第34話 こうして彼らは
【佐藤悠斗視点】
翌日の朝。
いつもより少し早く登校した俺は、冬音が来るのを待っていた。
冬音には、話があると前もってメールで伝えてある。
「佐藤君」
登校した冬音が声を掛けに来た……のだが、いつもの柔和な表情じゃなかった。
まぁ多分、お見舞いに行かなかったから少し拗ねてるだけだろう。
「ごめんな、冬音。お見舞いに行けなくて。実は昨日──」
「その理由ならメールで何度も説明されたわ。それで、話ってなにかしら?」
どこか余所余所しい冬音の態度に、思わず困惑してしまう。
「あ、ああ。大事な話だから、ここだとちょっと……」
こんな人前だと流石に恥ずかしいので、それから俺達は校舎裏に移動した。
そして、移動してすぐに……俺は冬音に告白するのだった。
「俺と付き合ってくれ! 冬音!」
そう……これが、これこそが俺が考えついた、冬音を手中に収めるための方法。
これでもう、冬音と千歳の距離が近くなる心配も無い。
というか、彼女達が俺に好意を向けていると分かっていたのだから、どうせ向こうからすぐに告白してくるだろうと思ってちんたら告白待ちなんかせずに、さっさとこうしておけば良かったんだ。
それと、夏美と秋菜にも同じように告白するつもりだ。
他の誰かにくれてやるつもりなんて勿論さらさらない。
まぁ、その場合は三人と付き合うことになるが、三人とも物分かりが良いからきっと理解してくれるはずだし、それに俺が責任を持って全員ちゃんと幸せにすれば不満も問題も無いだろう。
その第一歩として、まずは冬音だ。
冬音は目を丸くして驚いている。
俺達の間に流れる僅かな沈黙。
それもすぐに終わりを迎えた。
そして、冬音は俺の目を真っ直ぐに見て、真剣な面持ちで……
俺に現実を突きつける答えを。
俺の計画を破綻させる一言を。
俺が考えていること……その全てがただの勘違いだと否定する言葉を。
冬音は告げるのだった。
「ごめんなさい」
「…………はっ?」
えっ、今……なんてぇ?
「ふ、冬音……今なんて言った?」
聞き間違いだと思い冬音に尋ねる。
「ごめんなさい。私、佐藤君とは付き合えないわ」
ゴメンナサイ?
ツキアエナイワ?
えっ、俺……振られた……?
考えていた計画、思い描いていた未来……それらが音を立てて崩れていく。
「な、なんで……!?」
「私、他に好きな人がいるの」
「そ、そんなわけ……だって、冬音は俺のことが好きなはずじゃ……」
あまりにも自信過剰な発言……しかし、冬音はその言葉を聞いて察する。
悠斗が勘違いしているのだと。
「いいえ、私が好きなのは今も昔も“
な、なんだよそれ……
前に夏美にも同じようなことを言われた時のことを思い出す。
まるで、俺であって俺じゃない誰か別人のことが好きだとでも言うような言葉。
いや、そんなことはない!
正真正銘、俺は俺だ、他の誰でもない!
現に、こうしてちゃんと記憶だってある!
それなのに……それなのにぃッ!
悉くが思い通りにいかないことへの苛立ちと怒り。
この瞬間、それらが限界に達して頭に血が上り……冷静さを失った俺は、衝動的に怒鳴り散らすのだった。
「クソォォォ!!!」
◇◆◇◆◇
【篠宮冬音視点】
佐藤君からの告白を断り、教室に戻ろうとした時だった。
「クソォォォ!!!」
突然、目の前で佐藤君が大声で怒鳴ったのだ。
あまりにも突然の出来事に、私は息を呑む。
「さ、佐藤君……?」
恐る恐る声を掛けると、佐藤君が私を見た。
「……っ」
佐藤君の顔を見た瞬間、私は驚きと恐怖を感じずにはいられなかった。
佐藤君は怒りで顔が真っ赤になっていて、鋭い眼光で私を睨み付けていたからだ。
「ふざけんなよ……夏美といい、同じようなこと言いやがってッ! 意味わかんねぇんだよ!」
御影さんも私と同じようなことを……?そんな疑問を抱く余裕すら無かった。
「冬音、あれだけ俺に対して露骨に好意を向けてただろ!」
「ち、違うわ。私が好意を向けていたのは、あなたじゃなくて“
「違わねぇ! 俺は俺だ、他の誰でもない! それなのに……ッ」
「……っ」
佐藤君の怒りが収まっていないのは明らかで、いつそれが爆発してもおかしくない危険な状態だ。
怖い……今、私の心は恐怖に支配されていた。
今すぐここから逃げ出したかったけど、恐怖で足が竦んでそれは叶わない。
大声を上げて助けを呼びたかったけど、それも恐怖で声が出ないので出来そうにない。
ふと、あの時に……準備室にプリントを運んでいる時に、千歳君から言われた言葉を思い出した。
『篠宮さんなら大抵のことはそつなくこなせると思う。でも、そんな篠宮さんでも出来ないことは何かしらある』
全くもってその通りだ。
今の私には、この状況をどうにかすることは出来ない。
『だから、もしも何か自分一人の力じゃ解決できないような事が起きたら、その時は遠慮なく頼ってほしい。必ず力になるからさ』
私一人じゃ解決できないような事……まさに今の状況の事だ。
だから私は、言われた通り頼ることにした……願うことにしたのだった。
助けて……千歳君。
「……おい」
刹那、声が聞こえた。
今一番聞きたかった人の声が。
来て欲しいと願った人の声が。
声がした方を向くと、そこに彼がいた。
驚愕の表情を浮かべている千歳君が、そこにいたのだった。
「おい、
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