自体がそれほどでなくても大胆に翻案して面白くしているコミック作品もありますし、コミカライズが下手でマンガとしては面白くない作品もあります。
 たとえば小説として完成されていて、一から十までみっちり書いている小説は直コミカライズ作品としては手を挙げづらいかもしれません。一から八まで書いて、残りの二の遊びの部分をコミカライズとしてどう膨らませるかが、コミカライズの意味だと私自身は感じています。文章をそのままマンガにするんだったら小説に勝てないわけですから。なので、小説としてはちょっと物足りないけど、漫画にしたら絶対面白くなる、というものもあると思っています。
 一話目のツカミが重要というような小説と共通する部分もおおいにあります。けれども、私自身がマンガ編集として惹かれるのは、小説として未完成な部分にあるのかもしれません。

――小説としての完成度を高めることを第一にするとしっかり書き込んだ方がいいかもしれませんが、コミカライズを考えると、余白があったほうがよい場合もあると。

Yさん個人的な要望かもしれませんが、「絵にならないとわからないところ」、絵や映像にした時にぐっと面白くなるようなシーンをストーリーに入れ込んでいただきたいと思います。
 そうしたシーンを小説として描き切れないのであれば、無理に言葉を重ねるよりかは、逆にある種の投げ出す勇気をもってさっと描いてくれたほうが、マンガ編集者的にはありがたいと思います。小説編集者的にはそこをしっかり書けるのかをみているのかもしれませんが。

――ウェブ小説のコミカライズを決めるうえで、他に考える要素があれば教えてください。

Yさん「連載がまだ続くかどうか」は気にしていますね。完結作品はどうしても情報発信が減ってしまっているので、せっかくウェブ作品を読んでくれたファンが離れてしまいますよね。コミカライズが決定して、一巻が出るまでに最低一年はかかるので、連載始まるタイミング、一巻が出るタイミングでまだ読者がついているかはプロモーションとして大切だと思っています。本作については完結しているのですが、ほえ太郎さんにはマンガの脚本でもコミットいただきつつ、番外編を定期的にアップいただいているので助かっています。
 一般論をいうと、☆の数やフォロワー数、さらにその奥にある、どんな人が読んでいるのかを分析する編集者が多いでしょうか。そうしたターゲティングができる情報があると、会社的には企画を通しやすい部分がありますね。
 類似作品があることはケースバイケースだと思います。人気ジャンルであればチャレンジしやすいし、逆になければ、新しいジャンルかもしれないので、すごい金脈が眠っている可能性もあります。マオウという雑誌、というよりは個人的な感性になりますが、私は後者をなるべく手掛けていきたいと思っています。

――最後にあらためてコミックウォーカー漫画賞を目指すカクヨム作家の皆さんへメッセージをお願いします。

Yさん:繰り返しになりますが、一話目は本当に重要です。特に私の場合だと、読んだ時に映像が浮かんでくる文章になっているかどうかを重視します。文章を読んでこういう演出になりそうだ、こういうコマ割りになるよね、というのが明確に見えると、こういう面白さがあるよね、だから行けるかもしれない、声をかけてみたいという判断になります。優先度は別にして、同じように思っている編集者は多いと思います。
 そのうえで、全体的な話を言うと、情景を事細かに書くのではなく、要所要所がわかりやすく書いていただきたいです。
 それでいて各話に盛り上がる箇所が一か所はある、捨ての話をつくらないということも大切です。ワンセンテンスのカッコいい言葉だけでもいいと思うんですが、各話に「あっ」と思えるものがある。 このセリフをこういうカットで言わせたい、とマンガ編集者に思わせることができたら、受賞はぐっと近づくのではないでしょうか。
 編集部によってはもう少しロジックを持っていて、たとえば青年誌であれば一話目にわかりやすいお色気シーンが必要だとか、少年少女にある程度絞った雑誌であれば一話目にかわいいヒロインやイケメンが出てくることを重視しているかもしれません。しかしそれは雑誌の傾向の違いというだけで、根本的に読者を惹きつける強いカットをつくれそうかどうかを重視する、という点では同じだと思っています。
 今回も新しいエンターテインメント作品に出会えることを楽しみにしています。

カクヨムコン8ではコミックウォーカー漫画賞がさらにパワーアップ!過去最多の19のコミック編集部が選考に参加します!

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