【オファーの瞬間vol.1】『ぽんこつかわいい間宮さん』|コンテスト「後」の〇〇が決め手に

「どういう作品が書籍化されますか」「編集者は作品のどのような部分を見ているのですか」――そうした疑問を持つ、カクヨム作家の皆様に贈る新たなインタビュー企画「オファーの瞬間」。 1回目に登場するのは『ぽんこつかわいい間宮さん』を担当されたファンタジア文庫編集部のTさん。第6回カクヨムWeb小説コンテスト(カクヨムコン)に応募されていた本作にTさんがオファーしたのは、コンテストの最終結果での落選が発表されてからすぐのことでした。なぜそのタイミングでオファーしたのか、どのようにして書籍化作業を行ったのか、話を聞きました。

――『ぽんこつかわいい間宮さん』刊行おめでとうございます。カクヨムのトップページのバナーもひきがあるデザインで、書籍化ページから作品を見られた方も多くいました。早速ですが、今回『ぽんこつかわいい間宮さん』(元々のタイトルは「お願い!教えて?〜社内の超美人広報が陰キャな俺のデスクになぜか居座る件〜」)にオファーをしたきっかけを教えてください。

Tさん:ありがとうございます。もともと私が年上ヒロイン好きというのもあって、そういう作品にチャレンジしたい気持ちがありました。現在ラブコメの主流と言えば学園ラブコメですし、ファンタジア文庫は中高生に読んでもらうことを意識しているレーベルではあるのですが、社会人ラブコメにもチャレンジできる幅があります。そのためカクヨムでも「オフィスラブ」などのタグで検索をかけて作品を探していました。

――普段からカクヨムでは作品を探されているのですか?

Tさん:そうですね、週に2、3回はランキングや人気のタグから作品をチェックするようにしていますし、それ以外にも時間があるタイミングで作品を探すようにしています。作品を探すときには★の数以外にも、タイトルやあらすじ、キャラクターとシチュエーションを絞り込んで気になった作品を読んでいます。ライトノベル編集者の主な仕事として、既存シリーズの担当のほか、新シリーズの立ち上げがあります。ファンタジア文庫は新人賞がありますので、そこでデビューされた作家さんと新シリーズを制作する形と、ウェブ小説サイトで連載されていらっしゃる作家さんにオファーをして、書籍化させていただく主に二つのルートがあります。年に2、3シリーズぐらい、ウェブ小説サイトで活動されていらっしゃる作家さんの作品を担当させてもらっています。編集者によってはもっと多くの作品を見ているかもしれません。

――そうした新作品の発掘の検索で引っかかったのが間宮さんだったんですね。

Tさん:はい、チェックしてブックマークしていました。ただしっかり読むタイミングとなったのは、カクヨムコンで読者選考を通過した編集部選考のときでした。

――本作品はその時は残念ながら受賞とはなりませんでしたが、どういう評価だったのでしょうか。

Tさん:当時の率直な感想は「惜しいな」というものでした。コンテスト応募時点での本作品は、ラブコメよりも、もう少しオフィスでのドラマ部分に比重が置かれていました。特別賞に推して、改稿を一緒に考えていくという方向もないわけではなかったのですが、まだ私自身もこの作品をどうすればよいものに仕上げられるのか、当時は見えていなかったというのが本音です。

――本作品は第6回カクヨムweb小説コンテストの最終発表がなされてまもなく、Tさんから書籍化のオファーをされています。そのきっかけはどこにあったのでしょうか。

Tさん:その後も作品はチェックしていたのですが、オファーを決めたのはコンテスト後の加筆部分である第2部がはじまったことにあります。第2部ではラブコメ路線で付き合ったあとの話がメインになっています。料理をしながらヒロインである間宮さんが甘えてくるシーンがあるのですが、大人だけど子どものように甘えてくる間宮さんのギャップに惚れました。そして「間宮さんのかわいさを全面に押し出す形にしたい」という気持ちが強くなり、その方向でご相談したいとオファーを出しました。

作者の小狐ミナトさんも長く書かれていく中で、間宮さんの「ぽんこつかわいさ」を魅力的に描きたいという気持ちが強くなられたタイミングだったようです。「ぽんこつ」というのは、「ミスをしながらも、一生懸命頑張る女の子」で、どうしたらその可愛さを伝えれるか打ち合わせを重ねていきました。小狐さんは本作が初めての書籍化作業になるのですが、とにかくレスポンスが早く、打ち合わせの翌日にプロットや原稿が届くこともあり、すごいスピードで作品のクオリティが上がっていきました。

加えてイラストは、年上ヒロインに長けていらっしゃるおりょうさんにご担当していただけることになりました。おりょうさんが描く間宮さんがかわいすぎて、毎回イラストを見る度に小狐さんと私で喜んでいました。おりょうさんも間宮さんを好きだとおっしゃってくださり、本当に光栄でした。ブラッシュアップされた小説本文と至高のイラストが組み合わさり、自信を持って世に送り出すことができたと思います。

――魅力的な物語を更新し続けていく先に、再びチャンスが巡ってくる可能性がある、ということですね!作品づくりの裏側を聞かせていただきありがとうございました。最後にカクヨムで活動する作家さんへメッセージをお願いいたします

Tさん:私自身、編集者歴もまだ浅く、アドバイスをするというのは本当におこがましいのですが、ウェブ小説の良さは「書いてみて反応を知ることができる」ことだと思っています。書きながら試行錯誤することは、より面白いエピソードが生まれるきっかけになります。「間宮さん」は第2部を読んで最終的にオファーをさせていただいたわけですが、第1部がなければ第2部は生まれていなかったかもしれません。実際、読者の皆さんの応援によってできたエピソードもあると小狐さんからもうかがっています。読者の応援で書かれたたくさんのエピソードがあったことで、文庫の改稿方針も決まりました。

一方で、読者の方の反応以上に大事なのが、作者さん自身で書いていて楽しい・好きという気持ちだと思います。長く続けるうえでは自分が楽しいと思えることが不可欠ですし、そのためには何かしらのこだわりが大事だと思います。一部の方にいい反応がされなくても、作者さんの好きだという気持ちはきっと読者の皆さんに伝わるはずです。それは作品を目にした編集者にも必ず届くと思います。

年上ヒロイン愛がつまったコミカライズ企画も進行中の 『ぽんこつかわいい間宮さん ~社内の美人広報がとなりの席に居座る件~』 1巻は好評発売中。2巻は今夏発売予定です。

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