【カクヨム甲子園2023】暁佳奈先生に受賞者からの質問に答えていただきました

先日贈賞式を終えた、カクヨム甲子園2023。本年度の選考委員を務めていただいた暁佳奈先生には、贈賞式にて改めて受賞者の高校生からの創作についての質問にお答えいただきました!一部には時間の都合上、式で触れられなかったものも含まれています。高校生作家の皆さんも、大人の作家の皆さんも、ぜひ参考にしてみてください!

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――新しい小説を書く時、何がきっかけで思いつきますか?

暁先生:色んなきっかけがありますが、結局は興味がある事や実際に体験したことから『あ、これを表現したい』と着想を得ます。映画だとこんな素晴らしい話を私も書きたい、ではこれはなぜ素晴らしいのかと深堀りし、自分の感情に向き合う形になります。
体験を描きたい、ではなく体験をした上で感じた自分の感情を表現する、が近いですね。
たとえば、野球観戦した。野球面白いな~野球書こう! と思っていい話が書けるかというと難しいと思います。共感性を得られる、人の心のやわらかいところを切なくさせる、そういうのはただ言葉や事実を並べただけでは難しいからです。
みなさんはいま学生さんですからものすごく多感で、その時しか感じられない瞬間をまさに味わっています。文筆業に関しては文章に落とし込むことが出来るので、ぜひ色んな体験をしてください。

――仕事の範疇の外にある、書くモチベーションとなる事柄はありますか。もしあれば、どのようなものか教えていただきたいと思います。

暁先生:私の場合は小説を書くことは趣味から発展しているので、これが書き終えたらこれが書ける。はやくそっちを書きたいよ~書くために頑張るぞ! という、のがモチベーションではあります。しかしそれだと仕事になってしまいます。あとは、最近Vチューバーの方の配信をよく見ていますね。何かしらやりたいことや夢を語ってデビューする人がほとんどですので、頑張ってる人の活動を見るのは単純に元気が出ます。この配信があるからこれまでに書くぞ、と頑張りの指標にもなります。

――とてつもなく筆が遅くて悩んでいます。そのせいで構想はあるものの、筆が遅くて書けない物語がたくさんです。筆を早くするのに効果的な方法・ルーティンなどはありますか。また、執筆活動以外にも勉強や読書など、やらなければいけないこと、やりたいことがたくさんあります。執筆活動とリアルの生活との両立はどのようにしていますか。

暁先生:じっくり物語を描くこと自体は別に悪いことではないと思うのですが『今回この公募を逃しても他があるし』という気持ちも一因ではないでしょうか。ぎくり、という方いるはず。これは私もそうでした。しかし、本当に小説家になったら商業小説に於いて締め切りはかなり大事です。なにせ原稿にあらゆる広告媒体の動き、書店様の動き、営業さんの動きなどが連動していきます。コミカライズもあるとコミカライズの作家さんの動きも続いていきます。すごく責任重大です。「締め切り破ったら重罪! みんなから社会的信用を失うよ、わー!!」という危機的状況に落とされると、いくら筆が遅い方でも意識や行動が変わると思うんです。必ずここに出す、と決めて締め切りと進行スケジュールを立てましょう。そして数週間ごとに確認しましょう。あなたのマネージャーさんはあなたしかいません。
あと、執筆とリアルの生活の両立は正直すごく難しいです。私は友達に一年に数回しか会えません。それくらい執筆に時間をとられます。同じように複数メディアミックスをされてる立場の方だとあらゆる監修の仕事も来ます。その返事を先方にお戻ししていたら一日終わってしまった……ということも多々あります。
全部順調、両立出来てますという方がいたとしたら、多分あまり寝てない人か、スーパーヒーローなみに体力がある人です。学生さんの場合は、学業や学校生活をまず大事にすること、来年もう働くよ、という方は生活基盤を整えることが一番かと思います。なぜかというと、小説は何歳でも書けるし、いつでも挑戦出来るからです。
小説の良いところは選手生命がないところなんですね。私は大人になってから小説を本格的に書き始めたので特にそう思います。経済的基盤がちゃんと安定しながら書くというのもすごく大事です。
小説家になることはみなさんが思っているよりもかなり博打です。
まずは、いまの生活を大事にしてちょっとずつどこまでなら健康的に書けるか探ってみてください。

――私は作品にタイトルをつけるのが苦手です。いつも、作品を書き上げてからギリギリでタイトルを考えているのですが、先生は作品を書く前後のどちらでタイトルをつけていますか? また、良いタイトルをつける時のアイデアの出し方を教えて下さい。

暁先生:私もタイトルつけ苦手です。センスがそんなにないんですね。最初につけないで途中か最後のほうでつけます。アイデア出しもあらゆる辞書を読むということくらいしかなくて。
ただ、これが本になった場合どういう装幀が入るかなというのはいつも意識しています。
『春夏秋冬代行者』という作品を書いていますが、なぜ『四季の代行者』にしなかったというと、紙の本になった時に春・夏・秋・冬と漢字のタイトルデザインされるほうが文字バランスとしても絶対に良いと思ったからです。
これはもう案の定、川谷デザイン様というすごい事務所さんがものすごく格好良くしてくれました。そしてスオウさんという素晴らしいイラストレーターさんに装画を描いていただき素敵な表紙が誕生しました。
これが、フォーシーズン物語とかだったら絶対違う結果になってるはずなんです。

『春夏秋冬代行者 春の舞(上)(下)』

タイトル思いつかないな、となったら逆転の発想でどういう表紙が欲しいかな? 自分は本を出す、ならこういう表紙が欲しい、という前提で考え、そのためにはこんなタイトルが良いはずでは、と導き出すのもいいかもです。

――小説を、どのような形であれ発表する際に、その内容はどこまで自己満足であることが許されると思いますか?

暁先生:なかなか抽象的なご質問なので、回答が的外れになるかもしれないのですが……たとえばそれが読者のことは考えず自分の好きなことだけ描きたい! とかならそれはその人の判断なので別に良いと思います。もしくは、何か重い過去があって、それを物語で表現して他の方にも追体験してほしい……エッセイ的なものを書きたい! だとあまりにも重たい内容だと読む人が限られるかもしれませんがそれもまた表現なので良いと思います。
私の中ではっきりと言えるのは、それを書いた時にあなたは傷つく人を想定しているか。傷つけたあなた、傷つけられた人、大丈夫そうか? あなたも書いて傷つかないか? それを危惧してしまう物語ならば、たくさんの魔法をかけてから発表したほうがいいということですね。魔法というのは表現のやわらげや差し替えです。 読者を傷つけることで発芽する作品もありますが、ちゃんと読み心地が考えられています。やみくもにただ誰かを傷つけるだけのものというのはおすすめしないです。回り回って必ず自分が傷つくようになっています。

――私は長編が書けません。いずれは10万字の長編を書いてみたいと思っているのですが、3万字程度の物語もきちんと完結させられません。書こうとすると描写が薄っぺらくなってしまったり、プロットがいつまでも完成しなかったり、プロット未完成のまま見切り発車で書こうとすると途中で行き詰まってしまいます。暁先生が長編を成立させるために気をつけていることなどがあれば教えていただきたいです。

暁先生:私も長編がとても苦手でした。だから最初は短編連作ではじめました。前作の『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』がそうですね。一話一話完結する。でも謎があり、回を増すごとにそれが明らかになっていくという手法です。長い話で息切れしてしまう場合はそういうやり方もあると思います。いまは慣れてしまったので逆に「鈍器が出来ちゃう……みんなが読みたがらなくなっちゃうよ」という長編を書くようになってしまいました。つまり、慣れたら出来ます。

――ファンタジー作品を書きたいと思っても設定を考えるときに矛盾が生じるなど、なかなか書くことができません。暁佳奈先生はファンタジー作品を書くときどのようなことに気をつけて書いていますか。

暁先生:能力にしろ、世界観構造にしろ、何でもアリにしてしまうと収拾がつかなくなるので出来ることと出来ないことをまず考えます。火を扱う能力がある。それはどこまでの火力なの? 使用者は社会的にはどういう扱いを受けているの? そういう能力がある人が当然持つであろう弊害は? どんどん突き詰めて考えるといいです。そうすると自然と登場人物の葛藤が生まれ、出来ること、出来ないこと、勃発するであろう作中内の事件などが思いつきます。
ただ、何でもアリなファンタジーもとても魅力的ですし実際人気があるのでそういうのもいいと思います。

――私はキャラクターの設定などを事前に深く練っておいて、彼等の台詞を考える時にそれらの設定を活かした言葉選びをするようにしているのですが、どうしても全ての設定を作品内で書き切ることが出来ません。また、執筆に関して、思いつきで書いた後に修正するやり方を取っていることもあり、1つのフォーマットに設定をまとめる癖が無く、読者の方に作品について質問された時にきちんとした回答ができません。暁佳奈先生はキャラクターや世界観の設定に関して、作品内で全てを表現しきれないことはありますか。また、設定資料などはどうやって管理されていますか?

暁先生:私はあまりプロットを作りませんが、設定資料はちゃんと一つのファイルで作ります。
とりあえずでいいから思いついたこと、登場人物の特徴などそちらに明記しています。時間があれば更に用語集も作ります。
小説を書いているWordファイル、設定資料をメモしているWordファイル、それら二つを常に展開しておいたりしています。携帯で書いたりしている方だとそれが難しいかもしれませんが、すごく商業的なことを言うと、小説がもしメディアミックスしたら先方に設定資料をお渡ししないといけませんのでまとめていないと後で自分が困ることになります。頑張ってまとめましょう!
また、作品内の設定ですが、読者をもう少し意識されてみるといいかもしれません。
あれもこれもあれも! というのは書いている立場は楽しいものです。
しかし読んでくださる方の立場になると『何が一番言いたいことだったのか、盛り上がりだったのかよくわからなかった……』となると思うんです。
たとえば桃太郎が鬼退治に出かけたが途中で異世界転生してカーレースに挑むことになり、同じく異世界転生したおじいさんとおばあさんは熾烈な戦いを……などと情報を詰めすぎると投稿作のページ数ではまず物語を最後まで完結に導くのが難しいですし、読んだほうは『鬼退治は??』となってしまいます。要素の詰め込みは物語の主軸を迷走させます。描きたいことは大きく二つか三つくらいにしておいて、あとは続きが書けそうななら次回へ回す、とするほうが読まれる方に物語が伝わると思います。

――止まった場面を描写するときにはすらすらと、流れである程度満足した文章を書くことが出来るのですが、動いている場面や動きの描写が苦手です。「~~した。~~する。~~した。」というような、動作を列挙した単調な文章になってしまいます。不要な描写は割愛するべきなのでしょうが、その動作が無いと登場人物のリアリティが薄まってしまうような気がするのです。しかし、場面の解像度を上げて細かく描写するにしても、書いているうちに野暮に感じてしまいます。暁先生のような、自然で、それでいて奥行きや説得力のある文書を書くにはどうしたら良いのでしょうか。

暁先生:一人称、三人称、どちらにしろ、カメラをどう構えているかが問題になってくると思います。
カメラというのは物語の場面を読者に提示する時にどういう箇所をクローズアップするか、神視点である作者はどこを見ているかということです。
動いている場面でも情報はたくさんあります。走っている場合、全身をただカメラを通して眺めていると『◯◯は走っている』となりますが、当該人物の苦しそうな様子を読者に見せたい場合は荒い息をしていたり、はたまたお腹をおさえているところにカメラを向けますよね。体力がある人ならどんどん景色を追い越して走っていく背中を描写する事もできます。ぜひ、映画監督になったつもりで書いてみてください。

――一人称で小説を書く時、主人公が居ない視点はどうやって表すと分かりやすいでしょうか。

暁先生:全てが一人称という場合、第三者の言葉を主人公が聞いて情報を処理する、というやり方がまず挙げられます。また、全て一人称にこだわらないのであれば場面切り替えをした上で一人称、三人称、一人称、三人称とターンごとに分けるというのもありかと。
ただ、これはうまくやらないと読者の方が『なんで突然三人称になったの??』と思ってしまうので本当にわかりやすいくらいやるべきです。もしくは、主人公以外の登場人物の過去回想としてそちらも一人称でまとめて情報を提示してもらい、『ということなんだよ』と彼は言った、などとまた主人公のターンに戻すやり方もアリです。
やり方は色々あると思います。こちらもやはり、自分が読者だったらどう書いてもらったら描写が受け取りやすいかな? と想像をめぐらすのが良いと思います。

――暁先生が物語を書こうとしたきっかけがあれば教えていただきたいです。

暁先生:この人生で何がしたいかなあと真剣に考えた時に思いついたのが物語を紡ぐことでした。元々、映画や本が好きだったのでその分野に憧れもありました。きっとみなさんとそう変わらないきっかけかと。文章を書いてみたいという思いはある日ふっと訪れますよね。

――私はアニメなどを見る時、劇中のBGMや主題歌に注目しながら楽しんでいます。暁先生の中で音楽が印象に残っている映像作品はありますか。また、好きなアーティストさんがいたらお聞きしたいです。

暁先生:映画『マグノリア』の主題歌を歌われているエイミー・マンさんは一時期すごく聞いていました。映画の中で音楽の使われ方がとても秀逸なのでおすすめです。人生に迷いがある人向けの映画でもあるのでそういう方にもおすすめです。ルドヴィコ・エイナウディさんというピアニストさんも大好きです。後から知ったのですが、映画『最強のふたり』のBGMを担当されていました。こちらも有名作ですのでぜひ。来日された時にコンサートも行きましたが素晴らしかったです。日本の方だとAimerさんが好きです。北海道にライブに来てくださった時に歌声を拝聴しました。他にも大好きな方がたくさんいます。音楽と映像の組み合わせって本当に感銘を受けますよね。

ありがとうございました!

暁先生には、カクヨム甲子園2023の開催直前にも高校生作家からの質問にお答えいただいております。ぜひ併せてご覧ください。

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暁佳奈
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』にて第5回京都アニメーション大賞小説部門で同賞初の大賞を受賞しデビュー。現在電撃文庫にて『春夏秋冬代行者』シリーズを執筆。

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▼『春夏秋冬代行者』公式サイト dengekibunko.jp