第20話 御影夏美は知りたい

【御影夏美視点】


 前回の篠宮さんの勉強会に参加した後から、私はずっと心ここに在らずでいた。

 その理由は……二つ。


 一つは、悠斗がこれまでの彼とはまるで別人に感じてしまうから。

 これは勉強会以前からちょくちょく感じていたことではあったけど、あの日……悠斗に勉強を教えてもらってから、その違和感が日に日に強くなっているような気がする。


 そして、もう一つの理由。

 それは、勉強会でクラスメイトの千歳君に勉強を教えてもらった際に、彼のことを悠斗と同一人物のように感じてしまったからだ。

 非現実的なのは分かっている。

 でも、ずっと教えてもらっていた私だからこそ断言できる……あの時の千歳君の教え方は、いつもの悠斗のそれだった。

 

 あの日以降、千歳君とお話はしていないけど……その事が頭の中にずっと残っているせいか、彼のことをついつい気にしてしまう。

 まさに今もそうだ。


「千歳君。今日の放課後、楽しみですね」

「そうだね、古賀さん」

 

 お昼休み、教室で楽しそうに話している二人を思わず見てしまう。

 どうやら今日の放課後に遊びに行くらしい。

 ちなみに、私も今日の放課後は悠斗と遊びに行く予定だ。

 前回の篠宮さんの勉強会後に誘われた時は断ったから、今日遊びに行くことになったのだ。


「……」


 もしも……もしも、本当に千歳君の中に前までの悠斗がいるとしたら、は古賀さんともう付き合っているのだろうか。

 まだ付き合っていなかったとしても、この先そうなってしまうのだろうか。

 いや、もしかしたら知らないだけで既に他の誰かと……


 思わず、そんな不安に駆られてしまう。

 

「……ごめん。ちょっと飲み物買って来る」


 一緒にお昼を食べている由紀達にそう伝えて、教室を出る。

 少し気分転換がしたかった。

 

「……はぁ」


 ため息をつきながら、自販機で飲み物を買う。


 そして、少し時間を潰して教室に戻ろうと思った時だった。


「あっ……古賀さん」


 飲み物を買いに来た古賀さんとばったり鉢合わせたのだ。


「御影さん。こ、こんにちは……」

「こんにちは、古賀さん。今日は暑いねー。夏が近いからかな」

「そ、そうですね。早く教室のクーラーがついてほしいです」

「あっ、わかる! ほんとそれっ」


 軽く雑談を交わす。

 古賀さん、前までなら無言で会釈して終わりだったのに……


「……ねぇ、古賀さん。ちょっと聞いてもいい?」

「えっと……どうぞ」

「古賀さんってさ、千歳君と付き合ってたりするの?」

「つ、付きっ……!?」


 あっ、この反応……

 古賀さんの反応を見て、私は察した。


「古賀さんと千歳君っていつも一緒にいるから、そうなのかなーって思って。急にこんなこと聞いてごめんね」

「い、いえ……大丈夫です。えっと……わ、私と千歳君は……お友達です」

「……あと、もう一個だけ聞いてもいい?」


 古賀さんは小さく頷く。


「古賀さんと千歳君って、どういうキッカケってお友達になったの?」

「えっと……どうしてですか?」

「最近の古賀さんが前とはすごく変わったのって、きっと千歳君とお友達になったことが影響してるんじゃないかなって思って。だから、ちょっと気になっちゃってさ」

「な、なるほど……」


 それから、古賀さんは教えてくれた。


 不良に難癖を付けられて絡まれたこと。 

 その時、千歳君に助けてもらったこと。

 その後、千歳君と本音を語り合って友達になったことを。

 

「……そうだったんだね」


 古賀さんの話を聞いた私は平静を装っているが、内心かなり驚いていた。


 嘘……私と同じ……

 実は……私が悠斗と出逢ったのも、私が不良に絡まれていたところを彼に助けてもらったのがキッカケだったのだ。


 そして、古賀さんと私の同じところがもう一つ。

 不良に絡まれるなんてトラウマになっても不思議でない出来事だけど、その時のことを話す古賀さんの表情からは恐怖と言った感情は見られない。

 それはきっと、その出来事が古賀さんにとっては、千歳君と出逢って友達になるキッカケとなった大切な思い出でもあるからだ。

 

 私もそうだ。

 今思い出しても怖い出来事だったけど、それ以上に彼と出逢って初恋をするキッカケとなった大切な思い出でもある。


「話してくれてありがとう。急にごめんね」

「いえ……気にしていないので大丈夫です。では、私は教室に戻りますので」

 

 小さくなっていく古賀さんの背中が見えなくなった頃、私も教室へと戻った。


◇◆◇◆◇


 放課後。

 私は悠斗と並んで下校していた。

 

 今日遊びに誘ったのは悠斗だったけど、特に具体的なプランが決まってはいないらしいので、とりあえずショッピングモールへ向かうことに。


「それでさー……」

「……」

「夏美?」

「えっ、な、なに?」


 名前を呼ばれて我に帰る。


「夏美、なんか様子おかしくないか?」  

「…………ねぇ、悠斗。一つ……聞いてもいい?」

「いいけど、なにを?」


 この質問をすることに意味は無いかもしれない。

 でも……


「あの時のこと……覚えてる?」

「あの時?」


 でも、聞きたかった……知りたかった……確かめたかった。


「私と悠斗が初めて出逢った時のこと……不良に絡まれている私を悠斗が助けてくれたあの時のことだよ」

















「あー、そう言えばそんなこと・・・・・もあったっけ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る