【オファーの瞬間】『同人イベントに行きたすぎて託児所を作りました』|カクヨム短編賞発のコミックエッセイ!

カクヨム作家の皆様に贈る、編集者・プロデューサーへのインタビュー企画「オファーの瞬間」。今回話を聞いたのは、6月13日から連載が開始されたコミカライズ『同人イベントに行きたすぎて託児所を作りました』(原作:四辻さつき 作画:マツダユカ ネーム構成:うおまち時ノ)を担当した、ニュータイプ編集部のAさん。本作の原作はカクヨムWeb小説短編賞2021にて新設された実話・エッセイ・体験談部門にて短編特別賞を受賞。その後編集部からオファーがあって、コミカライズが実現しました。当時の選考の様子やコミックエッセイ原作としてどのような作品が求められるのかについて、話を聞きました。

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コミックエッセイの原作として100点の物語

――『同人イベントに行きたすぎて託児所を作りました』、第1話が公開されたとき、かなりの反響がツイッター上で見受けられました。

Aさん:本当に多くの方が共感していただいているなと、引用RT やコメントを見て思いました。たとえば二人のお子さんが原作者の四辻さつきさんにはいらっしゃるのですが、そうした部分についても「ほんと年の近い二人って大変だよね」というようなコメントがあったりしていて、細かな点もふくめて共感をいただいている実感があります。

――カクヨム投稿版のエッセイ『同人イベントに行きたすぎて託児所を作りました』が商業作品として原作となりうると思った理由を聞かせてください。
 
Aさん一言でいうと、共感と成長性が顕著に感じられる作品だったからです。というのも、商業におけるコミックエッセイで一番大事だといわれているのが共感なんですね。コミックエッセイでは主人公に共感できないと、入り込みにくいことがあります。コミックエッセイで人気のあるジャンルは子育てや不倫、猫などですが、どれも身近なテーマとなっており、そこから成長を追体験できたり、学びを得られるものが好まれている印象です。
 この作品はひとりのママが情熱の赴くままに「同人イベントのための託児所」を作る実話が綴られています。育児の大変さや、推し活で救われる体験、そのうえで自分と同じような悩みを抱える人たちのためにアクションを起こし、そのなかで学びを得ていく、どの部分をとっても面白く、まさにコミックエッセイに向いている作品だと思いました。

――Aさんも職場に復帰されたばかりですよね。

Aさん:実はその点も非常に大きかったです。個人的な話になりますが、ちょうど妊娠がわかってまだ安定期に入っていない時期にカクヨムコンの審査を行っていたんですね。赤ちゃんに会いたい、子育てが楽しみだという気持ちがある一方で、初めての子どもで、子どもを産んで育てるという経験にしても、その先の自分のキャリアがこれからどうなるんだろうという部分についても、漠然とした不安がありました。そのなかでこの作品はまさに救いの作品で、子育て100%の生活ではなく、自分の世界を持っていいんだという安心感をもたらしました。四辻さんは子育ての閉塞感がある中で、推しジャンルに出会うという体験をして希望を見出されたのですが、そのストーリーを読んだ私にとっても希望でしたし、私のように共感する人は必ずいるはず、と思いました。

『同人イベントに行きたすぎて託児所を作りました』第1話P6
『同人イベントに行きたすぎて託児所を作りました』第1話P10

――原作者の四辻さつきさんに会われていかかでしたか。

Aさん:カクヨムコンに出されていた作品ということもあり、コミックエッセイ化に非常に前向きに思っていただけました。四辻さんは本当に行動力があり、非常に聡明な方ではあるのですが、いわゆるスーパーウーマンではありません。普通の方というと語弊があるかもしれませんが、一人の女性がアクションを起こし、仲間をつくり、様々な人に手助けをしてもらいながら目的を成し遂げるというストーリーは、多くの人に希望を感じていただけるのではないかと思います。特に、四辻さんがいま足りないものは何か、助けてほしいものは何なのかを整理、相談しながら前に着実に進んでいくところは、人間としても大いに学ばされました。

――制作にあたっては、どのような点に留意されましたか。

Aさん:一般的にコミックエッセイは原作者さんが主人公でありつつマンガ家さんを兼ねている場合が多いですが、今回は原作者とマンガ家さんが分かれていることもあり、信頼できるマンガ家さんにお願いをしました。原作とマンガで分かれていることも功を奏して、より四辻さんの成長がわかる、テンポが良い作品に仕上がっているのではないかと思っています。
 また、マンガの中では四辻さんのその時々の気持ちをしっかり描いていただくことを重視しています。育児は楽しいこともありますが、閉塞感や孤独であることも多いです。特にコロナ禍では、子どもを抱いて外を歩くこともためらわれる時期もありました。そんな閉じこもりがちなことが多い人にも、共感してもらえればと思って編集しています。

ストーリーとエピソード両方の充実を

――Aさんはいま、どこの部署に所属しているのでしょうか。

Aさん:私自身はニュータイプ編集部に所属しています。ニュータイプ編集部は雑誌『ニュータイプ』を作るのがメインの編集部ではあるのですが、私自身は雑誌本体にはあまりかかわらず、漫画や写真集をやるなど、自由に活動させてもらっています(笑)。たとえば、キャラクターマンガや様々な分野のコミックエッセイ、タイドラマの『2gether』のビジュアルブックなどを手がけております。現在は、産休明けで復帰したてで時短勤務ということもあって、マンガを中心にやっていきたいという考えです。

――Web小説は普段読まれているんでしょうか。

Aさん:いわゆるなろう系小説はあまり読まないです。なろう系作品もたくさん出ていて市場の需要が大きいことも理解しているのですが、投稿されている作品数も探している編集者も出している出版社も多いため競争が激しくて。そんな事情もあり、私自身は別のジャンルで勝負をしようと思っています。
 ですので、正直、カクヨムや他のサイトもふくめてWeb小説サイトを常にチェックしているわけではありません。小説サイト、SNS、ブログサービス問わず、話題となったものを探索して目についた作品を読んでみるという感じです。ツイッターで配信された作品に出会うこともありますね。
 ですのでWeb小説――厳密には今回はエッセイですが――原作とするマンガを立ち上げたのは今回が初めてです。もともとやってみたい気持ちはあったのですが、カクヨムコンの短編賞でエッセイ系の作品の募集を始めるというタイミングがあったので、選考に参加させていただきました。

――カクヨムWeb小説短編賞2021の選考を改めて振り返っていかがでしたか。

Aさん私の場合は、1万字の中でストーリー性と独自性があるものが魅力的にうつりました。またコミカライズを意識するにあたって、そこから広げて展開できそうな物語かどうか、という目線で読んでいました。
 エッセイ部門に限った話でいうと、ストーリーとエピソードを1万字の中で高いレベルで両立させていた作品はそう多くなかった印象があります。たとえばこの方は非常に面白い体験をされているなと思う一方で、ストーリー性が弱く散らかった印象の作品については、商品化するうえでのストーリーラインがみえてこないものがありました。一方でキレイに話としてはまとまっているものの、ご自身の思ったことや行動にまつわる話があまり描かれておらず、この作者さんからどこまで話が引き出せるかがわからない作品もあったように思います。エッセイ部門でも、あったことをそのまま書くのではなく、起承転結を意識されたストーリーとして読めるものを求めています。そのうえで作者の個性、考えていること、とった行動など、その作家ならではのエピソードが入っているものがやはり魅力的です。

――エッセイジャンルでの書籍化に関心がある作家さんへ、メッセージをお願いいたします。

Aさん:文字モノのエッセイに当てはまるかわからないのですが、コミックエッセイを描くことは「自分とのカウンセリング」とも言われます。自分のことを振り返って考えて、自分からどういう感情が出てくるとか、どういう風に自分が思ったというのを、書き出していく。その際に、ただ書き出すだけではなく、そこからもう一歩深堀してどういう部分に興味を持ってもらえるか、どういう風にしたら面白く書けるのかまでを考える。そうすると自ずと自分ならではの世界観や視点がにじみ出て、それが作品のウリになります。カクヨムはエッセイが多いサイトではないと思いますが、自身のことを振り返る体験自体は、小説を書き続けていくうえでも何かきっかけになるかもしれません。

――最後に、改めて本作品を推していただければと思います。

Aさん:爽快感があるマンガに仕上がっていると思うのでぜひ読んでいただきたいです。あとは、推しジャンルがある大切さも、マンガを通して感じていただけたらと思います。私自身も家族に預かってもらい、某アイドルのライブに行くことができ、魂が洗われました!
 今回のマンガの反響を通して、自分がママ・パパ以外のものになれる時間がいかに大事かについて、みんな感じていらっしゃるんだなと改めて感じているところです。
 もちろん家庭やお仕事の都合でなかなか家族に預けることができない、また預けるという行為自体に罪悪感を持つ方もいらっしゃると思います。
 でもだからこそ、四辻さんは<パパとママには「安心」、子どもには「最高に楽しい時間」を>というモットーを掲げて、現在の託児所をつくられました。「子どもを預ける」ではなく、「子どもを楽しい場所に連れてきた」「その間に自分も楽しいことをしよう」という考え方です。こうした物事のとらえ方自体もふくめて、今の時代の子育てにヒントとなるものが詰まっていると思いますので、たくさんの方に読んでいただけたら幸いです。

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